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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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迷惑です


ああ、十か月近く前の僕を殴ってやりたい。



僕は、呑気に事を構えていた自分に呆れていた。



ヤンセン男爵令嬢。



後から考えてみれば、トル兄が前に忠告してくれてた子の名前だ。



--- 一応名前だけは教えておくよ。サシャだ。サシャ・ヤンセン。お前の一つ下だったから、今は14歳だな ---



--- もしどこかで再会しても、あまり最初から気安くするなよ? サシャが今もお前を好きだとは限らないけどさ、万が一にでも誤解されたくないだろ? ---



いや、トル兄の情報網はすごいと思うよ。


さすが美術講師。さすが順番待ちがすごいと噂される人気者の文化人。



だけどさ、再会してもいないうちに噂が立つって、どういう事さ?



これって、僕の側で予防とか無理な話だよね。



この先のことを思うと、面倒の一言しか浮かばず、溜息が出る。



あのお茶会の帰りの馬車の中。


アデラインの沈黙が痛くて。


また、あの言葉を言われるんじゃないかって、少し怖くて。



そう、あの。



--- 素敵なご令嬢を見つけて、その方と幸せになって ---



アデラインと僕との距離を、否が応でも思い出させる呪文を。



でも、馬車を降りても、一緒に夕食を取っても、その後もずっと。



アデラインはそれを口にしなかった。



それだけは嬉しかった。


僕が側にいてもいいと、思ってくれてるような気がして。


それは自惚れかもしれない。

自分に都合よく勘違いしてるのかもしれない。



それでも、だとしても嬉しかった。



アデラインの側にいなくても構わないって、アデラインの口から言われなくて、すごく嬉しかったんだ。



とにかく、その噂に対抗するには、まず僕自身がその内容をよく知らないといけない。


僕だけじゃ上手く情報を集められないから、結局トル兄のところに行って相談してみた。



そしたらトル兄はもう色々と知っていて、僕が来るのも予想していたみたいだった。



美術教室の生徒たちの間でも、結構な話題になってるらしくて、こと細かに噂の内容を教えてくれた。



そこから判断するに、あのお茶会でご令嬢方から言われていた事は、随分とオブラートに包まれていたようだ。


そう。あれで彼女たちは遠慮してくれていたんだ。



どうやらヤンセン男爵令嬢は、父親が経営する大手商会の関係上、あちらこちらにツテがあるらしくて、会う人会う人に自分の想い人が理不尽なやり方で別な人の婚約者にさせられたとか何とかって愚痴を零してるんだって。



実家に経済的援助を受けた上で養子に行ったから、それを言ってるのかもしれないね、ってトル兄は推測していたけれど。



単純な勘違いが重なって大いなる誤解につながったのか、それとも悪意でわざと話を捻じ曲げたのか、そこまでは分からないな、って言っていた。



まあ、まだ再会してもいなかったんだから、お前の非ではないよ、そう慰めてくれたけど。



僕の非とか、そういう事よりも。


アデラインが落ち込んでいる今の様子が僕は許せなくて、苛々が募るばかりで。



まあ、遅かれ早かれ、お前の前に現れるよ。

多分、お前に酷いことをしてるつもりなんてないだろうからね。



トル兄のその言葉は正しかった。



僕とアデラインの16歳のまとめてパーティの参加者リストに、サシャ・ヤンセンの名前があるのを見つけたから。



トル兄の言葉が頭を過る。



セス、その時は冷静に立ち回ることを忘れるんじゃないよ。



お前たちに一切の非はないんだ。

堂々と、余裕を持って、周りの状況を見極め、自分の行動が及ぼす結果を考えながら動くんだよ。




分かってるよ、トル兄。


冷静に、落ち着いて対処するさ。


アデラインの非になんかさせないから。



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