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九年後の生活

 ——ヴェスナー——



 さて、あれから九年の月日が経った。


 俺は無事に生き残り、街へと辿り着き腰を据えて生活することになった。

 あの時は正直無理かとも思ったんだが、なんとかなったようで何よりだ。


「おうヴェスナー。今日はエディが護衛か」


 九歳になった俺はある程度の自由行動が許されたんだが、屋敷から街に出ようとしたところで門の前に立っていた男——ジートから声をかけられた。


 このジートは、俺を処理するときにいたメンバーの一人で禿頭の大男だ。


 目がはっきりと見えるようになって改めて俺を連れてこの街までやってきた奴らを見ると、マジでこいつらが赤ん坊だった俺を助けたのか? って思うほどの厳つい強面たちだったが、まあ接してみると意外と優しい奴らだった。今の俺にとっては甘やかしてくる親戚のおじちゃんみたいな感じですらある。


 といってもその厳つい顔は初めて見た時にビビったんだが、他のメンバーも似たり寄ったりなのが多いのでもう慣れた。むしろこの街ではマシな方だ。


 だってこの街、基本的に頭おかしいのしかいないし。むしろ見た目がいいやつほどやばいから、ある程度見た目がいかつくて乱暴そうな方が安心できる。


 どう言うことかというと、この街、基本的に犯罪者しかいない。全員が全員ってわけでもないんだが、街の人口の六割、七割は犯罪者だ。


 そんな犯罪者の街のなかでまともそうな奴がいたらおかしいだろ? いかにもなスラムに街中歩いてるような綺麗な私服の青年がいたら誰だって違和感を感じるに決まってる。

 目に見えて乱暴そうなのはそうだとわかるからいいんだが、わからないやつは何をしてるか分からないから逆にやばい。


 っつーか何でそんなところに赤ん坊を連れてきたんだよ。もっと違うところあっただろ。まあ事情を聞けばわからないでもないんだけどさ。


 そんなわけで俺には日替わりで護衛がつけられている。日替わりといっても基本的にはエディとジートの二人でローテーションしてるだけだけど。

 だが、護衛という言葉から分かるかもしれないが、俺は基本的に一人になる時間がない。常に誰かしらが一緒にいる。それは街に出る時だけじゃなくて屋敷にいる時もそうだ。護衛ではないにしても、使用人の誰かが必ずそばにいる。


 まあ、この街の状況を思えば仕方ないかなって思うんだが、やっぱりもうちょっといいとこ無かったのかよって感じだ。


 ちなみに今日の護衛はエディだ。元々は俺を処理する部隊の副隊長をやってたらしいんだが、見た目的には割と普通よりなので、護衛役としてはかなり気に入っている。だって視界に入っても威圧感も見た目の暴力も何もないし。


「ああ。ちょっと孤児院に行ってくる」


 まあそんな悪性都市なわけだが、この街にも孤児院というものはある。孤児院というか、養成所? 


 数年前、と言うか俺がこの街についてからなんだが、俺の養父——ヴォルクが建てた孤児たちを集めて鍛える場所だ。

 集められた孤児たちは衣食住を確保してもらえる代わりに頭も体もついでに忠誠も鍛え、一定年齢になったらヴォルク運営している組織、もしくはその傘下に入らないといけない。


 将来選べる職業に自由はなく、組織から抜けることはできない。ある種の奴隷契約と言ってもいいが、それでもこの街の孤児からしてみれば大歓迎な内容だ。死ぬことはなく、食いっぱぐれることもなく、将来の仕事まで斡旋してくれる。そんな素晴らしい内容、だそうだ。


 ちなみに俺の義父——ヴォルクはあの時、九年前に母から引き離された時にいた俺を処理する部隊の隊長だ。


 この街にはなんの伝手もなかったみたいだが、俺が健やかに育てるようにって暴れて居場所を確保したんだとか。意外と親バカらしい。

 親バカって言っても俺たちは血は繋がっていないが、ヴォルクは俺のことを本当の子供のように育ててくれた。そしてそれはヴォルクだけではなくあの時一緒にいた奴ら全員がそうだ。みんなには感謝しかない。


