南部連合軍への対応
「それはそれとして、敵の頭目である第二王女の……まあ〝元〟第二王女ですが、その目的はわかりましたし、次の話に移りましょうか。つまり、今後どうするのか、ですね」
現状の確認や姉王女の事情についての話を終えたところで、エドワルドがそう切り出してきた。
「どうするって言っても……そりゃあ迎え撃つしかねえだろ。めんどくせえがな」
「それは当然です。問題はどこでどう戦うのか、です。自国民を消費したく無いのなら、今から出向いて戦うことになります。安定を求めるのなら、あるいは敵を確実に討ち取りたいのなら、この街に接近してからがいいでしょう」
親父の言葉に頷きながらエドワルドはそう口にした。
どこで戦うのか、か。俺としてはてっきりこの街で、或いは花園で構えて迎え撃つもんだと考えていたが、考えてみれば場所を選ぶ必要があるってのは当たり前のことか。だって、それによって被害の度合いが変わってくるんだから。
今までは一つの街としての領域だけ守っていればよかったが、国になった以上は国土内を荒らされないようにしなければならない。だからこそみんな国境で外敵から守ってるわけだし。
そもそも、領土内に住まう民を守れなければ、『国』なんてものがある意味なんてないし、国民だってその国に所属する意味がないんだから。
「あんたのおすすめは?」
もし国境で守る必要があるんだったら、急いで向こうに行って防衛を整えないといけない。
このカラカス本街や花園周辺は俺の植物たちがそこら中に植わっているから守りとしては問題ないが、それ以外の場所はそうではない。
多少は植えてあるが、それだって軍隊を迎撃でいるような量でもないのだから。
「当然、この街に近づいてきてからですね。万が一にでも敵を逃したら面倒なことになりますし、この街に接近してからであれば、後々になって難癖をつけられることもなくなりますから」
「難癖? ……どっからだ?」
エドワルドは難癖をつけられると言ったが、『カラカス』を相手にそんなことをする奴がどこにいるんだろうか?
もしかして、あれか? 俺たちの失敗をあげつらって、俺たちをこの国のトップから引きずり落とそうと企むとか、そういうやつか?
要は反乱の準備なんだが、ないわけじゃないと思う。だってここ、犯罪者ばっかり集まってるから倫理観とかないし。普通の街ならそう簡単には反乱なんてしないだろうけど、ここの奴らは今の状態が気に入らなければ簡単に裏切るだろう。
だが、そんな俺の考えは違ったようだ。
「他国ですよ。王国はいいとしても、聖国あたりはこれ幸いと責め立てるでしょう。第二王女の軍は魔王を倒しに聖国に向かっていたのに、それを邪魔するとは何事だ、と。それを理由に本当の意味での『魔王』。人類に仇なす敵として宣言されるかもしれません。流石にそうなったら面倒でしょう?」
あー……。まあ確かに、それはあるかもしれない。聖国は俺たちを潰したいと思ってるし、その理由付けとしては、『魔王討伐軍』を攻撃したって理由はちょうどいいものだろう。
「だから、その言い訳の余地を作らないためにも、明らかに攻撃の意思を持って接近したと判断できる距離になるまで待ってた方がいいってことか」
素通りするくらいだったら……或いはそう取ることができるような進路を進んでいるのであれば、攻撃すれば非難される。だが、流石に聖国に行くのに近づく必要のない首都間近まで接近してきたら、敵対の意思ありとして言い返すことはできる。
「ええ。まあ、この辺りで戦が起これば街の周辺は荒れることになるでしょうけれど、それは後々の不安を残すよりはマシな被害なので気にすることでもありません。……それに、最悪はあなたに直して貰えばいいだけですし」
「大臣が王様に仕事を押し付けようとすんなよ。普通逆だろ」
「普通から外れたこの国で普通を語る意味なんてありますか?」
なんかもっともらしいことをそれっぽく言っているけど、誤魔化されてる感がすごい。
いやまあ、だからって何か言ったところでまともに取り合うことはしてくれないだろうけど。
「おい魔王様。どうせ敵の作戦もわかってんだろ?」
「ああ。大まかにはだけど、わかってるぞ、騎士団長」
俺が親父のことを『騎士団長』と呼ぶと、親父はいやそうな顔をして俺のことを見たけど、俺だって『魔王様』だなんて呼ばれんの好きじゃねえんだぞ。
数秒ほど見つめあってから、親父はため息を吐いて俺から視線を外した。
