土魔法は国家の礎
土魔法という最強の土木工事技術がなかなか注目されないので、自分の頭の中で考えた土魔法の便利さについて書いてみました。
始めにこの文章の中で言う土魔法について前提を共有させてください。
①手元に鉱物の構成物を成形して敵の方に飛ばして攻撃する魔法
②周囲の地面に干渉し、その形を変える魔法
個人的には、①って土魔法と言うか土を作って"飛ばす"魔法なので主体は念動力だと思ってます。なのでこの文章で言う土魔法は②が可能なことを前提とさせてください。
さて、多くの異世界もので冷遇されてるかあまり目立たない土魔法ですが、国として最も大事にするのは土魔法のはずです。
と言うのも国の繁栄と言うのは常に土木工事と共にあるものだからです。古代でも治水や灌漑、インフラの工事をした文明が栄えてきました。現代日本で言えば広大な国土に張り巡らされた道路や鉄道、トンネルといったインフラであり、多くのダムや堤防、農業を支える灌漑工事も土木工事で作られるものです。土を掘って別の場所に盛るという単純な作業でさえ人力でやっていた時代は非常に大勢の人間と長い時間が必要でした。大勢の人間を長い期間雇用するのは負担が大きく、国として成熟している必要がありました。
土魔法はその負担を大幅に軽減できるのです。皆様が土魔法で出来る事を想像した際、その内容は千差万別になると思いますが最低限"土を掘って別の場所に盛れる"、"土を固める"ができるだけでも土木工事に置いて引っ張りだこになることは間違いありません。
物語の舞台がよくある中世っぽい割に謎に用水が整っていて清潔な世界だとするならば、そこには間違いなく土魔法使いによるインフラと用水を目的とした上下水道の工事がされたと考えて間違いありません。
史実の中世ヨーロッパでは清潔な水を得るための工事は殆どできませんでした。飲み水を得る上水道どころか下水道の設備もされなかったため排泄物を窓から捨てていたという話は皆さんも聞いたことがあるのでは無いでしょうか。ごく一部に整備された水道もありますが、それは決して普遍的なものではないのです。
多くの人は水を得るために河川や井戸に足を運ぶか、水を持ってきた人に対価を払って水を得ていました。
また、土魔法があれば開拓も非常にスムーズに進みます。硬い地面を掘り起こして農地にするのも、井戸を掘るのも土魔法なら簡単です。最寄りの町から開拓村までの道を簡単に平らな土の道にしてもらえば行商人も来てくれるでしょう。魔物がいる世界なら村の周りにぐるっと壁と堀を作れます。
もちろん土だけ耕しても農作物は育ちません。水を確保する必要がありますがそれも土魔法での治水灌漑工事により、より広い範囲で水を利用することができます。
土魔法の有る異世界は広大な土地を容易く農地に変えて大勢の人間を養うことができるでしょう。
戦争ではどうでしょうか。
土魔法があったらまず間違いなく歩兵を並べての野戦はなくなってしまいます。どこで戦おうとも必ず土魔法使いによって最低限でも塹壕が掘られ、騎兵や歩兵の突撃を防ぐために前に突き出す槍のような障害物や騎兵や前進してくる近接歩兵の脚を潰すための凹凸が塹壕の前に作られます。
さらに土魔法が土を堅く出来るなら塹壕に留まらずどんどん要塞化が進みます。土魔法でできることが増えるということは火や水の魔法で出来ることも増えるので、それらの攻撃を防ぐために戦場には塹壕だけでなくあちこちにトーチカやより強固な壕がいくつも作られます。
異世界の戦争での遠距離攻撃の手段として弓や弩などが使われますが、土や石で出来た壁は弓では壊せません。ですからどんどん大型化したり魔法を用いて威力と射程を上げる改良をしていくはずです。火薬のような爆発物が発明されないうちは投石器がどんどん大型化していきます。
