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◇16◇ バレてましたよお恥ずかしい(悶)

   ◇ ◇ ◇



「――――ヘリオス!!」



 厨房から飛び出して一生懸命走った。


 お客様をお迎えする、お城の大きな玄関ホールに出たところで、私は目当ての人を再び見つけることができた。

 奇妙な外套(がいとう)を今日も着て、フードをかぶったその人は、面食らったように足を止めた。


 息を切らして、私は彼の前に立った。

 首が痛くなるほど近くで彼を見上げる。



「お久しぶりです、ヘリオス!!」



 フードをぐい、と上げるヘリオス。

 銀髪と、綺麗なアイスブルーの瞳と、顔に走る傷跡が見えた。

 この綺麗な顔に最初はあんなに緊張したのに、今は会えて嬉しい気持ちしかない。



「3週間ぶり、か。

 て、なんで?」


「先ほど厨房の窓から、馬車で跳ね上げ橋を渡ってくるヘリオスが見えたので!!

 今日も一人なんですね!!」


「一人だけど!!

 寂しい奴みたいに言うんじゃねぇ!!

 で、なんでフォーク握ってんだよ暗殺者か」


「美味しいオレンジがあるんですよ!!

 あとでヘリオスも食べましょう!!」



 嬉しい。ヘリオスが来てくれた。

 嬉しすぎて、話しているとどんどん声が大きくなってしまう。


 侍女用ドレスの裾をつまんで、くるっとヘリオスの前で1回転する。



「どうですか? 板についてきました?」


「ああ、そうだな……3週間前より似合ってる。

 ていうかフォーク持ったまま回んな危ねぇ」


「すみません、ガイア様にご用事ですよね!!

 およびしてきますー!!」


「いや待て。フォークは置いてこいヘボ暗殺者」



 ガッと後ろから腕を掴まれ制止されるのさえ嬉しくて、私は笑いだしてしまった。



   ◇ ◇ ◇



 ヘリオスは、ガイア様のところでしばらく何かお話をしていた。

 その間、待機を命じられた私は、自分の部屋で本を読んでいた。


 コン、コン、とドアのノックの音。


 ドアを開けると、ヘリオスがいた。

 彼の顔を見ると、さっきはしゃぎすぎた自分が急に恥ずかしくなってきた。



「終わりました?

 では私、仕事に戻りますね」


「少し話せるか?」


「話…? 私と、ですか?」



 うなずくヘリオス。


 ――――さて、いま私は自分の部屋の入口のところにいる。


 ふたりで話をするのならば、たぶん部屋に入れるべきなのだろう。

 そうでなければ殿方に立ち話をさせることになってしまう。淑女としてそれはいけない。

 だが、人に見えないところで殿方と2人きりになってはいけないという原則から言えば――――



「硬直してんじゃねぇよ。部屋に入れろなんて言わねぇし」


「ふぇ!? は、はい!!!」


「テラスに出ようぜ」



 呆れたような声でヘリオスに誘われ、おずおずと、私は部屋から出た。

 お城の廊下、ヘリオスが先を行きながら、私に声をかける。



「――――なんか、時々あるよな。

 考えすぎてなのかなんなのか、思考停止してるとき」


「……バレてましたかお恥ずかしい……」



 ヘリオスの背中を追いながら、私は頬をかく。

 そうなのだ。自分の頭で考えないと…と思いながら、ふとしたときに、今までの価値判断で動いている自分がいる。

 その中で、いずれを選択しても何かに違反しているとき、何をしていいかわからなくなってしまう。



「否定的二重拘束(ダブルバインド)ってやつか」


「へ? なんですか、ソレ?」


「や、なんか貴女(あなた)を見てて、それが浮かんだ。

 心理学の言葉で、2つの矛盾する命令が与えられてる状態で、どちらを選んでも間違いになるから、自己否定的になったり、自信が育ちにくかったりするんだってさ」


「2つの命令?

 命令、って、いま別にないですけど……」


「いまさっきのだと、『男と二人になるな』『男に生意気な女だと思われるようなことをするな』とかな」


「あっ……」


「親にそんな感じで(しつ)けられてきたんだろ。

 それがずっと頭に残って、命令として判断を左右してるってこと」



 言われてみれば、命令、か……。

 確かに。頭の中に小さなお父様みたいな存在がいて、何かしようとしたときにお父様に指示されているような感覚になる。



貴女(あなた)の親の教えを全否定はしねぇけどさ。

 それで貴女(あなた)がつらくなるんなら、人と相談して選択肢増やそうぜ」



 そうヘリオスが言ったとき。

 私たちはちょうどお城のテラスに出て、空が夕焼に染まるのが目に飛び込んできた。


 田園風景と夕焼け、その中に立つヘリオスの姿がひとつの絵画のようで、見とれてしまう。



「――――ほら。テラスだと景色いいだろ?」



 振り返ったヘリオスが、軽く笑った。


 心臓が止まったかと思うほど、私はその笑顔をずっと見つめていたかった。

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