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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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家族よりも一歩先の

人の懐に入るのは得意な方だと思う。



四人兄弟の真ん中にいて、日々揉まれていたせいで培ったスキルなのかもしれないけど。



だから、屋敷で一人ぼっちだったアデラインと仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。


家族として近づくには、だけど。



「義姉さん」


そう呼ぶと、アデラインは困ったように、でも少し嬉しそうに笑う。


「もう、義姉さんはやめて。誕生日は二日しか違わないのよ?」


「たった二日でも、義姉さんが僕より年上なことには変わりないでしょ?」


「それはそうかもしれないけど」


拗ねたように口を尖らせるアデラインは、今日も無敵の可愛さだ。



「けど?」


「・・・実際には、わたくしよりセスの方がしっかりしてるじゃない」


「そう? 気のせいじゃなく?」


「気のせいの筈がないでしょ。貴方の方が物知りだし、貴方の方が頼りになるわ。なのに義姉さんだなんて、嫌味でしかないわよ?」



僕は笑いを噛み殺すのに必死だ。



ねえ、アデライン。


君は文句を言ってるつもりだろうけど、それ、褒め言葉でしかないよ?



朝食と昼食と夕食は、いつも僕とアデラインの二人きり。


午前と午後の数時間は、机を並べ、一緒に家庭教師からの授業を受ける。


空いた時間は、屋敷内や庭で二人で過ごす。



僕にとっては、好きな人といられるご褒美でしかない日々だ。



アデライン、君はどう思ってるかな。



僕がここに来てから、アデラインはまた笑うようになった、らしい。


長年ここに仕えているショーンがそう言っているんだから、多分その通りなんだろうと思う。というかそう思いたい。



近くて遠いアデライン。


僕の大好きなアデライン。



「明日で君は十五歳だね」



風に靡く美しい黒髪を真っ白な指先で抑える君に、僕はそう語りかけた。



黒の絹糸のような艶やかな髪は、彼女の白い肌をより美しく際立たせる。



僕がうっかり見惚れたことなど全く気づかず、アデラインは笑みを返す。



「そうね。そして明々後日には、貴方も十五歳になるわ」



だから義姉さんなんて大袈裟な呼称は無しよ?



そう言って、アデラインは悪戯っぽく人差し指を口元に当てた。



十五歳。


ここに来て、君に出会ってもう五年になるんだね。



ゆっくり、ゆっくり、慎重に、丁寧に、僕たちは距離を縮めていった。



義姉弟としてはかなりしっかりとした絆が出来たと我ながら思う。



今、僕を見る君の目には、確かに信頼が宿っていることが分かるから。



「明後日はパーティだね」


「ええ。・・・正直、人がたくさん来るのはあまり好きじゃないけど」



そう言って、アデルは溜息を吐いた。



侯爵は、アデラインの誕生日と僕の誕生日の間の日に、決まってパーティを催す。



その日は朝から人が出入りして、僕もアデラインもやたらと気疲れする日。



知らない大人たち、令嬢令息たちがわんさかやって来る。



アデラインを見て頬を染める令息たちを見るのは癪だし、僕の周りを囲む令嬢たちの相手も正直面倒くさい。



一応、僕たちは婚約者同士として周知されている筈なんだけどな。



かと言って、対応を間違えたら大変なことになるという事は、この年になれば流石に分かってる。



別に祝ってほしくもない、出来る事なら二人きりでいつものように過ごさせて欲しい、そう思うけれど、それを口に出して言うわけにはいかないから。だから憂鬱なんだ。



それに、パーティが近づくと、アデラインのあの口癖が、さらに頻繁に口を突いて出てくるようになるから嫌なんだ。



そう、あれ。


---素敵な人を見つけて幸せになってね---



あの言葉が。



僕はひっそりと溜息を吐く。



こんなに大好きなのに。



近くて遠いアデライン。



家族から恋人への道のりは、果てしなく遠い。



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