援軍の到着!
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神樹から生み出される変異生物と戦い始めてから三日が経った。
その間俺たちはずっと戦い続けていた。
朝もなく夜もなく、ただひたすらに迫り来る敵を殺して殺して殺して……死体の山を積み上げていった。
だが、それでも敵の数は一向に減らない。当然だ。こいつらはどこかからか来ているんじゃなく、あの神樹から生み出され続けているんだから。
神樹が生み出すよりも速いスピードで敵を処理していかなくちゃいけないのだが、そんなことをやり続けることなんてそうそうできるものではない。
戦い始めた最初は良かった。みんな余裕を持っていたし、軽く手を抜きながら戦っても敵を処理することができた。敵の生成速度を上回って倒すことができていたのだ。
流石はカラカスの住人。伊達に高位階が集まってるわけじゃない。
でも、それがずっと続くとなると消耗していく。ローテーションで休んでいるが、こんな状況では満足に休むこともできず、ろくに休む事ができないからスキルの魔力も体力も、どれも完全には回復しない。それでもこの終わりの見えない戦いに参加しなくちゃいけない。
そんなのは最初からわかっていたことだし、みんなに伝えてあったことだ。この戦いの目的も、厳しさもな。
だが、実際にこの状況になると想像以上に厳しい。
こちらは疲労が溜まり、相手は疲労なんてなく命を捨てて襲いかかってくる。
今はなんとか戦線を維持できているが、この状況ももってあと二日か三日。どれだけ頑張っても一週間ってところだろう。
しかも、なんだか俺のところだけやけに敵が多い気がする。多分戦いすぎてそう思えるだけなんだろうが、そう思えてしまうくらい疲れてるんだと考えると結構やばい状況だ。
「おい婆さん。なんか方法ないか? いい加減処理しきれなくなってくるぞ」
王ではあるものの、当然ながら俺も戦闘に加わっているのだが、今は休みが回ってきたので後方にいた婆さんの元へと話に来た。
そんなことをしても無駄だってのはわかってる。何せ、どうにかする方法なんてものがあるんだったら最初からやってるからな。
そうとわかっていても、それでも聞かずにはいられなかった。聞くことで返ってくる答えなんてわかっているし、現実を突きつけられるだけだってこともわかっている。だが、聞くことで少しでも気を紛らわせたかったのだ。
「こっちだってヤルことヤってんだ。ぶーたれてないでテキパキ動きな」
婆さんは今も《変身》を使うことなく本来の姿で戦っている。戦っているといっても、婆さんの場合は味方の強化支援だし、その強化方法がちょっと戦いとは思えないようなアレだけど。
でも、役に立っているのは確かだし、それがなければもっと厳しい戦いになっていただろう。
それこそ、こんな話し合いなんてしてる余裕もないくらいには。
「援軍はいつくるんだったっけ?」
「さあね。連絡を出してからもう五日経ってんだから、あっちがチンタラしてなきゃそろそろ来てもおかしくはないとは思うけどねえ」
カラカスからここまでは五日なんかじゃたどり着けないが、それは普通にやって来た場合だ。荷物を何も持たず、後先を考えずに走り続ければギリギリ五日でここまでくることはできるだろう。
そんな状態でこっちにきても疲労困憊でろくに戦えないだろうけど、今は援軍が来る、というだけでありがたい。その情報があればまだ戦える。援軍だって、疲れているかもしれないが休めば戦えるようになるわけだし、翌日には純粋に戦力が増えることになるのだ。
だから、早く来てほしい。
「魔王様! カルメナ様! 通達にあった援軍がやって参りました」
「ちょうど来たな」
なんて思っていると、本当にちょうどタイミングよく援軍がやってきたという報せが届いた。
その報せを持ってきた部下の声は弾んでおり、顔を見ずとも安堵しているのがわかった。
だが、その援軍を迎えようとそちらへと歩いていったのだが……
「親父!? 母さんも! なんだってここに……!?」
今までは見なかった人だかりができているその場所に、なぜかカラカスを守っているはずの親父と母さんの姿があった。
「お前が要請出したんだろ。追加の援軍よこせって」
「は? ああ、まあ、いや、確かにだしたけど……」
確かに援軍をよこせって言ったけど、それは一般の部下を寄越せって話で、親父達を呼んだわけではない。
もちろんこんな状況だ。親父達みたいな戦力として期待できる者が来てくれたことは素直に嬉しい。でも、やっぱりどうして親父達がこっちに来たのか分からなかった。だって、親父達はカラカスを守ってたはずだろ?
