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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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それは完全なる勘違い



「木から落ちた私を助けてくれたじゃないですか。小さな体で私を受け止めてくれて・・・、あの時から私は・・・」


「・・・君を助けた覚えはないんですが」


「嘘です。どうしてそんな嘘を吐くんですか? やっと会えたのにどうして・・・」



いやいやいや。

誓って言おう。


僕は嘘を吐いてはいない。


本当に覚えていない。

木から落ちた彼女を、僕が助けた?



「婚約者の方に遠慮なさってるのですか? 私たちの方が先に出会ったというのに・・・」



その言葉に、会場が再びざわめいた。



「ヤンセン令嬢。僕は・・・」


「セスは木から落ちた貴女を受け止めた訳ではないよ?」


「そうだな。あれは偶然、木から落ちてきた君の下敷きにされてしまったというのが正しい.まあ結果的に君はそれで助かったのだが」



僕に被せるように発する声。この声は。


やっと来てくれたんだね。トル兄、それにアン兄。



遅いよ、もう。

どうなるかと焦ったじゃないか。



「遅くなってごめんね、セス。予定外の授業が入っちゃってさ」


「タイミング的に間に合わなかった訳ではないだろう。別にいいよな? セス」



兄さんたち二人は、僕の正面までやって来ると、あまり悪びれる様子もなくそう言った。



ろくにヤンセン令嬢の記憶がない僕の助っ人として、今日は出席を頼んでおいたのだ。


でも、こんなに遅れるなんて。

相変わらずマイペースな兄さんたちだ。



「どなたか知りませんが、私は今セシリアンさまと話してるんです。邪魔をしないでください」


「・・・私たちのことは覚えてないの? 一応、セスと同じダルトン家の人間なんだけど」


「え?」


「まあ仕方ないか。君はいつも勝手に入って来てはセスの後を追いかけ回すだけだったものね。小さい子どものする事だからって放っておいたけど、まさか、それが愛を育んでいたなんて話になるとは、ねえ? アンナス兄さん?」



トルファンの分かりやすい説明に、周囲がざわついた。



「全くだ。セシリアンが気にも留めなかったからと放置していたこちらも悪いが、そもそも来るなと言っても入り込んで来る方がおかしいだろう」



下敷きですってよ、聞いた話と違うじゃない、などとあちらこちらで囁かれる。



へえ、そうだったんだ。


落っこちてきた彼女の下敷きに。


それを助けたと誤解された訳か。



夢を壊したとしたら申し訳ないけれど、ただの巻き添え事故を白馬の王子さまの登場と勘違いされても、ねえ。



「で、でも」



ヤンセン令嬢は、ぷるぷると震えながら必死に口を開いた。



「いつもお茶に招待してくれてたじゃないですか」


「・・・そういえば、僕たちのおやつの時間に、何故かいつも現れては、どさくさに紛れて食べてたっけね」



これはトル兄の弁。



「泣いている私を、セシリアンさまが優しく慰めて下さいました」


「庭で迷子になって大泣きしてた時のことかな? あまりに煩すぎて、セスが宥めて外に連れてくまで大変だったな」



こちらはアン兄。



「お気に入りの木の下で、大好きな絵本をいつも一緒に読んで下さった事を覚えています」


「あ~それ多分、セスが本を読んでる時に、よく君が押しかけてきた時の事を言ってるんじゃないかな。君が遊ぼうって騒いでても、セスは気にせず読み続けてたから」



もう分かるよね、これはトル兄。



「いつも私と手をつないで歩いて・・・」


「そうしないと逃げられちゃうからね。確実に家に帰ってもらうためには、しっかり捕まえて門の外まで連れてかないとダメだったんだ。しかもセスじゃないと大騒ぎするし」


「・・・」



会場は静まりかえっていた。


今一番の話題である僕とヤンセン令嬢との引き裂かれた純愛という噂の真相に、会場にいる人たちは興味津々で耳を傾けている。



かくいう僕も、次から次へと溢れるように出てくる勘違いエピソードに聞き入ってしまった。



知らないことのオンパレードで驚くことばかり。



へえ色々あったんだ~って感じかな。


なんで何も覚えていないのかは、逆に疑問なんだけどね。



っていうか、その話によると、君ってどう考えても歓迎されてなかったよね?



「そ、そんな・・・私の勘違いだったの・・・?」



周囲の人々が激しく首を縦に振るのが見えた。



皆さん、満場一致で同意してくれているようだ。



きっと彼女は、無邪気で無自覚、能天気かつ思い込みが激しいタイプなのだろう。


悪気はなさそうだけど、ここまで記憶を捏造されるとなると、はた迷惑以外のなにものでもない。


まあ、どうやら当人も、ようやく正しい結論に到達した様だから一安心だろう・・・たぶん。




アン兄、トル兄、助けてくれてありがとう。



今回ばかりは、僕ひとりじゃ納得させるのは無理だったかもしれないから。



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