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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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エウセビアの考察


「あらあら、またお二人のお邪魔してしまいましたわね」



アデラインの見舞いを終えたようで、エウセビアがサロンに入って来た。



彼女はどうも、僕たちをこのやり方で揶揄うことに決めているらしい。



だがアンドレもエウセビアの物言いには諦めたのか、或いは単純に面倒だったのか、今回は否定もしなかった。



「エウセビア嬢。アデライン嬢の具合はどうだった?」


「熱も下がり始めて、だいぶ楽になったそうですわ。なんでも考え事をしていてうっかり水がかかってしまったとか」


「考え事?」



アンドレはエウセビアの言葉を繰り返した。


先ほどの僕との会話と符合させ、思うところがあったのかもしれない。



少し考える様子を見せたアンドレの隣で、エウセビアは僕に顔を向けた。



「ところで、セシリアンさまは少しお疲れのように見えますが、大丈夫ですか?」


「ああ、少し眠いだけですよ。夜通し馬車に乗って移動していたので」


「あらあら、それは大変でしたわね。では、ほとんど寝てらっしゃらないのではありませんか?」


「ええまあ。でもそれは義父も同じですから」


「・・・む?」



・・・む? 



「・・・アンドレ? どうかした?」



横で頭を捻りだした男に、エウセビアと僕の視線が集まる。



「ノッガー侯爵は徹夜で馬車に乗って戻ってきたのだったな、お前と一緒に」


「・・・そうだけど?」


「侯爵は、アデライン嬢にまったく関心がないと、さっきお前はそう言っていた気がするが」


「ああ、そう・・・」


「え? そうなのですか、セシリアンさま」



僕が肯定の言葉を言い終える前に、エウセビアが不思議そうに会話に加わった。



アデラインとの手紙の遣り取りでは、まだそこまで知らなかったようだ。



義父とアデルは顔を合わせることすら殆どない事を伝えると、エウセビアもアンドレと同様、複雑そうな顔をしていた。



「・・・屋敷内にいる時すら顔を合わせないほど徹底して避けているのに、昨夜は知らせを受けて直ぐに馬車に飛び乗ったのですね」


「そう。僕もすごい吃驚したんだよね。でも結局、義父はアデルの部屋まで来なかったんだ。部屋の前までは来てたみたいだけど」


「随分と捻くれた行動をする男だな。理解に苦しむ」



うん。アンドレ。

君が言うのもなんだかなって感じだけどね。


ほら、エウセビア嬢も微妙な視線を送っているじゃないか。



「・・・義父にも何か理由があるらしいんだ。まだ話してもらってないから、なんとも言えないけど」



エウセビアは、どこか腑に落ちたようで、「なるほど」と呟いた。



「アデラインさまがご自分の存在を邪魔だと考えていらっしゃるのは、お父さまの行動が原因なのかもしれませんね。今まで、どうしてなのかと不思議に思っていたのですが」



アンドレが思いついたように顔を上げた。



「そう考えているのだったら、侯爵がアデライン嬢を視察旅行に連れて行かなかったのは、彼女にとって相当堪えたのでは?」


「ああ、うん。・・・そうなんだよね」



エウセビアは、少し考えてから口を開いた。



「・・・先ほどアデラインさまのお部屋に伺いましたけれど、とても美しく整えられていましたの」


「え? ああ、うん」



なんだ? 突然。



「調度品や備品も高級なものを設えてあって、広さも日当たりも十分、お掃除なども行き届いていて」


「・・・うん。そうだけど」


「アデライン嬢の部屋・・・」



僕の横で、アンドレがぽつりと呟いた。


なんか、すごく羨ましそうだな。



「屋敷内での扱いは、その屋敷を治める当主の心証に大きく依存します。もしアデラインさまが疎まれているのだとしたら、扱いが良すぎるように思いますわ」


「それはずっと僕も思ってたんだよ」



僕は身を乗り出した。



「屋敷内に居たとしても顔を合わせない様な仲なのに、それ以外の待遇は手厚いんです。ずっと不思議でした」


「・・・」



エウセビアは、思案するように首を傾げた。



「・・・お聞きしている限りで思ったことなんですけれど、ノッガー侯爵さまはアデラインさまを嫌っておられるというよりは、むしろ・・・」


「・・・むしろ?」



僕とアンドレからの期待に満ちた視線が、エウセビアに注がれる。



「・・・ただアデラインさまとの接触を徹底的に避けていらっしゃるだけの様に思えますわ」



嫌っているというよりは。


接触を避けているだけ。



嫌っている訳では、ない。



これまでの義父の姿が頭に浮かんだ。



思わず成程、と呟いて。でも。



もしそうだとしたら。


実の娘と接触したくないのはどうして、という新しい疑問が僕の中に生まれた。


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