塹壕もトーチカも史実の砲撃に耐えるための物ですから、仮に爆発を起こせる火の魔法使いがいても壊せないように作るのは間違いありません。爆発物、つまりは榴弾で抜けないのならば徹甲弾等の運動エネルギー弾で抜くしかありません。異世界に大砲の概念ができたのなら火魔法使いは土魔法使いが作った岩の砲弾を大砲から打ち出す火薬として運用されます。
このように火の魔法に限らず様々な魔法や兵器が可能な限りの物理的破壊力を求めて改良を繰り返されるでしょうから、戦場はより一層大勢の人間が簡単に散る地獄のような戦場になっていきます。仮に冒頭に書いた土魔法の能力の①が可能だった場合は攻撃にも防御にも土魔法を使うことになるので土魔法の価値がさらに上がります。
また、砦攻めも史実よりも地獄絵図になるでしょう。なんせ土魔法という強力な土木工事技術があるのですから砦は史実の砦よりも遥かに広大で大きく、強固なものになります。見上げるような城壁が複数枚あるのは当然でそもそも砦の周囲もまともに攻められないようにしているはずです。
城壁も史実の城壁の様に石材を積んで作る城壁ではなく、土魔法により作られた城壁は継ぎ目を潰して岩盤のような一枚岩の城壁になりますから投石器のような質量弾による攻撃にもより耐性を持ちます。同様の理由で砦内の建築物も非常に堅牢になりますし、土魔法で修理もできるのですから投石器で砦を崩すというのは非現実的になります。
そのため城壁の戦いは地上はもちろんの事、地下でも城壁を崩すためのトンネル掘りとそれを防ぐ側とで血みどろの戦いが繰り広げられます。砦の中からも外からも投石器による攻撃が絶え間なく行われるでしょうし、それに耐え膨大な犠牲を出しながら攻略した城壁が一日で修復されたり、崩した城壁のすぐ奥にもう一枚城壁やキルゾーンが作られて待ち受けられるなんて事も当然のように起きるでしょう。
大分長くなりましたが、要は魔法という技術が進むにつれて土魔法による戦争における防御側の優勢が強化されていくということです。塹壕戦が廃れた理由である航空機や戦車などの機動戦力が生まれるか、魔法でもなんでもいいですが何らかの攻撃手段が砦や塹壕、トーチカといった防御陣地を消し飛ばせるレベルに達するまでは戦争は第一次世界大戦の総力戦での塹壕戦になります。
総力戦をやるには人口が足りないと思いますか?史実ではアンモニアの合成ができるようになったことでそれを原料にした化学肥料が普及し、多大な人口を養えるようになりました。異世界作品でハーバーボッシュ法でのアンモニア合成を可能にして化学肥料を普及してやったぜという作品があるかはわかりませんが、少なくとも土魔法があるならば単純に広大な農地と膨大な治水灌漑工事により多大な人口を養えるようにできる可能性は十分にあります。
土魔法は火薬すら作られない未熟な科学技術の文明でもあっても近代戦争が可能なほどに国内を発展させる可能性を持っているのです。
ここに書いたことは私の頭で想像できた内容からさらに削った物であり他にもまだまだ様々な土木工事は存在しますし、土魔法という概念によって変わるものもあります。しかし少なくとも国家を経営するにあたって土魔法を使える人間を確保するのが必須となるのは間違いありません。
私、NAISEI作品とかあまり好きじゃないんですよ。中世に現代のルールや技術持ち込んで実現できるわけないじゃないですか。教育を受けた人間が少ない世界で複雑な規則って普及しないし、冶金技術が低い世界で製造できるものって大したことないですし。技術でも規則でも簡単に普及するなら現実の南アフリカ諸国がいつまでも苦労してるわけないでしょう。
でも土木だけは多少先進的な構造でも堅牢に作ってしまえばあとは維持管理くらいですし、そうでなくとも割と力技でどうにかなるのにあまり書かれないの寂しいですよね。誰か書いてね。