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◇8◇ 勤め先(仮)はお城でした!?

   ◇ ◇ ◇



 ……翌日。

 目の前に広がる緑に、私は思わず目を細めた。



「――――王都からちょっと離れただけで、こんなに風景が変わるものなんですか?」



 ヘリオスが「ここなら安全なはず」と勧めてくれたホテルに、生まれて初めて一人で外泊するという経験をした私は、早朝から迎えにきたヘリオスの馬車に一緒に乗り、東に向かっていた。


 走るのは屋根なしの簡易な馬車。

 引くのは黒鹿毛(かげ)の馬二頭。

 馬を操るのはヘリオスだ。

 御者のスキルもあるとは……私と違ってヘリオスはもういつでも自活できそう。すごい。


 隣のヘリオスは、昨日の奇妙な外套(がいとう)は羽織っているけれど、さすがに馬車の運転で視界をさえぎるわけにはいかないのかフードは被っていない。

 横を見ると心臓に悪いので、私は極力景色を見ていた。


 箱型の馬車じゃないから…密室じゃないから、殿方と二人で乗っていても問題ない……と思いたい。



 そんな中で、王都の町並みは昼前には途切れ、視界には畑が広がり始めて、見ているだけで心がなごんだ。



「まぁ、それぞれの領地には、拠点の市街地があったりするけどな」


「うちの領地は市街地なんてないです。

 古くて小さな領主館を出たら、すぐ畑で。

 農民の人たちが、すぐそこを通ってるんですよね」



 ちなみに私の家の領地は、王都から西のほう、馬車で1週間はかかる、とっても離れたところにあった。



「今から行くところは、ヘリオスのおうちの領地なんですか?」


「いや。世話になってる人のだ。

 俺の母親が今そこで管理人をしてる」


「お母様……女性が、領地の管理人?」



 びっくりした。珍しいケースだ。



「で。貴女(あなた)に頼みたいのは、母親の侍女の仕事。

 まぁ、この感じだと日没までに着けっかな」


「ところでヘリオスは、学校は……」


「この前卒業した。いま18」


「じゃ、私のひとつ上ですね」


「フランカは? 学園には来てねぇよな?」


「ああ、うちは……教育方針の問題で、通っていなくて」



 ……以前どなたかに、娘を王立学園に入れないのか、と聞かれた時に、お父様は血相(けっそう)を変えておっしゃった。


『未婚の男と女が、同じ敷地内の学舎で学ぶなんて……堕落へ一直線だ! 何かあったらどうする!』

『女に学なんぞつけたら、結婚が遠のくだけだ!!』

『家できっちり、教育してみせる!!』


 ちなみに実態は、家庭教師がいない時期もながくて、その間私は独学でしたけどね!

 そして学校に行っていなくても何かありましたけどね!



(……あんまり嫌なこと思い出すの、よそう)



 私は違う話題を探すことにした。



「普段も、その外套(がいとう)で顔を隠してるのですか?」


「ああ。傷のこともあるけどな。

 最近、()()()目立つんだよ」


「生まれた時から目立ちそうですけど」


「昨日から思ってたけど、やっぱりボスウェリア家、新聞取ってねぇだろ」


「え? え、ええ。そうですね。

 でも、社交界に出ていれば国のことはわかるとお父様が」


「……うん、全然わかってねぇことはよくわかった」


「え、ええ?」


「――――いや、なんでもねぇ。ちょい飛ばすぞ」




   ◇ ◇ ◇



「こ、ここですかぁ……」



 途中休憩を挟み、またヘリオスによるこの土地の気候や特性などの解説を聞きながら、私たちの乗った馬車は、日没より前に、目的地に着いた。


 ――――はい。誇張なく、それはお城でした。

 田園風景の中に、すっごく綺麗なお城がある。

 石造りの城壁も、その中の建物も、目を奪われるほど美しい。

 というかお堀がある!

 跳ね上げ橋がある!

 城門カッコいい!

 王宮とは違う、絵本でしか見たことなかった、塔や城壁が整った巨大なお城の美しさは、ただただ圧巻だった。



「……大きい。

 これ、領主さまのお城ですか?」


「フィフスクラウン城。

 だいたい250年ぐらい前にできて、王族が5回所有してんな」


「へぇ! よく知ってますね!」


「って、学園の歴史の授業で習った」


「自慢ですか!?

 いいなぁ……そんな勉強ができるなら、私も学校に行きたかったです」


「だからいま、6回目。行くぞ」


「あああ、はいっ……ん、いま?って?」



   ◇ ◇ ◇



 お城のなかに入り、通された応接の間がまた美しい。


 豪奢で歴史を感じさせる調度品。磨き上げた装飾。

 やたら座り心地触り心地のいいソファ……

 ……うっかり、我を忘れそうになる。



「あそこの、ものすごく大きくてキラキラしたシャンデリア一つ、いくらぐらいなんでしょうか?」


「さぁ。子爵家クラスの(やしき)なら3つぐらい買えんじゃね?」


「…………!!(言葉を失う)」


「来っから。姿勢正せ」



 ヘリオスに背中をべしっとはたかれた。

 いや……これだけのお城って、領主様はかなりお偉いお方なのでは……? 私が仕える(?)方はヘリオスのお母様だとしても……


 そんなことを考えていたら、応接室のオーク材の重厚な扉が開き、私はあわてて立ち上がった。



「あなたが珍しく来たと思ったら――――私に会いに来たわけではなくて?」



 美しい声が部屋のなかに響いた。


 入ってきた貴婦人の姿を見て、私は息を呑んだ。



「お久しぶりです。母上」


「母はどういう顔でこの可愛らしいお嬢さんを迎えればよいのかしら?」



(芸術品が、もう一体!!!!)



 ヘリオスをそのまま女性にしたような、銀髪にアイスブルーの瞳の、絶世の美女が微笑みながらいらっしゃった。

 地味なダークブラウンのドレスを着ているのに、神々しくさえ見える。

 一瞬見とれながら意識が遠のきそうになってしまった。


 ……ヘリオスに肘で小突かれて、ようやく我に還る。

 というか、敬語使えたのね、ヘリオス。



「――――はじめまして。

 ボスウェリア子爵の長女、フランカ・ボスウェリアと申します」


「こんな遠くまでようこそ。どうぞ座って」


「は、はい……」



 再びソファにかける。優雅な貴婦人は私たちの向かいに腰かけた。

 美人すぎて、年齢がおいくつぐらいなのかわからない。

 ヘリオスのお母様ということは、少なくとも私の母とそう変わらない年齢のはずなのだけど……。

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