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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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小さな変化



それはちょっとした変化だった。


もはやルーティンと化した朝のハグをした時のこと。



「おはよう、アデライン」



そう言って、僕はきゅっとアデラインを抱きしめた。



数秒間、抱きしめて。


それで離れる。



それがいつもの、おはようのハグ。



だけど今朝は。


今朝は何故か。



「お、はよう。セス」



その言葉と共に、アデラインの腕が、僕の背中におずおずと回されたのだ。



「・・・っ!」



僕は驚いて言葉に詰まる。



だって、こんなのあり得ない。



あり得ない、のに。



そっと腕の中の人物をもう一度確認する。



うん、本物だ。


ちゃんとアデルだ。



ということは。


・・・もしや、これは夢?


実は、僕はまだ起きてないとか?



目の前の現実が信じられず、僕はあり得ない仮定を思い描く。



だって、アデラインが抱きしめ返してくれたのなんて、初めてだもの。



これが、夢以外のなんだというのだろう。



なんていい夢なんだ。最高だ。



思わず、アデルを抱きしめる僕の腕に力がこもる。


すると、僕の背中に回された腕にも、同じく力がこめられたのだ。



夢の中のアデラインは積極的だな。



深く考えることもなく、そんな風に考えた僕は、今の幸せを堪能する事にした。



嬉しさの余り、アデラインのつむじに頬をすりすりする。



「セス・・・あの、そろそろ」



え? 


もっと堪能したかったのに、困った顔でそろそろ離してと頼まれてしまった。



仕方がないとゆっくりと身体を離せば、ぼんやりとしていたのが仇になったのか、バランスを崩してよろけて。



おっと。



ガツンと壁に頭をぶつけた。



「セス!」



慌ててアデラインが近づいてくる。



大丈夫だよ、アデライン。


だってこれは只の・・・


あれ? 痛い?



「セス、痛かった? 大丈夫?」



痛い。


ということは、夢じゃ、ない。



アデラインが、僕を抱きしめ返してくれたのは、夢じゃない。



・・・え?



「セス、お医者さまを呼びましょう。打ちどころが悪かったのかもしれないわ。顔が真っ赤よ」


「え、ええ?」


「ほら、ベッドに戻って。朝食は寝室にまで運ばせるから」


「いや、あの、アデライン。僕は」


「頭をぶつけた時は気をつけないといけないのよ? ほら、早くベッドに横になって。お医者さまが直ぐに来てくれるから大丈夫よ」



いや、壁にぶつけた後頭部が痛いのは本当だけど。



顔が。


顔が赤いのは。



「ショーンを呼んでくるわ」


「えっ、ちょっ、待っ・・・」



アデラインは、いつもの淑女らしさはどこへやら、ぱたぱたと走って行ってしまった。



「・・・大丈夫なのに」



いや、心臓の方は大丈夫じゃないけど。


ドキドキばくばくで、今も苦しいけど。


そう、実は呼吸をするのももの凄く苦しいけれども。



・・・まあ、正直言えば、後頭部もちょっとは痛いけど。


でもそれも、小さなたんこぶ程度が出来るくらいの事だよ。



だけど、やっぱり。



「はあ、まだ胸の鼓動がおさまらない・・・」




毎朝、自分からハグしてるくせにって?



いや、それも尤もな意見なんだけどさ。



でも仕方ないだろう?



だって、初めてアデラインが抱きしめ返してくれたんだから。



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