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15.二人の門出、二人の真実

アーベライン公爵夫妻立ち合いのもと、無事2人の結婚式は執り行われた。


この日の為に仕立て上げられたドレスは、白を基調とし光沢のある刺繍とリボンによってマリアンネの清廉さと愛らしさを際立たせた。


「マリアンネ、改めて誓うよ。君を護ると」


「私を護る、ですか?」


「生活を保証すると言ったがそれだけではなくて、君をあらゆるものから護りたい。君が幸せであるように私は尽力するよ」


「アレクシス様…。私も貴方の幸せの為なら何でもします。どうかお傍においてください」


「君を手放せる気がしないよ、リア」


◇◇◇


邸に戻ると使用人ら一同に盛大に迎えられた。


「奥様、たいへんお綺麗です!」


「本当に奥様がこちらに来てくださったこと嬉しく思います!」


「皆さん、ありがとう。こちらこそ私を迎えてくださってありがとう」


マリアンネは涙を浮かべた。


「本日はおめでとうございます」


モーリッツは二人に近づくとお祝いの言葉を述べた。


「ありがとうモーリッツ。私室を繋ぐドアの鍵を開けてくれるか?」


「!、旦那様…」


「!」


マリアンネは目を見開きアレクシスを見つめた。


「良いだろうか?…リア」


「はい」


マリアンネは照れつつも、優しい微笑みを返した。



◇◇◇


マリアンネの私室では、ハンナが泣きじゃくっていた。


「嬉しいです!本当に嬉しいです!やっとこの日を迎えられるなんて」


「なんで貴女が泣くのよ。気持ちはわからなくもないけど」


冷ややかに突っ込みつつ、イレーネは支度をしていた。


「お二人には感謝ね。毎日美しくしてくれて、会話も楽しく聞かせてもらってたわ。勝手に友人になった気分でいたのよ」


「そんな友人だなんて恐れ多いです」


「それにしては貴女たちは私の前で自然体よ?でもおかげで楽しいの。私には友人がいないから。こうやってちょっとした会話をすることも、貴女たちの会話を盗み聞きすることも新鮮なのよ」


「盗み聞きですか!?」


「うふふ。貴女たちは黙々と仕事をこなすわけではなく、コミュニケーションをとりながら作業しているでしょ?仕事内容から脱線した話になってることも多々あるから私は楽しくて」


「聞かれていらしたのですね。お恥ずかしいです」


「いいのよ。これからも変わらずにいて」


マリアンネがニコニコと心弾ませてる様子が見てとれたが、いつもより饒舌なことにイレーネが気づいた。


「あの、奥様。もしかして緊張されてますか?」


その言葉にマリアンネはカーッと顔を赤らめた。


(恥ずかしい。人生50年目の気持ちでいるのに、初めてなんだもの……こういうの)


急に黙ってしまったマリアンネを察し、イレーネは対応を考えた。


「あの、夜伽についてお話は聞いたことありますか?」


わりとストレートに聞かれた質問に、マリアンネはさらに赤くなった。


「あの家政婦長をお呼びしましょうか?」


この邸で婚姻歴がある上級使用人の女性は家政婦長のフローラだけだ。


「いえ、大丈夫よ。聞いたことあるわ」


デビュタントに向けディアナが施してくれた教育の中できちんと教えてくれていた。本来は輿入れ前に行われるが、令息との交流が皆無で男性に対する免疫もないマリアンネが身を護れるようにという意味での教育であった。


(お母様が施してくれた目的は違うけれど聞いておいて良かった。それに経験はないけれど前世の知識はあるし)


ふうと息を吐き、心を落ち着かせようとしていると、


「旦那様に委ねれば大丈夫ですよ。さて、本日はとびきり美しくしましょう」


マリアンネはイレーネとハンナによって美しく整えられたのであった。


◇◇◇


(緊張する…。準備に時間がかかるだろうと整ったらこちらの部屋に来るよう伝えたが…。小説の内容も入ってこないな)


