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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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僕がいるよ

アデラインの言葉は、まるで僕になんか一欠片の好意も関心もない、そう拒絶しているかのようで。



だから、僕はまずアデラインの言葉にすごくショックを受けて、それから酷くがっかりして、最後には腹を立てた。



だけど、すぐにこう考えた。

この感情は決して表に出してはいけない、僕は養子で、アデラインは実子だ。



表面的な付き合いをしよう。


やり取りは事務的に、トラブルを起こさないように気をつけながら、それなりにやっていくしかない。そうだ、それでいい。


どうせ向こうも僕には興味がないんだから。


・・・結婚できるなんて、浮かれていた僕はとんでもない大馬鹿だ。



幸い、僕は母譲りの前向きな性格をしていた。

だからすぐに頭を切り替えた。


せっかく裕福な家に引き取られたんだ。

学べることは全て学び、身につけられることは全て身につけよう。


婚約のことも、後継者の話も、僕がどうにか出来ることではない。だから放っておけばいい。



そう決意して、次の日の朝、食堂に降りて行った。


そして中に入るなり、僕は目を丸くしたのだ。



大きな大きな広間に、これまた何十人も座れそうな広い広いテーブル。


そして、そこにぽつんとひとり座っていたのは、美しいアデライン。


彼女は表情もなく静かに朝食を取っていた。



「・・・おはようございます。あの、侯爵さまは」


思わず話しかけた僕に、アデラインは不思議そうな表情を向けた。


「・・・? おはようございます。お父さまはお仕事に行かれましたが」


当たり前でしょう、とでも言いたげな口調に、僕はもう一度驚いた。



生家とは全然違うから。


別に大きくもないテーブルに家族六人がぎゅうぎゅうに座って、質素だけどそれなりに美味しい食事を和気あいあいと食べる。

兄弟同士では、気に入った料理の取り合いなんか日常茶飯事だった。


全く貴族らしくないスタイルだけど、家族全員が揃う楽しいひとときが大好きだった。


そこにあったのは笑い声と楽しいおしゃべりと温もりと触れ合い。



なのに、ここは。


・・・いや、きっと今朝はたまたまだ。


そう思って行った夕食の場には、やはり侯爵の姿はなかった。


次の日も、そしてまたその次の日も。


休日ならばと思ったけれど、侯爵は一日中書斎に篭っていて、食事も別に取っていた。



豪華な食事、熱心で優秀な家庭教師、ふかふかのベッド、掃除が行き届いた広い屋敷、沢山の使用人。


だけど、アデラインはいつもひとり。


親切なメイドや執事がいるとしても、彼らは家族ではない。


この家には、彼女を抱きしめ、頭を撫でてあげる人がいない。


勿論、それは今の僕も同じで、生家の温かさがもの凄く恋しくなったけど、だけど同時に、アデラインがたまらなく可哀想になった。



こんな寒々しい空気を、当たり前だと思って過ごしている姿が。



・・・ああ、これじゃあ嫌になるよね。


家庭なんて、結婚なんて、夢見たくないよね。

ひとりでいたいと思うよね。


家族がいるのに孤独な君は、家族がいない孤独を選ぼうとしてるんだ。




分かる。


分かるよ、アデライン。

僕は君がなぜそう思ったのかが分かる。



美しくて、寂しくて、孤独なアデライン。


やっぱり僕は、君を放っておけない。




それで僕は、ある日朝食の席でアデラインにこう言った。


「おはよう、アデライン。隣に座ってもいいかな?」


アデラインは、目をぱちぱちと数回瞬かせ、しばらく僕の顔をじっと見つめていたけど、やがてこくんと頷いた。


「ありがとう。じゃあ、ここに座るね」


そう言って、すぐ隣の席に座る。


「僕はさ、スクランブルエッグにはチーズを入れて欲しい派なんだ。アデラインは?」


話しかけたら、また目をぱちぱちとさせた。


「・・・チーズ入りは、わたくしも・・・好きよ?」


「そうなんだ。僕たち、気が合うね」


「・・・スクランブルエッグだけで分かるの?」



不思議そうに聞いてきたアデラインに、僕は笑って答えた。



「信じられない? じゃあ、もっと話をしようよ。好きな色、好きな食べ物、好きな本の名前。君は僕の話を聞いて、僕は君の話を聞く。そしたらきっと僕たちが気が合う同士だって分かるから」


「え・・・?」


「はい。じゃあ質問その1。アデライン、君の好きな花の名前は?」



目をまん丸にして驚くアデラインに、僕はにっこりと微笑んだ。





大丈夫だよ、アデライン。



もう君はひとりじゃない。


僕がずっと、君のそばにいるから。

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