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◇59◇ 二年後、春。結婚式の朝。




   ◇ ◇ ◇



 求婚からの二年間は、怒涛のようだった。


 まず、一番の懸念だった侍女のお仕事。これは、産後数か月で前任者のレアー様がお仕事に戻ってきてくださった。

 短い間にもたくさん学べた侍女という仕事をやらせてもらえたこと、それから城のみなさんにも会えたこと、すべてが本当に良かった。一人一人に感謝しながら、私は王都に戻った。


 フォルクス家で待っていたのは、カサンドラ様が受けたのと同じだという、十数科目にわたるハイレベルな教育と、領地や王都での実践。

 それから王宮での事務仕事や、王宮へお客様をお迎えする仕事のお手伝い。



(これは……この環境は、すごいわ)



 悲しいかな、頭のスペックがカサンドラ様とは違う私には覚えきれないことも多い。

 けれど、とにかく新しく知ることだらけで嬉しい。


 一方、ヘリオスに会いたくて邸まで押しかけてくるような、厄介ファンの貴族令嬢たちからの嫌がらせもひどかったので、そこは自分でも自衛して戦う術を覚えた。


 ヘリオスはだんだん王宮での仕事が忙しくなり、でも絶対に時間をつくって私と会ってくれた。

 領地に帰る時期は何か月も会えなくて、その間には手紙をたくさんくれた。


 アイギス様はといえば、爵位を奪われ監獄島に送られたライオット伯爵から爵位と財産と領地を受け継ぎ、伯爵となった。義理のお母様は家を出ていき、残された幼い妹君を手元で育てている。

 やはり無理に男性と結婚するようなことはしないで、将来の継承については王太子殿下と相談しているとのこと。


 ほか、いろいろな方々と関わりながら私は、ヘリオスの将来の伴侶に必要な力をつけていった。



   ◇ ◇ ◇



 ―――そして、2年後の春……の、とある特別な日の朝。



「ここは通しませんわ!!!」

「絶対にヘリオス様と結婚なんてさせるものですか!!!」

「わたくしたちの方がずっとお慕い申し上げています!

 ぽっと出の、養女の成り上がりなんかよりも……」



 私は王宮へと続く道で、馬車の窓から外をうかがい「これは……」と絶句していた。


 大通りを(ふさ)ぐように、大型の乗り合い馬車が横転している。

 ……その前に立ちはだかるのは、ヘリオスの厄介ファンのご令嬢方。

 みなさん、こんな日によく集まりましたね?



「道の封鎖……ここまでやりますか。

 噂には聞いていましたが、ヘリオス卿に恋する女性たちというのは……」



 今回、私を迎えにきてくださって同じ馬車に乗っていたアイギス様は、呆れた風にため息をつく。



「フランカさん。ちょっと私、馬車と一緒にあの人たちを片付けてきましょうか?」


「だ、駄目です! ゴキゴキ指を鳴らし始めないでくださいアイギス様!」


「身分の高い女性ばかりなので、憲兵が困っていますし。

 このままでは刑罰を受けることになるでしょう。ここで鉄拳制裁で済まされた方が、本人たちの立場も」


「あなたのお立場のほうを考えてください!!」



 ……だけど、困ったのは本当だ。

 このままでは、予定から遅れてしまう。

 私一人馬車から下りて別のルートを使う?

 そちらの道もふさがれてるかもだけど。


 そんなことを考えていたら、不意に私たちの馬車の横を誰かが通りすぎた。



「…………あ。

 すみません、馬車を下ります!」



 私はそう言って、あわてて馬車のドアを開く。

 馭者(ぎょしゃ)のかたがさっと置いた足台を踏んで、下りた。



 フードで顔を隠したその人影が、横たわる方の馬車に手をかける。


 ……横転させられていた、山のように大きな馬車を、なんでもないように片手でひょいと少し持ち上げて戻し、置いた。


 あっけにとられるご令嬢方と周囲の人々。



 ――――これがウェーバー侯爵家の継承魔法『質量操作』の本来の使い方だ。



 ふだんはそのまま顔を隠したままでいる彼だけど、今日はパサリとフードを剥いて、顔を見せた。


 輝く銀髪。

 宝石のように心を奪うアイスブルーの瞳。

 このうえなく美しい顔立ちに、走る傷痕。

 それから……鋭い目で令嬢たちを一瞥。


 ふだんならヘリオスの姿を見れば矢も盾もたまらず寄ってくるご令嬢がたも、今日ばかりは本気で怒っているヘリオスの目に怯んだ様子だった。



「ヘリオス!」



 私は駆け寄った。

 ヘリオスは私を見て一瞬表情を和らげ、それから私を抱き寄せる。

 人前だとちょっと恥ずかしい。。。


 ヘリオスは、令嬢たちにではなく、主に命令されて巻き込まれたらしい、傍らに控えた従者らしい男性たちに言った。



「――――道をあけろ」



 涙目で従者たちはあわあわと、大型馬車を動かして道をあけた。令嬢たちは引いていく。



「おはようございます。

 ありがとうございます、助かりました」


「……(わり)ぃ。

 こんな日なのに格好がつかねぇな」


「いえ、私はむしろ緊張がちょっとほぐれていい感じです」



 ははっ、と、ヘリオスは笑った。

 この2年で、ヘリオスは前よりも笑顔を見せるようになっていた。

 相変わらず素敵すぎて、一瞬心臓が止まるかと思いました。



 ――――ウェーバー侯爵家の継承魔法『質量操作』。

 これが、ライオット伯爵を倒し、高い壁を越えるジャンプを産み出し、馬車が上に落ちてきても軽傷で済んだ魔法の正体だ。


 自分自身の身体と触れるものの重さを操作することができる。ヘリオスはそれを無詠唱かつ魔法名さえ言わずに自在に、瞬間的に使いこなせる。

 だからジャンプした瞬間に自分の体重を軽くしたり、落ちてきた馬車を触れたとたん軽くしたりできた。


 ――――それから、身体強化魔法を使っている人さえ倒す、パンチや蹴りの強さについて。

 これは、ヴィクターさんやアイギス様など武術の心得のある方々は絶賛していたけど、私は最初聞いてもその理屈がピンとこなかった。

 なんでも、打撃が当たる瞬間に自分の体重をめちゃくちゃ重くするということをしているのだそうだ。物理法則によると力は質量に比例するので、それですごく攻撃が強くなるのらしい。


『魔法抜きで達人クラスの武術の腕がないと、打撃の速度を損なわずに当たる瞬間にぴったり合わせて体重を重くなんてできないですから、あれは本当にものすごい技なんですよ!』


 と、アイギス様は熱弁してたっけ。



 …………そんなこんなで、私たちは無事に王宮に着き。


 王宮の敷地内にある大聖堂での結婚式の準備にとりかかる。



   ◇ ◇ ◇

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