◇24◇ ガイア様に心配されています。
◇ ◇ ◇
「……大丈夫? 元気がないわね?」
「うう。すみません、ガイア様……。
私、ヘリオスに嫌われたと思います……」
「ま、まぁ、それは大丈夫なんじゃないかしら?」
「大丈夫でしょうか……」
ガイア様に、こどもがどんなふうにできるかを教えていただいて、10日ほど経過…。
朝、ガイア様のお髪をブラシでとかしている最中に心配されるほど、私はまだ引きずっていた。
「だって、本当にこどもの頃以来なのよ?
ヘリオスが進んで自分から女の子と仲良くするなんて」
「その言い方は語弊があると思います!」
「それに、自分が友達と認めた相手に対して、一言や二言で、手のひらをかえす子じゃないわ。
だから大丈夫」
「だったらいいですけど…」
友達か。ヘリオスが私を、友達と思ってくれていたら嬉しい。
お世話になってるぶん、少しでも私はヘリオスに何か返したい。
せめて、彼に何か返せる人間になりたい。
(というか、ヘリオスの立場なら、恋人はもういてもおかしくないし…)
貴族の長男にとって、結婚は家のための義務だ。
貴族令嬢にとっての結婚もまた義務であり、そして、食べていくために『〇〇夫人』という職を得る、いわば就職活動だ。
もちろん、家柄などがある程度つり合いの取れる相手同士で、ロマンスが芽生えることもあるし、そういう結婚に私たちは憧れてきた。だけど、大体みんな、唯々諾々と親に従って結婚していく。
でも、家を背負わない次男だったら、恋愛は自由にできる。
それで相手が貴族令嬢でさえなければ、もう完全に自由、ということになると思う。
ヘリオスはあれだけ素敵な人だもの。
もう、恋人がいたっておかしくないわよね。
「どうしたの?
黙り込んでしまって」
「は、はい!! すみません……!!」
うん、私が気にすることじゃなかった。
「さぁ、お髪を結いますね!
そういえばたくさんお酒が届いていたようですけど、何かパーティーでもあるんですか?」
「ああ、太陽祭が近いからだわ。
王都でも夏至祭はお祝いするでしょう?
ここらでは夏至の頃は忙しいから、少し遅れて夏に入ってからお祭りするの。
フィフスクラウン城の初代城主のお誕生日に合わせてだったかしら」
「そうなんですね~。
そういえば夏至祭の日は街がなんだかにぎやかだった気がします」
「お祭り、見たことはないの?」
「平民の人たちのお祭りだから危ない、行ってはいけないと、父が……」
いま思えば、父の教育方針の問題だったのだと思うけれど。
ふうん、と、ガイア様はうなずいて、何事か考えていた様子だった。
私が髪を結い終えると、ガイア様が声をかけてきた。
「今日は外出する用事はないし……。
ねぇフランカ。
ジュリアを呼んできてくれるかしら?」
「は、はい!」
◇ ◇ ◇
ジュリアさんはお針子の一人だ。
彼女をガイア様のお部屋まで連れてくると、ガイア様は続き部屋になっている衣装部屋へ私たちを通した。
ジュリアさんは何が待っているのかわかっているようで、ひどくわくわくした顔をしている。
「ここから奥は、私の若い頃の服よ。流行遅れだけどほとんど袖を通していなくて、生地も良いものだから、ときどき若い娘たちに分けているの」
「みんな、いただいたものを仕立て直して、自分用のよそ行きの服を作ってるのよ」とジュリアさんが補足する。
事態が飲み込めず、キョトンとしていた私に、ジュリアさんが「ほら!フランカ、この色なんていいじゃない!」と軟らかなブルーのドレスを手にとって私の首もとにあてる。
「ええと、その……?」
「鈍いわねぇ。ガイア様がフランカに、お祭りに行く用のドレスを作りなさいっておっしゃってんのよ」
「え、ええ!?」
「だってあんたの持ってる服って、侍女らしい服とか、地味な外出着じゃない。質は良くても、若い娘がお祭りを楽しむ格好じゃないわ。
せっかくだし、私たちがすっごく素敵なドレス作ったげるからね」
「え、ええと……!?」
『平民のお祭りに出かけるときに着るようなドレス』のイメージがつかず、首をかしげる私だったけど、俄然やる気なジュリアさんを見ているとなんだか楽しくなってきた。
……ん? というかこの流れ、お祭りに行くのは決定ってことね?
『そんな平民どもの祭りに行くなんて、何を考えている!?』
……頭のなかにいる小さなお父様が、お父様の声で叱ってきた。
ほんのり覚える罪悪感。
でも。……私、行ってみたい。
みんなと、お祭りに。
ヘリオスがいないことだけは、残念だけど。
◇ ◇ ◇