 で、そのヴォルクだが、今ではこの悪性都市の五分の一を治めている一大組織の頭だ。で、俺はその息子らしい。


 まあ、健やかに育てるようにって理由で確保したにしては、この場所自体が健やかとは程遠い子供の教育に良くない場所だが。


 だがまあ、そんなわけで今の俺は金持ちだ。俺が、というか親父が、だけどな。

 本来の身分である王族からはランクダウンしたが、それでも十分に贅沢な暮らしができてんだから転生ガチャは当たりと言ってもいいのではないだろうか?


 それに、王族の場合は色々と規則や体裁やらでめんどくさそうだが、こっちはそんなことを気にする奴なんていない。

 最低限のマナーや知識、教養なんかは身につける必要があるし戦闘力も鍛える必要があるが、俺としてはこっちの方が気楽で済むから好ましい。

 なのでむしろガチャは大当たりだろう。ここでの俺は金持ちのボンボンだ。


「そうか。気いつけろよ」

「わかってるって。勝手にどっか行かない。財布は直接肌に接する場所につける。殺しに遭遇したらとりあえず武器を抜く。違和感を感じたら何かにしがみついて武器を抜く。薬はいつでも持ち歩く、だろ?」

「そうだ。忘れんなよ」


 何言ってんだと思うかもしれないが、この街ではこれが普通だ。この街を歩いてれば、一日に一回は何かしらの事件に遭遇する。むしろ一回で済めば今日は少ないな、なんて言える。


 財布を肌に接する場所につけるのはその方が盗られづらいし、盗られてもすぐにわかるから。


 武器を抜くのは、もしかしたらそのままついでに襲い掛かられるかもしれないから。一瞬でも相手が戸惑ってくれれば儲けもん。その間に護衛が対応する。


 違和感を感じたらしがみつくのは拐われないようするため。で、同じように武器を抜いて警戒する。


 薬——解毒薬の類は常に持ち歩くのはこの街のマナーみたいなもんだ。だって巻き添え食らって流れ弾で毒食らって死ぬ奴もいるし。

 俺の場合は解毒薬だけじゃなくて色々持たされてるけど。訓練の時であっても外せないし、常に持ち歩きすぎて、なんかもう薬入れのポーチが体の一部になったみたいですらある。


 だがそれだけで格段に生き残りやすくなる。それだけって言うには子供のやることじゃねえけどな。

 知ってるか? 俺、三歳になったらナイフ持たされて兎とか鳥を殺させられたんだぜ? 自衛のために武器の扱いになれるようにって。今では戦闘訓練もさせられてるし、弱い毒も時々飲まされる。

 ちなみにその兎たちはその後はスタッフが美味しくいただきました。


「ああそれと……」


 初めて生き物を殺した時のことを思い出しつつ若干遠い目をしていると、ジートは何かを思い出したように声をあげ、その声によって俺の意識は引き戻された。


「エディの護衛に嫌気がさしたらいつでも言えよ。俺が変わってやる」

「いやジートさん。あんたがいたほうが余計にいやんなるんじゃないっすか? 俺の方がマシっすよ」

「ああ? 何言ってやがる。ヴェスナーだって菓子もらえた方が嬉しいに決まってんだろ」

「また甘やかして……んなことしてボスにバレても知らねっすよ」

「はん! 上等だ。バレたとしても俺は絶対にやめねえぞ!」


 ジートの言葉にエディは呆れたように肩を竦めたが、こんなのは言ってしまえばいつも通りだ。

 こいつら……あの時俺を助けてくれた奴らにとっては、俺は息子みたいなもんなんだろう。

 だからお菓子を渡されるってのはなんだかなぁ、と思うが、それと同時に嬉しくもある。


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