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◇54◇ 殿下のご配慮が身に余ります。。。




「ヘリオスについてはまたウェーバー家の家族会議で話すとして」



 ヘリオスの両頬をぐにゅっとつねっていたウェーバー家の長兄……いえ、クロノス王太子殿下は、手をお離しになった。

 涙目で頬をさするヘリオスが地味にかわいい。(というか籍抜けたのに家族会議にお出になるんですね殿下)



「そこに座ってください。

 今後の貴女(あなた)のことについて少しお話ししたいことがあります」


「は…………はい?」



 私のこととは何だろう、と首をかしげながら、私はヘリオスと並んで執務室のソファに腰かけた。


 クロノス殿下は、私たちと向かい合って座る。ヘリオスと酷似した桁違いの美貌と美しい銀髪、長い手足、隙なく着こなされた服。

 まさに『王子様』という単語を具現化したような方だけど、私のなかではさっき垣間見た兄弟関係の印象で固定化された。


(私、慣れちゃっていたけど、普通に考えるとヘリオスって貴族としてはたぶんかなり問題児なのよね……。

 お兄様、そこはかとなく苦労人ぽさがあるのはそれでかしら)



「お話ししたいのはボスウェリア子爵家の件です。

 メイス侯爵夫人らのせいで醜聞を起こされた被害者ではありますが、貴女(あなた)が家出するまでの受けた仕打ちを聴取する限り、保護責任者としてボスウェリア子爵には何らかの処分を下すことになります」


「え? それは…………」


「重いものではありませんが、貴族の中にはっきりと示したいのです。

 子女に対する密室での私刑や虐待こそ法に反しているのであると。

 また、多くは何ら法に触れない、それどころか被害者であることさえあるのに、『醜聞』によって、人の未来が奪われ――――ひいてはその家の治める領地の人々まで不利益をこうむることを、私たちは良しとしないと」


「…………はい」


貴女(あなた)だけのためではなく、同じような立場に追い込まれた人々のためでもあると思ってもらえますか」


「……わかりました」



 領地の人々にとっても、不利益、か……。

 貴族が名誉を重んじるのは、人の上に立つために必要なこと、だから『醜聞』はいけないのだと私は教わってきた。

 でもそれは、領地の人々にとってどれだけ重要なのだろう。

 領主の家に『醜聞』が起きることと、領主の家が社交界に出られなくなって領地経営に支障が出てしまうこと、どちらを領民は嘆くのだろう。



「また、子爵からは、貴女(あなた)をボスウェリア家の籍から抜きたいとの要望が上がりました」


「――――薄々覚悟はしていましたけど、実際に言われるとショックですね……」



 でもお母様が言ったように、もう私は完全にボスウェリア家から離れた方がいいのだと思う。

 ……アルマとルドルフは、お母様が守ってくれると信じたい。



「私自身はそれでかまいません。

 醜聞を起こした娘を自ら罰してけじめをつけた、という体裁も整うでしょうし」


「身分も完全に平民になるわけですが、それは?」


「もともと家出した時点で、平民になったつもりでしたから。

 今までどおり、ガイア様のおそばで侍女として働けるなら嬉しいです」



 私としては嘘偽りない本心……のつもりだった。

 ヘリオスが好きだとしても、そんな想いが叶うはずはないのだから。


 けれど、「それは……」とヘリオスが、焦ったように何かを言いかける。


「フランカはそれで良いのか?」


「え、ええ。良いって言っていますよ?」


「でも、たとえば、名目上だけでもどこかの家の養女に入るって選択肢もあるだろ?」


「醜聞持ちの娘をですか?

 さすがに、どこのおうちであっても、そこまでご迷惑はかけられません」


「けど!

 貴族令嬢でいれば……いさえすれば」



 なんでヘリオスが私の身分にこだわるのかがわからない。

 私が本当は気にしていると思っているのかしら?



「――――その方法は、ありですね」



 クロノス殿下が、不意に口を挟んだ。私とヘリオスは殿下の方を見る。



「あり、とは?」


「先ほど、貴女(あなた)は言いましたね。

 家の籍から抜くことで、貴女(あなた)を罰してけじめをつけたことになる、と、

 私とホメロス宰相の共通の考え方としては、人は法に基づいて、権利を守られ罰を受けるべきということです。罠にかけられた被害者である貴女(あなた)は何ら法に反してはおらず、従って罰をうけるべきではありません」


「えと、……いえ、でも、世間が許さないとか社交界が許さないとか、そういうの、あると思います」


「自分以外の誰かが同じ目にあっているとしても、同じことが言えますか?」


「…………言えません」


「だからこそ、貴女(あなた)の立場は守られなければならない」



 ありがたいことを言われているのに、頭がついてこない。


 ギュッ、と、横からヘリオスに手を握られた。

 ヘリオスも何か、さっきから言おうとしていえないことがありそうで、妙に気になる。



「では、フランカ嬢。王都での予定が終わったら、引き続き母のもとで働いてもらえますか。

 少し時間がかかるかも知れませんが、貴女(あなた)の処遇についてしかるべき形を整えますから」


「…………は、はいっ!!」



 なんだかわからないけれど、とても身に余る配慮をしていただいているようで、ただただ、私はうなずくばかりだった。


   ◇ ◇ ◇


 数日後、クロノス殿下のお誕生日パーティーが盛大に行われ、そこには(ライオット伯爵夫妻やメイス侯爵夫妻、それから夫人がご懐妊されているなどの事情のある方々を除き)すべての貴族が招待された。



 私はヘリオスのエスコートで短い時間だけ出席した。


 やっぱり醜聞の持ち主だからだろう、私を見てヒソヒソと話している方々もいた。

 けれど、クロノス殿下が気をつかってくださって私によく話しかけてくださったので、そういうのも気がついたらなくなっていた。


 それと手紙を送ったけれど返事を返してくれなかった貴族令嬢の友達は、私を見つけて来てくれた。

 最初は会えて嬉しかったけど、

「ヘリオス卿を紹介して!」

としつこく頼まれて、正直()えた。



 会場を出る前に、ヘリオスとダンスした。


 もう忘れちゃってるかも?と心配だったけど、ヘリオスが意外と(失礼)ダンスが上手くて全く不安なく踊れて、とても楽しかった。


 そうして、私の王都滞在期間と17歳の夏は、大変な思いを上回るほどの素敵な思い出とともに終わった。



   ◇ ◇ ◇

一部加筆しました。

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