第三幕十二話
俺は偶然、レイチェル騎士長とランス様の会話を聞いてしまった。そして、隣にはジャスミンがいた。
「エド、盗み聞きは良くないと思われます。今すぐ、処刑されるべきです。」
「その場合、お前も同罪だぞ。仲良く心中したくねえな。」
ジャスミンとは小さい頃から、一緒にサポートの訓練をしていた。家系的に俺は秘書、ジャスミンは連絡係という違いはあるが、一緒に教えられていた。
「私はあなたとなら、構いませんよ。」
「え……?」
素のトーンのジャスミンに心を揺さぶられる。
「冗談です。あなたと心中するなら、巨人族に踏み潰された方がましです。」
「おい、さっきから俺に当たりが強くねえか?」
「気のせいですよ。」
いや、気のせいじゃ……
「さっきからではなくて、ずっと前からです。」
「そっちの方が良くねえよなあ、おい。」
たんたんと答えるジャスミンについ、ツッコミを入れてしまう。普段はこんな感じだが、大事な時は優しくしてくれる……と信じている。
「それにしても、レイチェル騎士長って何者なんだ?」
「……。」
「そういえば、人族との戦況はどうなんです?」
「いや、当たり前のように無視をするな。」
「あっ、あっちにバナナです。」
「え……マジマジ?」
指を刺された方向をつられて見ると、バナナ頭のエルフがいた。
「いや、そういうバナナは求めねえんだけど。」
「どうぞ。」
ジャスミンの手には本物のバナナが握られている。
「え……創造魔法使えたのか?」
「使えるわけないですよ。バカなんですか?」
「う……。」
ジャスミンは一途の契約をしているから、念話魔法については最強だが、他は出来なくなっている。
「なんでも、出来る器用貧乏さんが羨ましいです。」
「それ、全く嬉しくないんだけど……。」
俺は秘書なんて大した職業だが、魔法適正が全て高いこと以外に取り柄はない。何でもできるけど、何も出来ない、それが俺だ。
「俺もジャスミンみたいに何かを突出させたい……。」
「なら、一途の契約をしたらどうでしょうか?ほんとにあなたがそう思っているのなら、いいと思いますよ。」
「けど……何がいいかな?」
自分は何の魔法を突出させたいのだろう?
「それすら分かっていないのなら、する必要がないということです。」
「たしかに……。」
俺が途方にくれていると、ランス様が来た。
「エド、人族との戦況はどうなっている?」
「レイチェル騎士長の作戦が成功しており、暗殺部隊によって人族を四分の一まで減らした模様です。しかし、こちらの暗殺部隊の生き残りはおよそ二十人になりました。」
「オーケー、ありがとな。また、戦況が変わったら教えてくれ。」
ランス様はそれだけ言い残して、どこかへ行ってしまった。
「なんか、ランス様、いつもと違わなかった?さっき聞いた話のせいか、怒りが隠せていない気がする。」
「エド……よく分かりますね。やはり、あなたは秘書としては優秀なんですね。」
「俺の他の全てを否定しないでくれ……。」
ホント、他にも役にたつと思うよ。何にかは分からないけど。
「まあ、これからも秘書として頑張ってくださいね。」
「おう。」
俺はこの時、一途の契約をする日が来るなんて思ってもなかった。