アレクシスは私室のソファに腰掛け、待っている間小説を読むつもりでいたが、本を開いて持っているだけになってしまった。


(やっとこの日を迎えることとなった。きっかけを作ってくれた姉上に感謝だ。結婚式を挙げることで改めて初夜を迎えることが出来たのだから。この日までにうまく距離を縮めることが出来ただろうか。リアは受け入れてくれるだろうか。私はもう愛しくて仕方ないのだが…)


するとマリアンネの私室に通じる扉から音がした。


「どうぞ」


ゆっくりと開かれた扉からマリアンネが顔を出した。


「お待たせしました。入ってもよろしいですか?」


「ああ」


マリアンネはいつもより薄手の寝間着に身を包み、赤く熱を帯びた頬にぷっくりとした唇は愛らしく、とても甘く良い香りを漂わせていた。


「…」


アレクシスは息を飲み、その場に固まってしまった。


「あの、そんなに見ないでください。とても恥ずかしいので…」


「あ!すまない…。その、とても美しくて見とれてしまった。こちらへおいで」


アレクシスはベッドへ腰掛けるよう誘導するとマリアンネはそれに従った。


「何をお読みになっていたのですか?」


「あれかい?あれは巷で流行っていると言われている小説だ。リアは王宮での事件を前世で読んだ小説を参考にしたと言っていただろう?どんなものでも知識を増やしておくことは無駄ではないと思ってな」


「あんなことはそうそうありませんが…。作り物の世界だとしても小説は人が生み出したものですもの。思い付くことは出来るでしょうね。ジャンルは何ですか?」


「ミステリーだよ。まだ事件が起こったところまでしか読んでないがね」


「ミステリー!私も好きなジャンルです。読み終わったら私もお借りしてよろしいですか?」


「ああ。もちろん。邸の書庫も自由に見てくれて良いからね。小説は少なかったがこれを機に増やそう」


二人は目を合わせると、「ふふっ」と笑い合った。


場が和んだ所で、アレクシスは話を切り出した。


「リア。待っていてくれてありがとう。君は美しくて愛らしい。傍にいればいるほど君に惹かれていく。君との関係を進めたいんだ。愛し合いたい」


「!…はい」


熱を帯びた目に見つめられ、マリアンネの心臓は跳ね上がった。


「ただ、その前に本当の私のことを知って欲しい。ありのままの私を」


「本当の、ですか?」


「ああ。なぜ私が『呪われた侯爵』という異名で呼ばれているのか」


そう言うと、アレクシスはシャツを脱いだ。



マリアンネは目を見開いた。アレクシスの左肩と左胸から胸の中心にかけて大きな茶色い痣があったのだ。


「私の身体には生まれつきこの大きな痣がある。驚いた両親は医師に確認すると、稀に見かけるが死に到るものではないことだけはわかっているという話だった。念のため呪術者を探しだし確認すると、呪いは感じられないから大丈夫だろうとお墨付きをもらい、両親は納得し普通の生活を送り私も結婚したんだ。ところが前妻は私のこの身体を見て嫌悪感を露にし呪われてると騒いでね。私との離縁後、社交の場で吹聴したんだ。これが『呪われた侯爵』の由来だ。また妻になった人に嫌悪感を向けられるのが怖くて明かすことができなかった。隠していてすまない…」


真剣に話を聞いていたマリアンネは質問をした。


「レックスが謝る必要はございません。その痣は大きさや形が変わったり色の濃淡が変わったりしましたか?」


「いや、ずっとこの形だし色も変わらないよ。しかしいったいなぜそんなことを…?」


「その痣は、扁平母斑です」


「へんぺいぼはん?」


「はい。お医者様は間違っておりません。死に至るものではありませんし移ったり遺伝したりするものでもありません。それに呪術者様も間違っておりません。これは呪いではなく、たまたまその部分の肌の色が違っているだけなのです」


