援軍要請
「まあ、真面目な話、あんたの父親でも呼ばないと無理なんじゃないかねえ。あいつ以外にも、できるだけ多くの戦力が欲しいところだけど、最低でもあいつがいないと話にならないと思うよ」
「親父かぁ……確かに、親父がいれば根っこも枝も全部切り落としてくれそうな気はするな。
根っこどころか、そのまま本体も切り落としてくれそうな感じがするんだけどな。だってあいつ、目の届くところにある全てを切れる、みたいなこと言ってたし。あれだけでかいとどう足掻いても見えるから切れるだろ。
そうは思うが、問題としては今この場に親父がいないことなんだよな。
いれば解決するとしても、いないんだからそれはただの妄想で終わる。
「なんにしても、戦うんなら援軍が必要だよ」
まあそうなるよな。俺たちも千人という大人数だけど、そのうちの何割かは非戦闘要員だ。
もちろんある程度は戦えるけど、あくまでも本業は別。そんな奴らと一緒にアレと戦えと言われても、無駄に死なせるだけだとしか思えない。
聖国の兵は協力してくれるかわかんないし、そもそもあの状況で生きてるのか謎だ。聖国の王が生き延びていて、兵もある程度生き残っていたら協力することはできるかもしれない。
だが、その場合でもどれだけの数が残っているんだ、って話でもある。
教会の思想に侵されていない純粋な国王の配下もそんなに数がいるわけでもないだろうし、やっぱり期待はしないほうがいいだろ。最初からいないものとして考えるべきだ。
「援軍はいいけど、問題はその援軍が来るまであれがなんの動きも起こさないでいてくれるのかって話だよな」
その点も問題だ。こちらに向かっているって話だったけど、それがどの程度の速度なのか。それによってこっちの対応も変わってくる。援軍を呼んだとしても、それがたどり着くまでの間俺たちが生き残れるのかって保証もないわけだし。
「そこはもうどうしょうもないだろ? 期待して待ってるしかないよ」
「まあそうなんだけど……」
と、そこでふと気がついた事というか、浮かんだ案というか、まあそんなものが一つ出てきたので口にしてみることにした。
「そういえば、勇者はどうした? あんなんでも戦力にはなるだろ。こんな時だし、これまでのことを水に流して協力してくれてもいいんじゃないか?」
俺と戦った時は俺が人間だからか大してスキルを使っていなかった。ぶっちゃけ全力ではなかったのだ。だからこそあそこまで面白いように遊ばれてくれたんだが、それでも『勇者』だ。今回は人ではなく魔物(?)が相手だし、全力で戦うことになれば、それなりに成果は出してくれるんじゃないだろうか。
それに、戦えば人を救えるっていう勇者らしい行動も取れるし、あいつの望むところだろう。
「それは水に流させる側が言うことじゃねえな」
「いいんだよ。俺だってあいつらには迷惑かけられたし。……で、知らないか?」
多分死んではいないと思うけど、どこに行ったのかはわからない。こんな事なら勇者にも人をつけておけばよかったな。
「勇者は王城へと退避したみたいだよ」
と思ったのだが、どうやら婆さんの方で確認していたらしく、なんて事ないとでもいうかのように返事がされた。
色々知ってて便利というかありがたいんだけど、なんかなぁ……。
まあいいや。とりあえず今は勇者が生きてるってのがわかっただけでも収穫と言えるだろう。
しかし王城か……。つまり、あの神樹に呑まれた領域にいるって事だろ? それじゃあ今の状態では協力できねえなあ。使えねえ。
「王城って……まあ、教会が呑まれたんだから近くにある王城に向かうのは間違いじゃないのかもしれないけど……はあ。じゃあ今は使えないってことか」
「でも、あの樹が移動しているんだったら、そのうち解放されるだろうねえ。その時に改めて話をするしかないんじゃないかい?」
「やっぱそうなるか。……まあ仕方ない。勇者のことは使えるようなら使う程度の気持ちでいよう」
今は使えないにしても、合流することができれば多少なりとも力にはなるはずだ。
流石にこんな状況では、あの勇者も俺たちに突っかかってこないで協力してくれるだろう。
「とりあえず、今の方針としては、あの神樹の移動先や移動速度を調べつつ、集められるだけの戦力を集めること。それから、なんかあった際の時間稼ぎってところか」