「んじゃまあ問題ねえな。敵の動きが分かってんなら、その全てを先回りして潰してやればいいだけだ」
そうなんだよな。普通なら何十万もの軍に攻め込まれそうになってるってなったら、敵はどう動くのか、こっちはどう対応するか、もし予想と違う動きをしたらどうしようなんて悩むもんだが、俺たちはそれがない。だってすでに動き方がわかってるんだから。作戦も戦力も日時も、全部が筒抜けだ。
「問題があるとしたら、敵の作戦が分かっていても、正確な位置や動きが分からなければ全てを先回りするのは難しい、ってことだな。どうしたって小さなズレは出てくるもんだし、それが積み重なってでかいズレになる可能性は普通にあり得る」
ズレか……。確かに、長距離を移動するんだったら予定よりも数日早い遅いは出てくるだろう。
もし明日攻め込んでくる予定で構えていたのに、今日攻め込まれることになったら、当然ながら対処は遅れるし、その分だけ被害がデカくなる。そして、そのズレが重なればより大きな被害となる。
たとえその〝ズレ〟によってこっちの対応が遅れても最終的には勝てるだろうが、途中の被害の大きさは変わってくるだろう。
「で、そこでお前の出番だ」
「俺?」
「ああ。と言うよりも、フローラか?」
普段は適当に話をするくらいしかフローラと接点がない親父が、この状況でフローラに頼むことなんて決まってる。
「……あー、つまり、俺がずっと監視してろって?」
つまりはそういうことだ。敵がこっちに来るまでずっと監視し続けろってこと。
確かにフローラならこの国中どころか、世界中を監視することはできるだろう。実際には植物が近くにある場所に限られるが、それでも大抵はカバーできる。その能力は今回だって役に立つだろう。
だが、それはフローラにかなり負担がかかることになるはずだ。
「斥候でも放ってろよ。『飛脚』とかを伝令に置いておけば、一瞬で連絡取れるだろ」
「それでも数に限りがあるからな。それに、ねえとは思うが、気づかれる可能性もあるし、何より操られる可能性がある」
親父にそう言われ、ぴくりと眉が動かしてしまった。
そういえば、敵は人間を操るようなスキルを持っているんだ。そのことを親父に言われてから思い出した。
確かに、人間の斥候を送り込んだ場合、気づかれる可能性は考えられる。カラカスの所属のやつは一般の暗殺者よりも腕がいいからまず気づかれないだろうが、絶対ではない。
だが植物なら気づかれないし、人間が近寄ることができないような場所まで話を聞くことができる。
「……まあ、その可能性はあり得なくはない、か……? いや、でも離れたところでこっそり監視してれば平気じゃね?」
距離を取れば話は聞けないため状況把握の精度は落ちるだろうが、それでも敵の行動自体は知ることができる。
「何言ってんだよ。お前だって第十位階のヤバさは知ってんだろ? 対集団用の洗脳っつっても、個人を操れねえわけじゃねえだろ。それに、離れたところって、どのくらいだ? 何十万もの集団を操るってことは、効果範囲だってキロ単位だろ? どこまで離れれば効果範囲外なのかなんてわからねえのに、安心なんてできねえだろ」
「それは……まあ……」
「その点、お前なら大丈夫だろ? なんたって、使うのは『人間』じゃなくて『植物』なんだからよ。操られる心配なんてどこにもねえ」
まあ操るって言っても、あくまでも『人間用』のスキルだしな。あえて植物に洗脳するスキルをかける奴もいないだろうし、かけたとしても多分聖樹の支配力の方が強いから操れないと思う。
だからまあ、合理的に考えればフローラに頼むのが一番早いし確実だし安定するだろうってことは理解できる。
ただ、それって結構フローラの負担になりそうなんだよな。
フローラは世界中の植物から情報を集められるし、一時間ごとに移動地点を割り出すこともできる。なんだったらリアルタイムで追跡することもできるだろう。
だが、植物と話ができるって言っても、聞きたい情報だけがやってくるわけじゃない。植物たちは会話できる程度の知能はあるが、それは子供みたいに支離滅裂な言葉が送られてくることだってあるんだ。それを選り分けて必要な情報だけをまとめ、俺に伝えてくれるとなったらかなり大変だろう。
……でも、状況的に仕方ないか。
「フローラ、頼めるか?」
「う〜……いや〜」
そうしてフローラに頼んだのだが、断られてしまった。