「君は知っているのか?この痣を」


ふうと息をひとつ吐くとマリアンネは続きを話し始めた。


「私は前世に恋愛のスタートラインにすら立てなかったとお話しましたね?私も同じように生まれつきの茶色い痣があったのです。それも顔面に」


「…君も?しかも顔とは…」


「はい。私の前世はここよりも先進的な世界であったともお話しましたね。でもその世界でも完全に治せるものではありませんでした。美容形成という方法が無いわけではありませんでしたが、効果がある人の割合は処置を受けても1割もないと、逆に半端に効果が出現して斑になってしまう可能性もと言われ、私は両親と相談の上何もしないことを選びました。見た目って大切なのですよね。特に第一印象は視覚で決まります。顔に痣を持つ私が異性から好印象を持ってもらえることはありませんでした。でも、この記憶すらも貴方に出会い貴方を救うために必要なものだったのだとしたら、私はあの辛い日々を過ごした意味があったと思いたい…」


「リア…。辛い思いをしていたのは君なのに、それでも姉上を救い、邸の皆に癒しを与え、私をも救うことに君の辛い記憶が必要だったと言うなんて…!」


アレクシスはマリアンネをきつく抱き締めた。


「っ!レックス、く、くるしい…」


「っ!すまないっ!!」


アレクシスが腕を緩めると、自分の胸元にマリアンネの手が添えられているのを見てはっとした。


「…リア。君は気持ち悪いとは思わないのか?」


何のことだ?とアレクシスの視線の先を追うと、右手がアレクシスの痣に触れていた。


「思いませんよ。ただここの肌の色が違うだけです。それに、レックスの痣はまるでレックスがローゼンハイム侯爵家に選ばれたようにさえ感じます。この形、獅子に見えませんか?侯爵家の紋章にそっくりです。格好いいじゃないですか」


自分の欠点だと思っていた痣を利点であると言わんばかりの言葉にアレクシスは感動した。


「投げ掛けられた言葉ひとつでこんなにも違うのか…。私は…こんなにも…この痣に囚われていたというのにっ…」


溢れる涙を見せまいと左手で顔を覆った。マリアンネは立ち上がりアレクシスの前に向かい合うとアレクシスの頭をふわりと胸元に包み込み優しく撫でた。アレクシスはマリアンネの腰に手をまわしぎゅっと抱き締めるとマリアンネを見上げた。


「私たちは出会うべくして出会った。私もそう思う。私の全てを君に捧げる。君が幸せに暮らせるよう全力で!」


「レックス…!?」


アレクシスはマリアンネを抱き上げるとベッドに組み敷いた。


「リア、愛してる…君が欲しい…」


「私もです。愛してます…」


マリアンネはアレクシスを受け入れた。2人の熱は交わり、ひとつに溶けた。絡めた2人の指には指輪が輝きを放っていた。


◇◇◇


翌朝、目覚めたマリアンネの目の前には見慣れぬ天井があった。


(…あ、私、昨日……)


「目が覚めたか?おはよう、リア」


部屋の外に出ていたのか、アレクシスは入り口から入るなりマリアンネを確認すると声をかけてきた。


「レックス…、おはようございます。私ずいぶんと寝ていましたか?」


「いや、そんなことないよ?今洗面の準備をお願いしたところだったんだ。朝食も部屋で食べようか。ここでゆっくりしよう」


「でも…、っ」


マリアンネは身体に違和感を感じ、起き上がれなかった。


「すまん。無理させてしまったな」


どういうことかマリアンネも漸く理解し顔を赤く染めた。恥ずかしくなったマリアンネは布団の中に潜ってしまった。


「リア…」


「…」


「マリアンネ」


「…はい」


「愛してるよ」


「……私もです」


「顔を見せて?」


そろそろとマリアンネが顔を出すと、渡したい物があるとアレクシスが箱を抱えてきた。


「開けてみて?」


「これは?」


「昨日のドレスを作るのに残った生地や端切れも買い取った。自由に使ってもらって構わない。ただ、私としては『くまさん』を2体作ってもらえると嬉しいな」


「夫婦の『くまさん』ですね!」


「ああ。ずっと一緒にいよう、リア」


「はい!」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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