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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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当主夫妻の部屋の話



ノッガー侯爵家は四階建て。


その本館の他に、離れと使用人用の居住棟、物置と厩舎、温室などがある。



本館で一番良い部屋は、もちろん当主夫妻の使う部屋で、日当たりが良く広さも申し分ない。



だけど、アーリン夫人が亡くなった時、悲嘆のあまりに彼女を思い出させるもの全て --- 思い出の品だけでなく夫人を知る使用人すら領内の別邸に移動させた義父が、今もその部屋を使っている筈がないのだ。



忘れ形見であるアデラインを除いては、その部屋こそが亡くなった夫人を最も強く義父に思い出させるものだったから。



そういう訳で、本館で最も良い部屋である当主夫妻の部屋は、もう十年以上閉ざされたままだった。



そして、僕は今、その部屋の真ん前に立っている。



「・・・模様替えをする迄は気づかなかったけど、ここ空っぽになってたんだよね」



夫人が亡くなった時の状態そのままを保っていたのかと思いきや、なんと全て撤去して別邸へと運ばせていたと言うから驚きだ。


いや、その徹底振りには、もはや驚きを通り越して呆れたと言ってもいいかもしれない。



「まあ、お陰で模様替えをするにもほぼ搬入だけで済んだけどね」



そう。


当主夫妻の部屋は、もうすぐ僕とアデラインの部屋になる。



この部屋を整える準備もしなきゃいけなかったから、アデラインの負担がまた大きくなっちゃったんだけど。



「夫人不在って、こういう時にキツいよね」



アーリン夫人がいない分の穴埋めも、アデルはずっと頑張っていたんだ。



扉を開け、中へと足を進める。



当主夫妻の部屋は、もう空っぽだった頃の名残はない。


アデラインの差配により、絨毯が敷き詰められ、カーテンが取り付けられ、選び抜かれた家具が運び込まれて。



明るく、でも落ち着きのある色合いの壁紙に、天井の中央には小ぶりのシャンデリア、アデライン用のドレッサー、ローテーブルに座り心地の良さそうなソファ、そして。



「・・・」



部屋の奥にある天蓋付きの大きなベッド。



当たり前なんだけど、この部屋にあるものは全て、僕とアデラインの二人で過ごすこの先の未来を連想させるもので。



「本当に、僕、アデラインと結婚するんだな・・・」



最近になって、ようやく湧いた実感。


それが言葉になって、するりと零れた。



ここに養子に来てからそれほどの時間を置かずに、アデラインの家族の枠には入れたと思う。


でもそこから、結婚の相手として見てもらえるようになるまでが長かった。



--- 貴方は大事な義弟だから ---



--- どうか幸せになって ---



--- 素敵なご令嬢を見つけて ---



--- 貴方の邪魔はしないわ ---




初めて言われた時は、ショックだったなぁ。



もしかして、このままずっと弟枠なのかと焦りもした。


愛を怖がるアデラインに、どうやったら安心してもらえるのか悩んだり。


格好いいとこ見せようと、いろいろ頑張ったりもしたっけ。



でも。



「もうすぐ、僕のお嫁さんになってくれるんだね」



夢みたいだ。

本当に夢だったら困るけど。



もう一度、部屋の中を見回してから僕は踵を返す。



そして。



僕はそっと扉を閉じた。



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