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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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アンドレの婚約話について



「婚約者探し? アンドレが?」



僕は、思わず素っ頓狂な声を上げた。



今日は、もはや恒例となったアンドレたちとのお茶会だ。



なんでも社交界では、この僕ら四人のお茶会に是非とも参加したいと羨む声が多数上がっているとかいないとか。



そんな場で飛び出した意外な話題に、僕とアデラインが驚いていると、アンドレからもの凄く嫌そうな顔をされた。



「なんだ、その意外そうな声は。そんなにおかしな事も言ってないだろう。お前など10歳の時には既に婚約していたのだぞ?」


「ええ、ああ、うん。それはまあ、確かにそうなんだけど」



年齢的におかしくない事はもちろん分かってる。


そろそろ皆も婚約者を決める年頃だよね。


うん、でもさ。


そう、でもだよ。



アンドレが、アンドレが婚約者を探し始めるなんて。



「失礼な奴だな、私だって婚約くらいするぞ」



おや、心の中だけで呟くつもりが、声に出してしまっていたか。



「というか、しなくてはならん。嫡男なのだから当たり前だろう」 


「え、嫡男?」


「は? お前、まさか知らなかったとか言うつもりではないだろうな」


「いや、ごめん。知らなかった」



心外だとばかりに顔を歪めたアンドレは、「親友のくせに」と僕をキッと睨みつけた。



「はっ。これで優秀なつもりなのだから呆れてものも言えないな。デュフレス公爵家の家族構成も知らないとは」


「・・・いや。一応、貴族年鑑に載る家の家族構成は全て頭に叩き込んでいたつもりなんだけどね」


「ならばなぜ驚いたのだ?」


「え? だって、僕の記憶では、確か君は次男の筈だったから」


「ああ」


ここで何故かアンドレの顔が綻んだ。解せぬ。



「その通りだ、私には兄がいる」


「え?」



途端に、ここでまたアンドレの顔が曇った。



なんだ、一体どうした。



貴族にあるまじき事なのだが、この男は表情がコロコロ変わるのだ。



「だが嫡男は私だ。兄は長庶子なのでな」


「・・・ああ、そういうこと」



まあ、貴族にはよくある話だよね。



アンドレの浮かない表情は、庶子の兄がいるからなのか。


庶子を疎んじるなんて、どうにもアンドレらしくない気がするけれど。



「兄は非常に優秀なのだが・・・父が後継にはしないと言うのだ」



あ、違った。


自分よりも兄が継ぐべきだと思っているからこその、その顔か。



やっぱりアンドレはアンドレだ。



他所の家の話なのに、僕はアンドレの反応になんだかホッとした。



「これまで婚約の話はのらりくらりと躱していたのだが、早く探せと父が煩くなってきて・・・」



家を継ぐのが嫌なのか、それとも婚約するのが嫌なのか、アンドレは口元を歪めてぶつぶつと呟いている。



「その事でしたら、わたくしに良い考えがありましてよ」



今まで黙って話を聞いていたエウセビアが、突然に口を開いた。



「良い考え?」


「ええ」



エウセビアは自信ありげな笑みを浮かべながら、ゆっくりと頷いた。



アンドレが、あからさまにホッとした顔をする。



分かるよ。エウセビアが言うと、何となく大丈夫かなって気がしちゃうんだよね。



とりあえずこれで一安心だな。



「では聞かせてくれ。その良い考えとやらを」


「よろしいですとも」



そう答えると、エウセビアは澄ました顔でこんな事を言い出した。



「わたくしとアンドレさまが恋仲だと噂を流すのです。そして、婚約するならばわたくしと、とアンドレさまのお父上に願い出るのですわ」


「「はい?」」



僕とアンドレは、揃ってとぼけた声を出したけど、エウセビアはにっこりと微笑みを返し、ティーカップに口をつけた。



「な、な、な、なんだその提案はっ!」


「あらまあ。少し『な』が多すぎませんこと?」


「な・・・」



アンドレが口を抑えて黙り込んだ。



僕とアデラインは、困ったように顔を見合わせる。





・・・訂正。



エウセビアが出て来ても、安心する話じゃありませんでした。



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