◇19◇ ヘリオスの顔が何だか怖いです。
◇ ◇ ◇
――――ヘリオスは城に一泊するということで。
夕食後、少しの時間だけど、ヘリオスが私の勉強を見てくれることになった。
晩餐用のお部屋をお借りして勉強する。
密室じゃないけど、ヘリオスが近くて、緊張する。
「……でも、ずいぶん進みがよくねぇか。
特に数学、農学と気象学、あと国語も」
「本は好きでしたから……ほかに娯楽がなかったからですけど。
農学とかは、うちの領地で多少かかわっていたので」
「そうなのか?」
「領地にいる間は、管理人の方を通じてですけど、領民の方から相談が来るので……。
父はずっと忙しそうでしたので、代わりに私が、領主館にある本を漁って、答えられるだけ答えていました。
でもやっぱり、書物も古かったし体系的な知識がなかったから、いま考えれば未熟すぎて。逆に邪魔だったかも。
学校行っていたら、もっと、皆さんのお役に立てたわよね、って、思ってしまって」
知識欲と好奇心と後悔の入り混じる感想を口にして、伏せていた眼を上げる。
ドキッとした。
ヘリオスが綺麗な目でこちらを見ていて、ばっちり目が合ってしまったからだ。
アイスブルーの瞳が、複雑な光を描く虹彩が、この世のものとは思えないほど綺麗だった。
「……ど、どうしました?」
「それ、いくつぐらいから?」
「ええと、10歳ぐらいから……はい……」
「なんで目ぇそらすんだよ」
「だって、学校に行ってもいない身で、人に教えようなんて、おかしいじゃないですか」
「そんなことねぇよ。
相手の役に立つように、一生懸命考えて判断したんだろ?」
「それは……はい」
「だから、貴女はすげぇよ。
そんな歳で、人に言われなくても領主の家の人間としてするべきことをわかっている、って」
まだ、ヘリオスの綺麗な目がこちらを見ている。
居心地が悪いけれど、このアイスブルーの瞳を見てしまったら、目が離せない。
この瞳に魅入られてしまったら、まずい気がする。
美しすぎて戻れなくなる。
「フランカ?」
「あ、そ、そうだ!!
あのですね。私、レアーさんから、こどもがどうやってできるのか教えていただきましたよ!」
「………………?」
ヘリオスが、なんか硬直した。
「……そうか。良かったな。
で、なんでそれを、いま男に報告する?」
「ええと、以前にへリオスのほうが言ったんじゃないですか。
こどもがどうやってできるか、家で教わったかって…」
と言うと、ヘリオスがなぜかまた頭を抱えた。
「へ……ヘリオス?」
「……わかった。
で、フランカは、何をどこまで教えてもらったんだ?」
「はい、殿方の子種が婦人の身体に入って、婦人の子種といっしょになって子ができると!
でも、子種がどう体の中に入るかは、まだわからないのですが……」
「子種って連呼すんな!!」
「え、駄目でした!?」
「――――ああ、ええと……」
ヘリオスはなぜかものすごく焦った様子で、しばらく考えていたのだけど。
そしてなんか耳がまた赤いのだけど。
しばらくして、両手で私の肩を掴んだ。
「……うちの母親に言っとく。
母上から、なにをしてそうなるかまでを教わって、それからその辺の話を男の前でしていいかを判断してくれ。いいな? わかったな?」
「は、はい……?」
なんだか、ヘリオスの顔が恐かった。
◇ ◇ ◇
ちなみに。
翌日、ヘリオスが王都へ帰っていった後に、ガイア様に『何をしたら』こどもができるのかを丁寧に教えていただき、その日私は羞恥のあまり、自分のベッドの上で悶絶して転がりつづけたのだった。
◇ ◇ ◇




