邪神討伐戦・開始
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テテーン♪ 『勇者が 仲間に なった』
というわけで、勇者が魔王軍に加わることになった後、俺たちは主要なメンバーを集めて会議を行った。
会議とは言っても、その内容と結果はすでに決まっている。邪神、あるいは神樹の討伐だ。
なので、話し合った内容はそれに関すること。具体的には、誰がどう攻めるのかという話だ。
その会議を終えた俺たちは、さほど時間を置くことなく、されどしかと準備を整えて戦い——決戦へと臨むこととなった。
今俺たちの前には、準備を整えた数万の軍隊が整列している。
だが、ここに集まっているのは今回やってきた援軍の全てではない。今回は『コの字型』になるように配置されており、俺たちの正面にいるのは全体の一部でしかないのだ。
こうしている間にも前線では戦いが続いているので、そいつらからしたらさっさとしろと言いたいかもしれないが、こういう時の整列、そしてその後の指揮官からの言葉ってのはみんなの意識、認識を一つにまとめるという意味で重要な意味がある。
そして今、その指揮官からの言葉がここではなく両脇に布陣した者も含め、今回の戦いに参加する全ての者へと届けられる。
「——なぜ自分たちが戦わなければならないのか。何故聖国のために戦うのか。そう思っている者もいることでしょう。実際、我々には聖国のために戦う義理などありません。ですが、聖国のために戦う理由はなくとも、我々が戦う理由はあります。それは、自分たちのためです」
皆の視線の先、壇上に立つのはフィーリアだ。
それも当然だろう。今回の総大将は俺だが、『この軍』にとっての大将は自国の姫であるフィーリアなのだから。
今俺たちの前に並んでいる数万の兵。その大半がフィーリアが引き連れてきたザヴィートの兵だ。
そんな彼らからしたら、俺みたいな部外者よりも、フィーリアの言葉の方が心に入りやすいだろう。だからこそ、この演説はフィーリアに任せることにしたのだ。
「あの邪神は進路を我々のいる方向へと向けています。つまり、このまま進めばザヴィートを襲うということです。そこは我々の家であり、我々の家族が暮らす場所。あの邪神がたどり着いてしまえば、私たちの大切な者達が悲しむこととなるでしょう。——それを、認めても良いのですか?」
フィーリアはそこで一度言葉を止め、目の前に立ち並ぶ兵たちを見回してから首を横に振って再び口を開いた。
「認めてはなりません。そのようなことを、決して認めていいはずがありません。故に我々は戦うのです。我々は勝てます。これは根性論や希望論ではありません。純然たる事実。それに足るだけの証拠があります」
その言葉を受け、親父が数歩前に出て行ったが、一瞬だけどものすごい嫌そうな顔してたな。まあ当然か。俺だってそうなる。
「以前、王都にて巨人の襲撃があった際、それを撃退した時の光景を存じている者もいることでしょう。あれは私達の仲間である第十位階の者が行ったことです。——ですが、ただ第十位階というだけであれだけのことができるとお思いですか? 空に数百と浮かぶ魔剣と聖剣を自在に操り、巨人でさえお遊びのように切り刻むことができるなど、ただの第十位階にできるでしょうか? いいえ、そんなことはありません。事実、王国の第十位階は巨人の前に負けています。では何故そんなことができたのか。それは、彼が第十位階という人間の限界を超えた第十位階……言うなれば、『超越位階』だからこそです」
フィーリアの隣に立った親父は、続けられる説明のせいで晒し者となっている。
そうなるだろうなとは思ったし、そう思ったからこそ親父も嫌な顔をしていたのだ。だが、それでも必要なことだと理解したからこそ、あそこに出て行った。
けど、親父があんな晒し者にされるとは……ははっ、笑えるな。……はあ。まあ笑ってばかりでもいられないんだけど。
しかし、超越位階とは上手いこと言うな。人は特別な存在が自分たちの味方だとわかると調子に乗るものだからな。その特別をわかりやすい形で言い表したんだろうが、なるほど。確かに超越位階なんて良い呼び方だな。
「人の身では勝てない? ならば、人の限界を超えた者ならば? 人という枠組みを外れ、神にすら手を伸ばすものであれば?」
そう言ってフィーリアが手で示すと、『勇者』が数歩前に出ていった。
それに合わせて、俺も姿を見せる。——『魔王』の上にな!
