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1.マリアンネ・ハインツェル

掲載始めました、新連載です!

この国では稀に前世の記憶を持って生まれてくるものがいた。この世界を変える程の記憶を持つ者は『天授びと』と呼ばれ爵位を賜り生活は保障される。しかし、役立つような知識や能力がなかったり、役立てられる環境に生まれなければ『天授びと』に認められることはなく、前世の記憶を持つことは全く以て意味がなかった。


マリアンネはそんな一人であった。非常に貧しかったのだ。


ハインツェル伯爵家の一人娘だったマリアンネの母ディアナは政略結婚により伯爵家次男クリストフ·フォルスターを婿に迎えた。マリアンネが生まれるとハインツェル伯爵は倒れ寝たきりとなってしまった。マリアンネが5歳の頃弟ユリウスが誕生し、それを見届けるようにハインツェル伯爵は亡くなるのだが、なんとクリストフは金品等の資産を全て持ち逃げし行方不明となった。爵位は嫡孫となるユリウスが継ぎディアナは伯爵家を維持するべく経営していた。なんとかマリアンネのデビュタントを迎えたが、程なくしてディアナが亡くなってしまう。以降はディアナに代わりマリアンネが幼いユリウスを支えるべく経営に励んだ。


その頃、クリストフの兄でありマリアンネの叔父であるランドルフがフォルスター伯爵を継いだ。ランドルフは弟の愚行に対する謝罪と微々たるものではあったが支援開始を申し出てくれた。


ユリウスのデビュタントまであと約半年、マリアンネが20歳となったある日、ランドルフがハインツェル家を訪ねてきた。大事な話がしたいとのことだった。


マリアンネはランドルフを応接室に案内し、ユリウスとともに話を聞くことにした。


「いつもご支援ありがとうございます、叔父様。どのようなお話なのでしょうか?」


「うむ。実は、娘のエミーリアとシュトラウス侯爵が結婚する運びとなったのだ」


「まぁ!それはおめでとうございます!」


「ありがとう。エミーリアは一人娘だがシュトラウス侯爵はエミーリアの嫁入りを望んでいらっしゃるから、我がフォルスター伯爵家の後継ぎを考えなければならない。そこで、ユリウスを養子にと考えているのだが、どうだろうか?」


「ユリウスをですか?」


「ああ。エミーリアが婿をとり男児が生まれればその子が継げたのだが、それが難しいとなると、血縁男子であるユリウスに継承権があるからな。爵位を継ぐだけなら今のままで構わないのだが、フォルスターとしては息子に継がせたということにしたいと思っている」


「では後に、ユリウスは二つ爵位を持つことになると?」


「そのようになるな」


「それは、ユリウスにとってありがたいお話ですね。それに、ここでの生活よりフォルスター伯爵家での生活の方が比べ物にならないくらい良いに決まってます」


マリアンネは良い話にほっとし、安堵から涙が溢れるのを堪えた。


「ユリウス、君の考えはどうかな?」


「ありがたいお話です。しかし、養子に迎えてくださるのは私だけということですか?姉上はどうなるのですか?ここまで支えてくれた姉上は?」


「うむ。そのことなのだが、縁談はどうだろうかと考えている」


「縁談ですか!?私のようなものを娶りたいと申し出てくださる方などいらっしゃるのでしょうか?」


家事仕事によって傷んでしまっている身なり、栄養も足りず小柄で貧相な身体、貧乏伯爵家の娘のため資産もなく、持っているのは貞操だけ。


「実はこちらも目星はついていてね。先方には話を進めてあるのだ。マリアンネが縁談を組んでも良いと言うのであれば、すぐにでも実現するのだよ」


マリアンネはとても心配であった。待遇が悪かったりするのではないか。酷い扱いを受けるのではないか。とはいえ今でも小間使いのように働いている。使用人の一人として置いてもらえるだけでも、ありがたいかもしれないと考えた。


「あの、いったいどのようなお方なのでしょうか?」


「うむ、お相手はアレクシス·ローゼンハイム侯爵様だ」


「侯爵様ですか?そんなお方が私と?あの存じ上げないのですが、独身でいらっしゃる理由がおありなのでしょうか?」


「心配になるのもわからなくはない。侯爵様からもマリアンネに話を通すことを条件として提示された。きちんと紹介しよう。侯爵様は30歳だ。1度離婚歴があるが子供はいらっしゃらない」


それだけ聞くに、普通にあり得ることであろう。30歳まで独身でいる方が何か問題がありそうだ。


「離婚歴があると次の縁談を探すのは難しいでしょうが、家格も考えると私なんかでなくても容易である気がするのですが…」


「そうだな。それだけなら問題はないのだろうが…。他のご令嬢が寄り付かない理由がある。それは、侯爵様が『呪われた侯爵』という異名をつけられ噂されていることにある」


「呪われていらっしゃるのですか?」


「本当のところはわからない。事の発端は侯爵様の前妻が広めたからだと言われている」


ここまでの話にユリウスは黙ってられなかった。


「叔父上はそんな侯爵様との縁談を姉上に?」


「気を悪くしないでくれ、ユリウス、それにマリアンネ。マリアンネに縁談を用意しようと考えた頃に、ちょうどローゼンハイム侯爵邸で執事をしているモーリッツ様から侯爵様のご結婚相手を探していると相談されたんだ。私は侯爵様を知っているが仕事の出来る優しい青年だと思っている。だから呪われているなんていうのは噂でしかないと思っているんだ」


ユリウスの今後を考えるとこのままハインツェル伯爵家に残る訳にもいかないだろう。自分の価値を考えても侯爵家に嫁ぐということは普通ならばありえないことだ。お相手がどんな方であれ望まれて身請けしてもらえるならばと、マリアンネは覚悟した。


「今まで、叔父様には良くしていただきました。叔父様が持ち込んでくださった縁談ですから、私は喜んでお受けいたします」


「!?姉上!!」


「…大丈夫よ、ユリウス。あなたも私も未来は輝かしいと思いましょう」


ユリウスは拳を握りしめ泣いていた。


「そうか良かったよ、マリアンネ。では話を進めていく。縁談をしっかり纏めてくるから、私に委任してくれると助かる。このハインツェル伯領とユリウス·ハインツェル伯爵のことも任せて欲しい」


「はい、お委せいたします。よろしくお願いいたします」


こうして、マリアンネは、ランドルフが持ってきた縁談に、人生を託すことにした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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