見舞い
「・・・何でお前がここにいるんだ」
「・・・それはこっちの台詞なんだけど」
そうぼやく僕とアンドレを見て、エウセビアは澄ました顔でぽつりと零す。
「まあまあ、相変わらずお二人は仲がよろしいですわね」
「「よくない!!」」
タイミングぴったりで返答した僕たちを、ほらやっぱり、とくすくす笑うエウセビアは何故かとても楽しそうだ。
「・・・え? アデルが君たちを招待?」
「ええ、そうなんですの。数日間、セシリアンさまがおられなくて寂しいので、一日だけでもお茶に来てはもらえないか、とお声をかけてくださったものですから」
「・・・」
僕がいなくて・・・。
口元が緩みそうになった僕を、アンドレがふふんと鼻で笑う。
「エウセビア嬢、話を盛るな。別にこいつがいなくて寂しいなどと手紙には書いてなかったではないか」
書いてないんかい。
「下らない話は止めだ。で、結局、いない筈のお前が何故ここにいる? そして、いる筈のアデライン嬢はどこなのだ?」
「ああ、ごめん。言うのが遅くなって。実はアデルが熱を出して、それで帰ってきたんだ」
それから、視察途中で戻ってくるまでの事情を説明すると、アデルが寝室にいるということもあって、エウセビアだけが見舞いに向かうことになった。
そして今。
僕とアンドレが再び二人きりでお茶を飲んでいる。
「・・・」
「・・・」
「・・・で?」
アンドレが唐突に口を開いた。
「へ?」
「分からん奴だな。で、どうだったと聞いているんだ」
いや、で?って、その一言で分かる訳ないだろ。
「どうって、何が?」
重ねて問えば、あからさまに嫌な顔をされた。
「エウセビア嬢の助言だ。あれを聞いた後、どうなったんだ?」
「ああ、そうだった。すごく役に立ったよ。僕が気がついてなかった事も教えてもらった」
「ほう、そうか」
エウセビアを褒めているのに、何やら得意そうな表情がいかにもアンドレらしい。
だから僕も素直に言葉を続けた。
「君もエウセビア嬢も、色々とアデルのために考えてくれたんだよな」
「その通りだ」
「本当に助けられた、礼を言うよ」
「そうだろうそうだろう。無能なお前だけでは心許なかったからな」
「うん、そうだね。ぜんぶ君のお陰だよ、アンドレ」
「・・・」
あれ? 固まった。
「・・・アンドレ?」
「何か変な物でも食べたのか?」
「はい?」
「妙に素直で気味が悪い・・・」
僕はピンと来た。アンドレ語だ。
素直に礼を言われて恥ずかしい、ってとこかな。
「照れるなよ、アンドレ。僕は本気で感謝してるんだ」
「照れてなどいない。不気味だと言ってるんだ。だいたいお前は何だ。馴れ馴れしく人を呼び捨てにして。私はお前をきちんとセシリアン令息と呼んでいるというのに」
「あれ? そうだったっけ? だったらアンドレも僕のことセスって呼んでよ」
「なっ?」
「ほら、呼んで」
「なっ、なっ」
「アンドレ?」
「・・・な、何だ、セス・・・」
「・・・」
真っ赤で、しどろもどろのアンドレを見るのは中々に愉快だった。
なるほど。エウセビア嬢が構いたくなる気持ちも分かる。
うん、なかなかいい(面白い)友達が出来たかもしれない。




