訪れた闇
「アーリンッ! アーリン・・・ッ! 嘘だろう、こんな・・・こんな・・・っ!」
ベッドの上に静かに横たわる、もう言葉を発することのない母の骸をかき抱き、父は泣き叫んだ。
目の前の現実が受け入れられなかったのだろう、父は物言わぬ遺体に取り縋る。
朝に夕に泣き続けた。叫び、喚き、暴れ続けた。
三日三晩、ろくに食事も睡眠も取らず、ただただ嘆き続けたのだ。
そうして父は疲れ果てた。
母のいない世界に、何の意味も見出さなくなった。
かつて、父と母から絶えず柔らかな笑みを向けられていた娘は、母が亡くなった今となっては、父の目に何の存在価値もなかったらしい。
少なくとも娘は、そう感じた。
父はもう、娘に特別な関心を払わない。
必要事項のみを伝え、最低限の接触で済ませ、後はただ黙って仕事で城と邸を往復するのみ。
妻によく似た娘は、彼にとって失ったものの大きさを思い知らせるだけの存在だったのだ。
それ程に母を深く愛していたのだろう。
もう何もかもが、どうでもいいと思える程に。
最愛の妻との愛の結晶である筈の娘を、視野に入れることが出来なくなる程に。
恐らくは、妻の後を追って自死しなかっただけ父は忍耐していたのかもしれない。
それが、精一杯だったのかもしれない。そうかもしれない、けれど。
かつての愛娘には、そう考える余裕などなかった。
その時まで、自分が愛されていると、大切な存在である筈だと、健気に信じていた子どもにとっては。
向けられていた愛情が実は自分に対するものではなく、ただ愛する妻の姿を通しておこぼれに預かっていただけだったと思い知らされた娘にとっては。
・・・愛になんて、振り回される方が愚かだわ。
アデライン・ノッガー。
六歳で愛を恐れ、嫌悪した娘は、今日、十五歳になった。