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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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発熱


結局、侯爵はアデルと言葉を交わすこともなく、僕だけを連れて視察へと旅立った。



僕とアデラインの二人を後継候補としておきながら、僕だけを連れて領地視察に向かう。



そんな侯爵の後ろ姿を見送るアデラインは、やっぱりというか、少し落ち込んでいた。



侯爵は、後でショーンと二人で別の地区に視察に行けばいいとか言っていたけど、侯爵の心の動きに敏感になっているアデルが、それで何も感じずにいられるかと言うとそうではないだろう。


屋敷に残るアデルの心情を思うと、憂鬱でしかないけど。


今は物理的にも離れているから、アデルのために何もしてあげられないのが、はがゆくて仕方がない。



そんな事を考えながら、移り行く馬車の外の景色を眺めていた。



窓の外に見えるのは、のどかな田園風景。



領地視察と言っても、今回向かうのは最も近場にある地区で、規模も比較的小さいらしい。



取り立てて何か目立つ工業も商業も興っておらず、主に流通に使うだけの場所だから、調査量も差程ではない。


それでも、実地で税収の仕分けはどうやるのかとか、帳簿の確認の仕方とか、勉強になることはたくさんあった。


地区の規模が小さかったこともあってか、移動に丸一日費やした後、地区の代官が提出した書類を調査確認してつつがなく終わったのが早くも二日目の夕方。



明日は街中を視察して回って、治安状況を見るのだとか。



街か。


だったらそこでアデルへのお土産が買えるかな。



少し気が緩んで、そんな事を呑気に考えていた時だった。



滞在中の屋敷の使用人が部屋に現れ、「旦那さまにお電話です」と告げた。



義父はすぐに立ち上がり部屋から出て行ったが、何の用だろうと僕が訝しむ間もなく、義父はすぐに戻って来て、ただ一言「すぐにここを出る準備をしろ」と言った。



「え?」



ここを出る?



「あの・・・今からどこかに向かうのですか?」



「屋敷に戻る。ショーンから連絡があった」



屋敷? ショーンから?



言われて立ち上がりはしたものの、意味が呑み込めずに呆けている僕を、侯爵は苛立ちの滲む声でこう続けた。



「30分後にはここを出る。さっさと支度をしなさい」



慌てる侯爵の様子に嫌な予感がした。



「何か・・・あったのですか?」



屋敷で何かマズい事でも起きたのかもしれない、そう考えるのが自然なくらい、侯爵の顔色は酷くて、声も絞り出すように掠れていて。



「あの子が・・・アデルの具合が悪いらしい。高熱を出していると連絡があった」


「え・・・」



アデルが熱を出している。


その話に驚いたのは事実だけど。


それに加えて、目の前の義父の狼狽ぶりが信じられなかった。



・・・あ。


そうだった。

僕は、前に夜会で感じた疑問を思い出した。


その後、うっかり確かめるのを忘れていたことを。


会場で踊るアデラインを愛おしそうに見つめていた侯爵の姿。


侯爵はアデルに何の関心も持っていない、そう考えていた僕は間違っていたのではないか、という疑問。



その疑問はやはり正しかったのではないかと、この時僕は思ったのだ。



だって、侯爵の慌てぶりときたら、それはもう、とにかく凄いものだったから。


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