「俺も来るつもりはなかったんだがな。お前からの連絡を聞いてリエータがな」
「母さんが?」
「だって心配だったのよ! ヴェスナーちゃんが聖国に行くってだけでも危ないって思ってたのに、その上邪神だなんて訳のわからないものがあなたのことを狙ってるんだもの。心配しないわけないじゃないっ……!」
親父が指差した方を見ると、そこには母さんが安心からか潤んだ瞳でこちらを見ており、ついには抱きついてきた。
「いや、邪神が狙ってるのは俺じゃなくてカラカス……。でも、心配してくれてありがとう」
これほど大袈裟なのは少し呆れてしまうが、それでもこうも心配してくれたっていうのは素直に嬉しい。
「それから、フィーリアちゃんがこっちに軍を送ってくれるみたいなの」
フィーリア? ……え。フィーリアって、あいつが? なんで? いやまあ、心配してくれたのかもしれないけど、あいつにそんな権限ないだろ。だって軍を動かすのは王であって王女でも王妹でもない。相当無茶したんじゃないか?
まあ、この状況では少しでも人が増えるのはありがたいけど……はあ。今回のことが終わったらあいつにも礼をしに行かないとな。あとルキウス……国王にもか。手土産に植木鉢でも持っていけばいいか? 最近の植木鉢は動くんだぞ。珍しいし、喜んでくれるだろ。
「……あっ。あとはお父様もよ」
……自分の父親のことはついでなのか。思いっきり忘れてただろ。
ただ、ありがたいはありがたいんだけど、それがどれくらいで合流できるのか、が問題だな。何せ向こうからこっちまで最低でも一週間はかかる。母さんの父親——俺の祖父であるアルドノフ前当主イルヴァが援軍を出すにしても、あそこからではもっと時間がかかるだろう。
人が多くなればその分時間もかかるものだし、フィーリアやイルヴァからの援軍が来る前には状況は動いてそうな気がする。
「軍って言っても、向こうからこっちまで来るのには時間がかかるだろ」
「そうね。だから、ここまでくるのは少数だけになってしまうみたい。残りはカラカスと聖国の国境を目指して、そこで待機することになってるわ。もし後ろに抜かれても、少しくらいならそっちで対応してくれるはずよ」
あー、後詰というか事後処理班的な感じか。確かに、神樹をどうにかすることができたとしても、その後であの変異生物達が全部消滅するかといったら分からない。もしかしたら、俺たちから逃げたり、避けてカラカス方面に向かうこともあるかもしれない。そうなった場合の対処をしてくれるってんなら、安心して行動することができるな。
「でもカラカスはどうすんだよ。この状況で攻め込まれたら、最悪奪われるぞ」
フィーリアのことは理解したし、助けに来てくれたのはありがたい。
けど、それはそれとして、親父達にはカラカスの守りを任せたんだ。それなのにこうしてカラカスから離れたとなると、守りが消えることになる。一番の敵だった聖国は消えたとはいえ、まだバストークという隣国が存在している。それに、王国だって正式に表立って同盟を結んだわけじゃないんだから、一部の貴族達なんかが攻め込む可能性も考えられる。
それでもカラカスや花園が負けるとは思えないが、領土を切り取られる可能性はあるかもしれない。
「王国の軍が睨みをきかせてるから多少は問題ねえだろうな。それに、あのメガネもそこまで雑魚じゃねえ。準備する時間さえあれば、一人で戦争終わらせることができるだけの力は持ってんぞ。まあ、一人で、っつーと語弊があるか」
あー、まあ、そういえばエドワルドがいたか。
いや、忘れてたってわけじゃないんだけど、なんというか、戦う者って感じじゃないから守りとして残してくるには少しパッとしないんだよ。
とはいえ、それはあくまでも俺のイメージであって、十分に強いんだけどな。
エドワルドの戦い方は、事前に武器兵器を用意し、策をもって敵を弱体化させるというものだ。
その準備期間が長ければ長いほど盤石となり、攻め落とすのは難しくなる。
今回は何があっても対応できるように、って準備してたみたいだから、攻め込まれることになっても事前に情報を手に入れて対応するだろうし、親父の言ったように俺たちがいなくとも戦争を乗り切ることはできるだろう。
ただ、やっぱり親父達がいるのと比べると、言っちゃ悪いけど見劣りする。
「それに、奪われたらまた取り返しゃあいい」
ニヤリと笑いながら告げられたその言葉は、なんともカラカスらしいと言える答えだった。
……これ、やっぱり俺よりも親父の方があそこの王に向いていたんじゃないか?
まあ、それでももうこの立場は譲らないけど。だって、俺は魔王として戦う覚悟を決めたんだから。




