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異世界最強の農家様 〜俺は『農家』であって魔王じゃねえ!〜  作者: 農民ヤズー


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神樹の移動先

 

「斥候!」


 その答えに思い至ったところでガタリと音を立てて立ち上がり、近くに控えているであろう斥候役の部下を呼んだ。


「はっ!」

「何か情報は入ってないか?」

「少々お待ちを」


 俺が呼びかけるなりすぐさまトーチカの中へと入ってきた男は、俺の問いかけを聞くと耳に手を当てて数秒ほど黙り込んだ。おそらくはスキルを使って誰かと会話しているのだろう。


 そして、なんらかの情報が入ったようで、耳から手を外してこちらを見つめながら話し始めた。


「……現在、例の大樹はその足元の植物を取り込んでいき、自身の支配下においているようです。まだ街の面影はありますが、街としての機能はほぼ壊滅的です」


 まあそうだろうな。俺たちが出てくる時でさえ足元は植物にのまれかけていたんだ。これだけ時間が経った後ってなると、完全に飲み込まれてもおかしくないだろう。

 だが、聞きたいのはそこではない。


「移動してるとかはないか?」

「街にいる者達からは確認できておりませんが、微かではありますがこちらに近づいて来ているものと思われます」

「遠近感のズレとか、巨大化したことによる錯覚の可能性は?」

「ほぼないかと」


 斥候役を務めているような奴がそんなミスを犯すわけがないか。普通の軍なら有り得るかもしれないが、カラカスではそんなことあるわけがない。

 であれば、その報告はまず間違いなく、神樹はこちらへと向かってきているんだろう。


「街の住民はどうなってるんだい?」

「大樹に呑まれた者もいますが、残りは街の外に逃げ出したか、あるいは城に避難したようです」

「城? そんなところに逃げたところで、意味ないだろ。呑まれておしまいじゃないのか?」


 教会と城はそれなりに近くに存在していた。教会であれだけの樹が発生したのなら、近くにあった城も呑み込まれているはずだと思うんだけど……。


「城にも結界があるようでして、今のところはそれによって守られているようです」

「ああ、なるほど。まあ力がない王族って言っても、守りの結界くらいは用意してあるか」


 教会に対抗するために、自分の子供に洗脳を施す道具を作り、それを受け継いできたくらいだ。いざという時の備えは考えているものか。


「とは言っても、それもそう長く持つもんでもないはずだよ。あんなのが周りにあっちゃあなおさらね」

「だろうな。まあ希望があるとしたら、あいつが動いてる、ってところだな」


 結界があるとはいえど、神樹の領域内にいるのは間違いなく、このまま神樹が止まり続けた場合はそのうち耐えきれなくなるだろう。

 だが、あの神樹(仮)が動いているんだったら、完全にあの場所から離れてしまえばどうにかなるはずだ。

 問題はそれまで耐え切れるのかって話だけど、どうだろう? そこは頑張ってもらうしかない。


「でも、動いてるとは、どこかへ向かっているということなんでしょうか?」

「こっちに、って言ったよな?」


 そう口にしながら斥候に顔を向けると、斥候の男は頷きながら答えた。


「おそらくはこちらで間違いないかと。ただし、あの大きさですので、動いたことは判別できても正確にどの方向へ、とはわかりません。しばらくは様子見が必要です」


 まあ、流石にそれは仕方ないか。動いたって言っても本当に些細な距離だろうし、わからなくても仕方がない。


「わかった。じゃあ、判断できると思った時点で知らせろ。あとはなんか異変が起こった場合もだ」

「承知いたしました」


 そう返事をするなり、斥候の男はスッと音を立てずにその場から姿を消した。


 消えた斥候がいた場所を見ながら、俺は一度息を吐き出す。なんともめんどくさい状況になったもんだな……。


「で、あれがこっちに向かってると仮定して、だ。俺たちを狙ってるのか、それとも俺たちの後ろを狙ってるのか。どっちだと思う?」


 何を狙っているのかによって今後の方針は変わってくる。こちらの方角に進んでいるだけなら、最悪手を出さないで時間稼ぎってこともできるし、なんだったら無視してもいい。

 けど、俺達の中の誰かを狙っているんだったら、逃げたところで話は終わらない。どうあっても倒すしかないことになる。


「後ろって言っても、あるのは荒野と寂れた村くらいなもんだろ? だったら俺達じゃねえのか?」

「もっと言うなら、あんたかリリア嬢ちゃん。あとはフローラの誰か、あるいは全員ってとこだろうねえ」


 まあ、そうだよな。ここいらで何があるのかっていうと、何もない。あるとしたら、俺やリリアのような聖樹の御子。そして聖樹の分体であるフローラがいるくらいだ。何を狙っているのかと言ったら、何もない場所を狙っていると言われるよりも俺たちを狙っていると言われた方が納得できる。