それから俺たちは陣を移してみたのだが、一瞬だけ挙動がおかしくなったものの神樹の向かう方向は変わらなかった。これはつまり、話の中で出てきたように、俺たちではなくその後ろにあったフローラの本体やリリアの故郷である里の聖樹を狙っているということ可能性が高くなってきたことになる。
それの意味するところは、俺たちはどうあってもあの神樹を倒さなくてはならないことになったということだ。
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異変が起こってから二日。俺達は神樹から距離をとって再度陣を敷き、神樹の観察をしていた。
幸いというべきか、神樹は移動速度がとても遅く、普通の人間が歩く程度の速度しか出ていなかった。まあ化け物とはいえ元々は植物だしな。動かないのが普通なんだから、移動することができるようになったと言ってもその速度が遅いのは納得だ。
ただ、その移動の際の被害は甚大だ。ルート上にあったものは人も建物も、全てが障害になりえず神樹へと呑み込まれていった。
神樹が移動した後には、ひっくり返された地面と、そこから生えた普通の植物が残っているのみだ。
上空から見ることができれば、神樹がこれまで通ってきた道は一目瞭然だろう。何せその場所は荒れた大地の中に緑色の線ができているんだから。
しかし、そんな植物達に関して気になることがある。荒野に植物が生えるのはいい。神樹の力だろうからな。でも、その生えた植物の中に、切り倒された聖樹のそばにあった呪いで変異した植物と同じような見た目をしたものが生えているのだ。
呪いに汚染され、変異した植物。神樹とは違いその場から動かないが、あんなものが進路に残されるとなると、呪いが広がることになるんじゃないだろうか?
処理をするにしても、トレントと同じようなものだから低位階の奴らでは倒せないし、今は俺たちもそっちに人を割いている余裕なんてないから残しておくしかない。
それに、呪いが広まることに関して以外にも、神樹を攻撃する時にも問題になる可能性がある。
今後仮に『全方位から囲んで攻撃する』という方法が最善だと判断された場合、神樹が進んできた道——背後には変異体の植物が存在している森が広がっているのだから、その中を通ることができなくなる。つまり、全方位を囲むことができなくなるのだ。
まあ全方位から、なんてことはやらないだろうが、そういった懸念が残るのは確かだ。
そんな感じで一直線に進んでいる神樹だが、このまま突き進めば全ての文明が飲み込まれて消えてしまうかもしれない。そう思えてしまった。
……でもアレ、人間からすれば化け物だけどこの星的にはどうなんだろうな? 移動した先にあるものを飲み込んで壊すから人間からしてみれば害でしかないけど、その後に植物を生やしていくんだと思えば、星の再生をしているとも言える。実際、一度は呪いによって死んだ聖国に、一部とはいえ植物が生えているんだから。その植物の中に呪いにかかったものがあるけど、死んだ荒野と呪われた森だったらどっちがマシなんだろうな?
とはいえ、このまま進ませるわけにはいかない。神樹の移動方向から算出した結果、その方向にはリリアの故郷であるエルフの里があるということがわかったのだ。
ただ、エルフの里、というよりも、目的は聖樹ではないかと考えている。力を増すためなのか、敵を倒す為なのかは分からないけど、まあ理由なんてなんだっていい。そこに向かっているという結果は変わらないんだから。
そして、仮にリリアの故郷の聖樹を倒すでも取り込むでもした場合、その後はどうするのかと言ったら、おそらく近くにある他の聖樹——フローラを狙うだろう。
「あれ?」
「ベル? どうした?」
俺達はどうあっても神樹を止めなくてはならず、そのための援軍要請はすでに出した。
おそらくは今頃親父達がこっちに向かっている頃だろう。
と言っても、最速でも後一週間はかかるだろう。
だからその間は何があっても生き残れるようにしないと……と思っていたのだが、ふと窓の外を見ていたベルから疑問の声が漏れた。
「あ、いえ。あの、あれって葉っぱなんて付いてましたっけ?」
「葉っぱ?」
ベルの言葉を受けて椅子から立ち上がると、ベルと同じように窓から外を覗き込んだ。
その視線の先には、確かにベルの言ったように神樹の枝にちらほらと葉っぱがついていた。




