表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
44/168

セスの魔法 その2


「ほう。お前は手品も出来るのか。どれ、ひとつやってみろ」


「・・・あのね。言われてすぐに、ハイそうですかって出来る訳ないでしょ。それこそ魔法じゃないんだから」


「む。それもそうか」



捻くれてるくせに、言うことが純情なんだよな、アンドレは。



まあ、そんなに興味津々なら、今度サプライズでやってあげてもいいけど。



そんな事を思いながら、懐かしい思い出に知らず笑みが浮かんでいた。



本当、あの頃はアデルの笑顔見たさであの手この手で頑張ってたな。



ああ、そういえば。


木登りに失敗してケガして、アデラインに心配かけた事もあったっけ。



きっかけは、そう。



アデルの帽子が風に飛ばされて木の枝に引っかかっちゃって。



とても悲しそうに木の上を見上げてて。


今にも涙がこぼれ落ちそうだった。



木陰で本を読んでた僕は、その様子にどこか新鮮さを覚えていた。


普段あまり感情を見せない子が、珍しく表情に気持ちを表していたから。



男性の使用人を呼びに行こうと立ち上がって、でも何となく他の誰かにやらせたくなくて、僕は一旦屋敷の方に向きかけた足をぴたりと止めた。



枝に引っかかった白い帽子は、これまた白いレースが飾られていて、木の上で所在なさげにゆらゆらと揺れている。



その帽子を、とても大切そうに見上げているのは銀色の瞳。



流石にあの高さは挑戦した事がなかったけれど、でも木登りは苦手ではない。



というより、他の誰かに任せたくなかった。



僕が取ってあげたかった。



ほら、って手渡してあげたくて。


だから、黙って上着を脱いだ。

それから靴と靴下も。



すたすたと木に近づいて行った僕を、アデルはびっくりしたような顔で見つめて。



それまでずっと木の上を見上げていたアデルが、僕の姿を捉えたのが何故か嬉しくて。


視界に入っただけなのに、それが誇らしくて。



僕は胸を張ってこう言った。



「アデライン。ここで待ってて。僕が取ってきてあげるから」



僕の手で、この子を笑顔にしたかったから。










「後で聞いたらさ、亡くなった夫人が子どもの時に使っていた帽子だったんだって。大切そうにしてた理由が分かったよ」


「・・・で、調子に乗って天辺まで登って帽子に手が届いたものの、お前はそこから足を滑らせて落っこちた、と」



呆れたようなアンドレの声。


まあ、その反応が普通だから、僕も笑うしかないけどね。



「落ちたと言っても、地面ではないよ? 少し下がったところの木の枝に、上手いこと引っかかったからね。お陰で命拾いしたよ」



全身すり傷だらけにはなったけどね。


奇跡的に、骨折とか捻挫とかはしなかった。



まあ、でも。

思っていたみたいに格好よくは出来なかったのが残念だったかな。



『はい、これ。君の帽子。もう心配いらないからね』



そう言って手渡したけど。



・・・笑顔が見たくてやった事なのになぁ。




アデラインは、すり傷だらけの僕に大泣きした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