邪魔者
僕はしばらくの間、言われた事が理解できずに呆然としていた。
それくらい予想外だったのだ。
ランデル令嬢の言った言葉が。
「えと、僕が、辛い目に、遭っている?」
「はい」
「アデラインの、せいで?」
「そう思っていらっしゃるようですわ」
途方に暮れる僕を、ランデル令嬢が気の毒そうに見つめていた。
まず咄嗟に頭に浮かんだことは、嘘だろ、という一言。
あり得ない。そう思って。
でも、その後に少しだけ、あれ?って思うところがあって。
それから思い出したのは、初めて会った時から、口癖のようにアデラインが僕に言っていた台詞。
--- 貴方の邪魔は絶対にしないから貴方は好きな人を見つけて、その人と幸せな結婚をしてね ---
・・・貴方の邪魔はしない
「・・・」
アデラインが、僕の邪魔だって?
僕が、アデラインとでは幸せな結婚が出来ないって?
どうして。
おはようのハグ。
お休みのキス。
選んだ髪飾り。
贈ったブローチ。
一緒に育てた小鳥。
頬を染めて、はにかんでいた。
真っ赤になって照れてくれた。
嬉しそうに笑ってくれた。
僕の瞳の色だって喜んでくれた。
僕がいるよって、そう言ったら安心したように・・・涙が止まったのに。
「・・・結構、ストレートに想いを伝えていたつもりだったんだけど」
僕の言葉を信じて、なかった?
僕が好きなフリをしているとでも思ったの?
「・・・セシリアンさまの好意やご親切を、アデラインさまは心から感謝しておられましたわ」
ランデル令嬢は、僕の心が読めるのか?
この場には凡そ似つかわしくないツッコミを頭の中で入れてみて、いや今はそんな事よりも、と切り替える。
「でも、僕が辛く感じてるって思ってるんですよね? アデラインを邪魔だと、僕が思ってるって」
「邪魔?」
僕が口にした言葉を、ランデル令嬢が不思議そうに繰り返した。
それから思い出したように頷いた。
「邪魔・・・ええ、成程。その言葉がぴったりですわね」
「だけど」
僕は遮るように否定の言葉を重ねた。
「僕はアデラインを邪魔だなんて思ったことは一度もない」
なんで、そんな。
「ええ勿論ですわ。セシリアンさまがアデラインさまを邪魔に思うなんてあり得ません」
「・・・へ?」
僕はしげしげとランデル令嬢を見つめた。
「セシリアンさま」
エウセビアは、苦笑しながら言葉を継ぐ。
「セシリアンさまがアデラインさまを邪魔に思われているなんて、あの方は一度たりとて思った事はありませんわ」
「じゃあ・・・」
「・・・アデラインさまがご自身のことを邪魔だと思ってらっしゃる様なのです」
「え?」
エウセビアは頬に手を添え、首を傾げる。
「詳しい理由はわかりませんわ。まだ文通を始めて数カ月ですもの。・・・でも」
セスを真っ直ぐに見つめ、言葉を継いだ。
「アデラインさまは、ご自分がセシリアンさまの幸せを邪魔していると思っておられるようですよ」
「え・・・?」
「そうなんです。それはもう、見事なまでに・・・」
僕はごくりと唾を飲み、続きを待つ。
見事なまでに・・・?
「見事なまでにすれ違っておられますわね、おふたりは」
ある意味、アンドレさまの初恋と同じくらい不思議な拗れ方ですわ、と溜息を吐いた。




