◇53◇ 取り調べ開始と兄弟の力関係
◇ ◇ ◇
それから、ライオット伯爵とメイス侯爵夫人は憲兵の方たちによって王宮へ、捕らえられた手下たちは監獄へと連行された。
影響が大きいだけに明日にも緊急の裁判を開くことになるという。
ライオット伯爵の罪状は、結局聞いても覚えられないぐらいたくさんだったけど、主なものは以下のようになる。
●ヘリオス・ウェーバー、アイギス・ライオット、フランカ・ボスウェリアの殺害未遂
●娘アイギスへの性的暴行教唆(ただし未遂)
●娘アイギスの死亡偽装にともなう一連の罪
●下位貴族への脅迫
●脱税
●贈収賄
●王太子暗殺教唆(ただし未遂)
一番最後の『王太子暗殺未遂』が罪状に加わったのは、アイギス様の証言によるものだった。
これは、4年前の、正確にはまだ王太子ではなかったクロノス様が暗殺されかけた未解決事件だそうだ。
そのとき襲われたのはクロノス様――――ではなく、なんとヘリオスだったという。
事件の犯人はクロノス様と間違えて襲い、ヘリオスの顔に刃物で大きな傷をつけた。
不幸中の幸いと言うべきなのか、クロノス様よりもずっと武術が得意だったヘリオスは、最初の一太刀こそ食らってしまったが、そのまま犯人を叩き伏せて捕らえた。
その犯人は、
『人を介して頼まれたことなので、いったい誰に雇われたかわからない』
と言っていた。しかも、
『自分は暗殺しようとしたのではない。雇い主からは、“王国一の美男子ともてはやされ調子に乗っているクロノス・ウェーバーの顔を、ズタズタに切り裂いてほしい”と頼まれた』
と繰り返していたそうで……。
今回、アイギス様が、その依頼者がライオット伯爵だったと証言し、伯爵も最終的にそれを認めた。
『……まだ14や15の歳で美男子と評判になり、私が口説く女性、口説く女性、みんなウェーバー侯爵家のクロノスの話ばかりする……そんなの腹が立つじゃないか。
だから、ほんの軽い腹いせのつもりだったんだ! 当時は王太子じゃなかったし……。
それがまさか、後から王太子になるなんて思いもしないだろう!?』
と、伯爵は言い訳になっていない言い訳を長々と語ったそうだ。
「――――結局4年前は、誰が依頼したかがわからないままだったんだけどさ。
今回ライオット伯爵が依頼者って聞いて、『ああ』って納得したわ」
と、ヘリオスは傷を指でなぞりながら言った。
ともあれ、(あとからなったとはいえ)王太子殿下に対して刃を向けようとしたことについてはかなり重い罪にせざるを得なくなるのだとか。――――これをライオット伯爵は恐れていたらしい。
それからメイス侯爵夫人について。
●ヘリオス・ウェーバー、アイギス・ライオット、フランカ・ボスウェリアの殺害未遂
●脅迫
●性的暴行の共犯
●アイギス・ライオットの死亡偽装にともなう一連の罪(共犯)
などなど。
アイギス様を襲おうとした貴族や、その他の貴族たちの中にも、ライオット伯爵やメイス侯爵夫人の罪にかかわった人がいると思われるので、取り急ぎ調べられるとのこと。
ライオット伯爵とメイス侯爵夫人が入るのは貴族用の厳重な監獄で、取り調べは続くけれど、私はもう彼らと顔を合わせなくていいそうだ。良かった、と、胸を撫で下ろした。
――――そういった話を聞く前に、私もヘリオスも、お風呂に入って着替えて身支度を整えていた。
「あのとき、馬車と馬がヘリオスの上に落ちていったから、気が気じゃなかったんですよ。
大丈夫だったんですか?」
「どうにかな。
魔法でダメージを減らして、アイギス嬢が馬車をどけてくれて、でも変わらず弾丸は飛んでくるしで。
一か八か、俺だけ川から抜け出て建物の屋根づたいに跳んで移動して、それで不審な動きをしてる馬車を見つけたんだ」
「アイギス様置いてったんですね」
それはアイギス様怒る。おかげで私の命は助かったけど。
「憲兵と街の人が協力して、馬は全部助けられたそうだ。ライオット伯爵が馬にも強化魔法をかけてたのか、運良くどの馬も足は折ってないってさ」
「ああ、良かった……あれで死んじゃったら可哀想ですよね。
でも、道路から川面まで二馬身はありましたよね?
あんなに高くて、良く越えられましたね??」
「ああ、それはうちの家で継承してる魔法が……」
この世のものとも思えないほど打撃を強くして、それでいてものすごい高さを跳べるウェーバー侯爵家の魔法? どんなすごい魔法なんだろう、と、ワクワクしてヘリオスの説明を待った私に、背中のほうから
「ヘリオス・ウェーバー伯爵、フランカ様」
と、誰かの声がかかった。
「王太子殿下がお二人をお呼びです」
それは是非もないです。
後から聞けるといいなと残念に思いながら、私はヘリオスと一緒に王太子殿下の執務室に向かった。
◇ ◇ ◇
(芸術品が、もう一体!!)
執務室に入って初めて王太子殿下としっかりお顔を合わせた瞬間、ガイア様にお会いしたときの衝撃が再び私の身体を駆け巡った。
ウェーバー侯爵家で会ったヘリオスの弟さんも良く似た美形で素敵な男の子だった。
けれど、お兄様のクロノス殿下は(眼鏡はかけているけれど)やっぱりヘリオスに似ている。
ため息が自然にこぼれて魂が奪われそうなほどの絶世の美男子…………それから、オーラがすごい。とにかく。
緊張する。顎を引いて背筋をまっすぐに、失礼のないように、私は王太子殿下にご挨拶した。
「お初にお目にかかります。ボスウェリア子爵の長女フランカでございます。
この度はさまざまなご配慮をくださり、また身の危ないところを助けていただき、まことにありがとうございました」
「いえ、ご無事で何よりです。
王宮としても醜聞への対応に至らぬことがあり、お詫びいたします」
「え! い、いえ、そのような……」
お話ししながら、王太子殿下のおきれいなお顔の表情はほとんど変わらない。噂どおりクールで冷静沈着な方なのかしら。
「それからヘリオス」
クロノス王太子殿下は、スッ、とヘリオスの前に立つと…………むに、っと、その両ほほを長い指で思いきりつまんだ。
「…………いったい君は何歳になったら口より先に手足が出る癖が治るのですか?」
「いひゃい、いひゃいってあにひ!!」
「私からも何度も言いましたね? 緊急事態以外、あからさまな敵であってもせめて先に話せと。今日は致し方ないとして、仮にも初対面の淑女と善男善女の民衆の前で、人を問答無用で蹴り倒したのは何なんですか?」
「ふ……ふいあへん、あにふへ、お、おうはいひへんは」
…………えっと?
何か私、見てはいけないものを見てしまっていますか??




