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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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16歳のまとめてパーティ



思った通りというか、期待通りというか。



アンドレは、ヤンセン令嬢の噂について全く知らなかった。


そして当然ながら、エウセビア嬢は把握済みのようだった。



16歳の誕生日まとめてパーティ当日。



邸に到着して会場に入ったアンドレは、あちこちで囁かれる言葉に怪訝な表情を浮かべていた。



いくら社交下手のアンドレでも、流石にここまであからさまに聞こえてくると気がつくようだ。


僕の側にすすっと寄ってきて「どういうことだ」と聞いてきた。



どういうことだ、って僕の台詞なんだけどね。

ホント、どうなってるんだろ。



そう思いつつ、簡単に事情を説明。


アンドレは「許せん」と、みるみる不機嫌になっていく。



かなりオブラートに包んで話してみたのだが、それでもアンドレの怒りを買うには十分だったらしい。



「アンドレさま。貴方は当事者ではないのですから、下手に首を突っ込んではいけませんわ」



それまで、横でアデラインと話をしていたエウセビアが冷静に声をかける。


エウセビアは、僕の中では、もはや『アンドレ使い』という名称がついている。



「不用意にアンドレさまが出ていかれたら、アデラインさまに不利になるかもしれませんわよ。セシリアンさまという婚約者がいるのに他の男性まで誑かしてとか何とか、難癖をつけられるかもしれませんわ」


「た、誑かす? 私は誑かされてなどいないぞ」


「よく存じてますわ。昔の貴方には下心がありましたけれど、アデラインさまの方は明らかに何とも思ってらっしゃいませんでしたもの」


「下心・・・」


「でも、皆はその事を知りません。ここで更に事実無根の言いがかりをつけられるなどもってのほかですわ。そう思われませんこと? セシリアンさま」


「あ、ええと、うん。そうだね」



何とも思ってないなどと言われ、いささか傷ついた表情のアンドレに気を遣って、曖昧に頷いた。



とにかく今日のパーティは、例年よりもずっと雰囲気がよろしくない。


一体、どんな風に吹聴したのか知らないが、僕とヤンセン令嬢の幼い頃からの純愛をノッガー家が金と権力を使って引き裂いた、みたいな悲恋話が出来上がっている。



僕とアデラインは婚約者同士であるにもかかわらず、何故かアデラインが僕の隣にいるのはおかしいみたいな話になっているのだ。



悪意があるかどうかはまだ分からないってトル兄は言ってたけど。


そんなのはどうでもいい。


結果、アデラインが困らされている。

言われのない非難を受けている。



それで十分。



「アデライン。今日は僕の側から離れないで。出来たら他の人とのダンスも断って」



僕はそう耳打ちした。



僕とヤンセン令嬢との噂を信じ込んだ令息たちが、さっきから辺りをウロウロしていて目障りなことこの上ない。



どうせ、次の婚約者の座を狙ってるんだろ?


させるか。

というより、そもそも婚約を解消する気なんてないんだからな。



僕はもちろんアデラインの側にいるつもりだけれど、アンドレとエウセビアにも一緒にいてもらおう。


あと頼みの人物は・・・まだ来てないみたいだな。



「セス。それで、その不届き者はどこにいる?」



アンドレは依然、お怒りモードのままだ。


口を出さないようにって、さっきあんなにキツくエウセビアに言われたのをもう忘れてない?



それにさ、どこにいると聞かれてもね。



「僕も顔を知らないんだよ。小さい頃に会ったきりだし、その頃のこともよく覚えてないし」


「心配しなくても、到着したらあちらから来られますわよ。セシリアンさまから探したりしたら誤解されてしまいますわ。『やっぱり会いたいと思って下さってたのですね。きゃあ嬉しい』なんて言われたいのですか?」


「げ・・・」



エウセビアがしれっと怖いことを言ってきて、思わず身震いしてしまった。



その時、会場がざわめく。



義父が会場中央に現れたのだ。


開始時刻が近づいたということか。



本日の主役である僕とアデラインもそこに向かう。



ノッガー侯爵の隣に立った僕は、笑みを浮かべてアデラインの腰に手を回す。



そのまま周囲をさりげなく見回した。



もうじき、義父が始まりの言葉を告げる。



その時。


人混みが割れた。



ひょっこりと現れた明るいピンク色のドレスを着た令嬢が顔を出す。



知らない顔。


でも。



--- 栗色の髪の・・・



トル兄がそう言ってたっけ。




僕はゆっくりとアデルに視線を向けた。



「ねえ、アデライン」



笑みを浮かべる。湧き上がる幸せが自然と滲み出るように。



少し緊張気味のアデラインが僕を見上げる。



「何があっても僕の気持ちを疑わないで。僕が一緒になりたいのは君だけだ」



アデラインは僅かに目を瞠って。


恥ずかしそうに頷いた。



視界の端で、不思議そうに首を傾げる姿が映る。



そして、そんな僕たちを見て、会場のあちこちで微かな驚きの声とざわめきが起こった。


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