なんで俺だけここなんだよ。こんな場所で目立つとか、とんだ恥晒しだ。『魔王』だから一括りにまとめてみましたって? ふざけんなよ、くそっ。これならまだ親父の方がましだ。……ああ、恥ずかしい。
しかも、視界の端で母さんが笑顔でこっちみてるのが余計に恥ずかしい。やめて、手を振ってこないで。俺の視線に気づいたからって、なんの反応もしなくて良いんだ。
「加えて、私たちには伝説に謳われる『勇者様』がついています。それだけではなく、『魔王』すらもが私達の味方です——私達は勝てます。勝って祖国を守り、家族を守り、英雄として帰還しましょう」
そんなふうに晒し者になった意味はあったようで、フィーリアが話し終えると途端に兵達から雄叫びが上がった。
「ザヴィート王国の勇士達よ! 武器を構えよ!」
その言葉で一斉に反転し、すべての兵が邪神へと狙いをつける。
そして……
「総員、進軍開始!」
数万に及ぶ大軍が、一つの生物となって進み始めた。
その動きは、速いとは言えないものではある。むしろ遅いと言えるだろう。
だが、確実に一歩ずつ進み、前線で戦っていた者達と合流すると、その場にいた変異生物達を駆逐し始めた。
一人一人の力は大したことはない。ぶっちゃけるならクソ雑魚だ。
だが、それでも数の暴力とは恐ろしい。一体の敵に数人で当たって確実に殺しながら進んでいく。数人で当たるから怪我もなく、疲労も少ない。
とはいえ、この兵たちで邪神を倒せるのかと言ったら、多分……というかほぼ間違いなく無理だろうというのが俺たちの考えだ。
当たり前だろ? 相手は親父ですら戦いたくないっていうほどの存在なんだ。一般の兵が勝てるわけがない。
だがそれでも進ませているのはそれが作戦だから。
今回の作戦の流れとしては、こうだ。
まず邪神の進路上に布陣をする。そうすることで向こうからこちらに近づいてくるわけだが、そこにこちらからも向かっていき、周りの雑魚達を片付ける。一般兵達でも、邪神は無理だとしても、周りの雑魚達ならやり方次第でどうにかできるからな。
兵達が雑魚を蹴散らしていき、敵の数が減ったところで本命の戦力が敵の中を突っ切って邪神に攻撃を加える。
基本的な流れとしてはこれだけだ。
本命が突っ込んで行っても倒せなかったら、その時は逃げる。だってこの場で用意できる最高戦力が協力してるのに倒せないんだぞ? 足掻いたって無理に決まってる。だったら一旦引いて、再び戦力をそろえて挑んだ方がいい。
そうするとフローラやリリアのところの聖樹が危険になるが、あそこに辿り着くまではそれなりに時間がかかるだろうから、ギリギリ間に合うと思う。
最悪の場合、俺が聖樹本体を使って依代を作り移動させる。だが、それは本当に最悪の場合だ。できることならそこまで行く前にどうにかしたいし、失敗なんてしないつもりで挑む。
最初から本命の戦力だけで挑めばいいじゃないかと思うかもしれないが、確かに一般兵達に任せるより俺達が暴れた方が早いし楽だろう。
だが、その場合はスキルを使うことになる。
できることなら、スキルの回数は全部邪神を攻撃するのに使いたい。なので、露払いは他に任せることにしたのだ。
とはいえ、一般兵が敵の雑魚を倒したとしても、敵は無限に生み出されるのだ。そんなもの倒しようがない——というわけでもない。
何せ、今までだって敵の増加を上回って倒し、生き残ってきたのだ。要はそれと同じことをやればいいだけ。ただ、今回は守りじゃなくこちらから攻めていくというだけ。
「随分と堂に入ってるな」
敵の雑魚が減るまでやることがない俺は、兵達が動き出したのを見届けてから魔王の上から飛び降りてフィーリアの元へと向かった。
「お兄さま。ええまあ。これでも皆の前に立つ機会はそれなりにありましたから。それよりも……」
「今は目の前のことを、だな」
「はい。この後は砲撃ですよね?」
今は目の前に集まってきている雑魚の処理をさせているが、邪神の生み出した生物はそれだけではない。
こちらに襲いかかってこそしないが、邪神のそばには悠々と歩く大型の魔物達の姿もある。
それがどれだけ本体と同じように戦えるのかと言ったら謎だけど、大きいというのはそれだけで脅威だ。そのため直接剣を交えて戦わず、遠距離からの攻撃で仕留めようという話になった。
もちろんそれで全部倒せないかもしれないが、あらかじめ遠距離攻撃で敵の数を削るのは常道だ。なのですんなりと決まった。まあ、こっちには遠距離に特化した第十位階もいるしな。
「ああ。もう少し進んで敵が動き出してから、だよな」
「はい。できるだけ近づいてからの方がいいでしょうから」
できるだけ接近し、敵が動き始めてからが本番。
魔物を駆逐するだけだったら距離をとって先に仕掛けた方がいいんだけど、今回の敵は邪神であって、周りの雑魚じゃない。雑魚をいくら倒そうとも、邪神に近づけなければ意味はなく、そもそも雑魚を駆除し切ることなんてできやしない。
そのため、できるだけ邪神本体に近づいて、少しでも邪神との距離を縮めてからの戦闘開始となった。




