第三幕八話
この前、何故獣族は俺らの騎士長が変わったことを知っていたのだろうか……。もしかして、スパイ?
「エド、最近獣族に接触した者を全員集めてくれないか?」
「かしこまりました。」
しかし、集めた所でどうする?俺らに嘘を見抜く能力なんていない。かといって、全員を拷問するのは間違っている。
「どうしたの、ランス?」
扉からレイチェルがひょっこり出てくる。
「いや、獣族のスパイがいるんじゃないかなって思って探してるんだよ。」
「あー、ミシェルのこと知ってたから?」
俺はそれに無言で頷く。ミシェルは今頃、何をしているのだろうか?
「普通に内地で話題になってたりするんじゃない?」
「俺らが内地に行った時、そんなことはなさそうじゃなかったか?それに、それなら誰かから連絡があると思う。」
うーんっとレイチェルは顎に人差し指を当てて唸る。
「スパイがいるとは考えたくないんだけどなあ。」
レイチェルは魔女だけど、相変わらずエルフを信じて大切にしてくれている。いつか、エルフを滅ぼす日までは……。
「そもそも、革命があったなんて信じられるのかな?」
「それもそうなんだよな……。」
てことは、スパイは結構前から居るのか……?けど、獣族に協力するメリットは?獣族がエルフに潜入するのは不可能だ。それか、ハーフ?
「まずは、ハーフから探すべきかな?」
レイチェルも同じ結論に至ったようである。しかし、ハーフを探すのも難しい。
「俺もそう思うけど、どうやって探すの?」
「密告を待つしかないよね……。」
それでは見つからない予感がする。
「あ……もう一つ、可能性があったよ。」
レイチェルは次の言葉の前に一呼吸おく。
「ミシェル本人が伝えに行ったんだよ。私が前線に出てくるのを見越し、そして私を殺して騎士長に復帰するために。」
「確かに筋は通るな。」
本人が伝えて獣族の陣地内に居れば信用は出来るし、動機もある。
「そしたら、他の種族にも伝えられているかも……。」
色んな種族が一気に攻めてくる可能性が出てきた。そうなると流石に対応しきれないだろう。
「人族の方向は一つ仕掛けがあって、魔族は絶対、攻めてこなくて鬼族にはランスが巨人族には私が対応する?」
確かにそれは十分な対応策だが、対抗策にはならない。ミシェルがこれからどう動くかもまだ分かっていない。
「なあ、騎士長が変わったことを全種族に伝えたらどうだ?そしたら、エルフが安定しているのが伝わる。それに、獣族の話は自然と広まると思うんだ。」
レイチェルは三秒ほど目を閉じて考える。たった三秒、しかし常人の百倍のスピードでシュミレーションされているのだろう。
「分かった。てことは、ジャスミンにお願いしてからは様子見だね。」
「ああ、俺からジャスミンにお願いしとく。」
「よろしくね。」
「あ……あと、」
俺はレイチェルを一旦呼び止める。
「レイチェルの魔力ってめっちゃ増えた?」
三万の獣族を殺したということは、三万の獣族分の魔力を得たということだ。
「いや、一パーミルくらいしか増えていないよ。」
俺はその事実に打ちのめされる。三万もの獣族の魔力はレイチェルの魔力の千分の一にしかならないということに……。
今度こそ、レイチェルに手を振って、ジャスミンの元へ向かう。ジャスミンの部屋をノックすると、まるで来るのが分かっていたみたいなタイミングでジャスミンも扉を開けていた。
「ジャスミン、これから伝える内容を戦地の全種族に伝えてくれないか?」
「かしこまりました、ランス副騎士長。」
ジャスミンには死の誓いをさせた身だから、少し後ろめたい。その時の選択を悔いていないが、悪いと思っている。
「申し訳ありませんが、全種族となりますので、少々時間を用します。」
「問題ないよ。よろしくね。」
俺はそれだけ言い残して、ジャスミンの部屋を後にする。それにしても、人族への対策とは何なのだろう。それが上手くハマればいいのだが……。




