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おまけ(3) 【ガイア視点・17歳】



   ◇ ◇ ◇



「結婚――――ですか」


「公妾は慣例として既婚者でなければならない。結婚が必要になるのだ」



 国王陛下に呼び出しを受け、お話しをする機会を得たときに、自分の身体のことと、王宮内のことでの『お願い』をした。

 私の(やまい)のことはどうやら知っていたらしく、それは快諾された。


 ホッとしてその場を失礼しようとした矢先に、「そなたの結婚相手のことだが」と陛下に話を切り出されたのだ。



「望む相手や、候補はいるだろうか。

 必ずそなたの希望を反映できるとは限らないが、大任を果たす身だ。

 極力考慮して決めてやろう」



 そう優しげに陛下はおっしゃったが、私はそれを直感的に『嘘だ』と感じた。

 目が笑っていない。 


 人に話したら引かれるぐらい子どもの頃から私は、変な目つきをした男性に追い回されてきた。

 だからだろう、自分に執着する男性は直感的に見分けがつくようになった。


 どうも陛下は、私にかなり執着をしている。

 祖母が王女という血筋だけで選んだのではないようだ。


 そしていま、何というか、私の意中の相手を探ろうとしている、というか……



(私の希望として『この方がいい』などと言えば、逆にその方は避けるのでは?)



 そんな風にさえ思えた。


 そうは言っても、いま誰か意中の相手がいるというわけでもないけれど……。



 …………考えていたら不意に、ケイオスの顔が浮かんだ。


 好いている……とまでは言えない。


 ただ、彼は少なくとも(本当にめちゃくちゃなやり方だけど)私を守ってくれた。

 そしてあれからも、手紙で私のことを気遣ってくれる。


 これから、家族から切り離され自分一人しか頼ることができない状態におかれる私にとって、夫となる人は、信頼できる相手であってほしかった。



 あとは彼が私をどう思っているのか。



 私は、しばらく考えて、こう陛下に申し上げた。



「…………どなたが良いということはございませんが、お願いして良いならば、条件が2つございます」


「ほう、申せ」


「1つは、僭越ながら、わたくしは大任を務めるという自負がございます。

 祖父や父からも申し上げていると存じますが、祖父と同等以上の爵位を継承予定の方との婚姻をお願いしたく考えております」


「将来の、公爵か侯爵ということだな。ふむ」


「生意気とお思いになるかも知れませんが、わたくしの身体に流れております王家の血に恥じないお方であっていただきたく思います」



 この言い方ならば、特定の相手を意識しての言葉とは思われないだろう。


 肝心なのは次の条件だ。



「2つめの条件とは?」


「わたくしが妊娠出産いたしましても、その子はあくまで婚外子。少なくとも幼少期は夫となる方とわたくしとの間で育てることとなりましょう」



 むしろ王宮で育てるほうが危険だ。…………というニュアンスも汲んでいただけるだろう。

 国王陛下は、王としては聡明なお方だから。



「それゆえ、赤子や幼児の時期をともに大切に育て、あらゆる危機から守り抜ける方でなければと考えます。

 そのような強いお心構え、そして、深い知識をお持ちの方を、どうかお選びいただけますようお願い申し上げます」



 私の把握する限り、この2つの条件を満たす男性は、この国にただ1人。

 陛下も、ケイオスから提出された意見書のことを把握している。


 あとは陛下が、私の隠された意図に気づかないでいてくださるか否か。


 そして…………ケイオスが、ウェーバー侯爵家が、この打診を飲んでくれるのか。



 これは賭けだ。

 拒む権利のない私に唯一許される、賭け。



 ――――そして、私は賭けに勝った。



 後日、私の結婚相手としてケイオス・ウェーバーの名が知らされたときの、家族のホッとした顔は忘れられない。



「ひどい相手と結婚させられる可能性も考えていたから…………あの方で良かったわ」



 母は安堵のあまり涙をこぼしながら、そう言った。



   ◇ ◇ ◇



 形ばかりの結婚式で顔を合わせたウェーバー侯爵家の方々は皆、お葬式のような顔をしていた。


 それはそうだろう。大事な嫡男の結婚相手が、まさかこれから王の子を産む女だなどと。


 家族としては『ふつうの』お嬢さんと結婚してほしかったところだろう。


 結婚に夢を見てはいなかったけれど、さすがに心が少し、痛んだ。



 だけどケイオスだけは、じっと、まっすぐ私を見つめていた。

 ご家族の反対を押しきってこの打診を受けたのは、ケイオスの強い意思だったという。


 形式的に淡々と結婚式をこなした。

 壇上で受けた生まれて初めてのくちづけだけが、熱く心に刻まれる。

 だけど結婚式はそこで終わり。



 花嫁である私は、そのまま、ケイオスのではなく王の寝室に上がり、国王陛下に処女を捧げることになった。



   ◇ ◇ ◇


つづく

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