 ただ、俺たちからしてみれば何もない場所、空間かもしれないが神樹からしてみれば何か重要な意味がある場所が存在している、という可能性もあり得る。


 そう思ったのだが……


「私達も荒野も越えて、その後ろ。フローラの本体やリリア達の聖樹という可能性もあるのではないでしょうか? あれが聖樹——神樹の成れの果てであれば、同類を取り込むことになんらかの意義を見出しているかもしれませんし、邪神であったとしても敵である聖樹を処理しておきたいと思うかもしれませんので」


 確かに、言われてみればこの周辺に限った話として限定する必要はないわけだし、俺たちの後ろをずっと進んだ先に何かを求めている可能性は十分に考えられる。


「確かに、それはあるかもな。そうなると、わかりやすいのが俺たちがここから移動することか? 横に逸れても俺たちを追ってくるようなら、その時は俺たちが狙いだってことだろ」


 トーチカを作ったのに勿体無いと思わなくもないけど、今はアレの狙いをはっきりさせる方が大事だろう。

 それに、アレが俺たち個人ではなくこっちの方角をそのまま突き進むつもりなら、ここに拠点を構えていても飲み込まれるだけだ。


「ま、狙いはそれでいいとしても、大事なのはその後だねえ」

「その後……あれをどうするのか、って話か」

「そうだよ。ぶっちゃけて聞くけど、あんたあれを倒せるかい?」


 婆さんに言われて改めて神樹を見てみるが、アレと戦えと言われて頷けるかと言ったら頷けない。少なくとも、自分から戦いに行きたくない相手だ。

 だって、周りの植物を取り込んでるんだろ? 俺の攻撃、植物を生やして行うものがメインなんだけど、無理じゃん。《焼却》したところでどこまで効果があるのかわからないし、流石に《天地返し》でアレを持ち上げるのは無理だ。

 そうなると、できることなんてほとんどない。正直、あいつは俺にとっての天敵だと思う。


「……無理くせえなぁ」

「だろうね」


 婆さんもそれをわかっているからか、肩を竦めて頷きながらつぶやいた。


「可能性があるとしたら、神樹の力を強化することで邪神に打ち勝ってもらう、とかそんなんだけど、うまくいくかわからない。そもそも一度触れないと効果対象に選べないから触ることができるのかって話だな。根っこの先端とかでいいんだったらできるだろうけど……」


 《生長》を使えば植物の能力を強化することができるし、神樹がまだ死んでいないんだったら邪神に取り込まれた神樹の力を強化することで自ら邪神に打ち勝ってもらう、と言う方法もないわけではな。

 ただ、それが通用するのか、と言う疑問はある。


「あれ、いろんな植物の寄せ集めみたいな感じになってるんだろ? 多分俺が触った端っこだけ強化しておしまいだと思う」

「となると、根も枝も全部処理して坊主にした後、本体を割ってその中身をあんたに触らせる、って感じかい? ……はっ。なんとも無茶な話だねえ」


 婆さんが言ったように無茶な話だ。

 それに、そもそも触れることすら難しいってのもあるんだけど、触れて、スキルを使ったところで、相手が完全に乗っ取られていたり同化しているんだとしたら、アレの力を強めるだけの結果になりかねない。


「婆さんはどうなんだよ。あんた、実際のところは俺より強いだろ?」

「バカ言っちゃいけないよ。年寄りに何期待してんだい。魔王なんて名乗る奴より強いなんてことがある訳ないだろうに」

「一日中スキルを使い続けることができる化け物が何言ってんだか」


 今でこそ変身していないけど、カラカスにいるときは人前に出るのにずっと変身スキルを使い続けていた。そんなの、明らかに異常だ。世界最強を名乗れるクラスの力を持ってるんだから、十分に化け物と言っていいだろ。


「それに、あたしゃあ人間相手専門だよ。あんなのを魅了しろだなんて、できると思ってんのかい?」

「もしかしたら樹にだって人間の良さがわかるかもしれないだろ。ほら、一応人と話すことができる程度の意識はあるんだし」

「はんっ。そんなことができるんだってんならやってやるよ。坊が試してみた後にねえ」


 つまり自分からやるつもりはないと。まあそれは俺も同じだけどさ。でも普通、こういう時って王様を先に行かせようとしないもんじゃないか? 嘘でも自分がやりますって言うもんだろ。


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