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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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新しい肖像画



「お帰りなさい、セス」


「ただいま」



なんとなく離れていた時間が寂しくて、セスは迎えに出てくれたアデラインを、そのままぎゅっと抱きしめた。



アデルは少し驚いた様に軽く息を呑んだが、突然のハグを嫌がる様子はない。


むしろセスの背中にそっと手を回し、宥める様にぽんぽんと叩いた。



「トルファンお義兄さまは、協力して下さる事になったの?」


「うん。なんかいろいろ二人で話し合ってたよ」


「そう。お義兄さまが相談に乗って下さるのなら安心ね」



小さな頷きを返すと、セスは、ねえ、と呟いた。



「アデルはどうだった? 今日はどれくらいかかったの?」


「二時間くらいかしら」


「・・・じっと見つめられても惚れちゃわないでね?」


「まさか」


「・・・だって、あんなに若い人が来るなんて思ってなかったから」



不貞腐れた声を出すセスに、アデルが困ったように笑う。



「ランジェロ先生は、もう三十五歳になられたそうよ?」


「三十五は十分男盛りだよ。アデルは清楚で可愛らしいからさ、要らない心配と言われても、つい、ね」




そう。


実は今、アデラインの肖像画を描くために画家がこの屋敷を訪れているのだ。


その画家の名前が、ランジェロ・ヴィスコンテ氏。



そりゃあね、アレは僕の勝手な思い込みだったと思うよ?


白髪で、長くて白いひげを垂らした丸メガネのおじいちゃん画家がやって来るって思い込んでいたんだもの。



でも有名な肖像画家って聞いてたから、つい、そうなんとなく、高齢の人かと思ってたんだ。


だから初日はもの凄く驚いたんだよね。



画家というよりは騎士じゃないかと思ってしまうくらいにがっしりとした体格のワイルドマッチョが現れたものだから。



男の僕でも見上げるくらいの背の高さに豪快な笑い声。


日焼けした肌に、うっすらと生える無精ひげ。



モデルを静かにさせておくことを決して強要せず、好き勝手にお喋りしたり、多少体を動かしても気にしないでいてくれる・・・らしい。



だから、描かれる側の負担も普通より少なく、なのにモデルの生き生きとした自然な表情を巧みに捉えて描いてくれるから、ますます人気が出てるんだって。



今回は義父の伝手で来てもらったみたいなんだけど、あちこちフラフラしている人らしく、普段は直ぐに捕まらないんだとか。




そう言えば、昨日アデラインが屋敷に残った用事については詳しく話さなかったというのに、結局トル兄は勘づいていたようだった。


「よくあんなに早く連絡が取れたよね。ノッガー侯爵って人を見つけるのがよほど上手いのかな」なんて言ってたっけ。



て言うか、トル兄こそなんでそんなに情報を集めるのが上手いんだろう。



そんな事を思いながら、腕の中のアデラインを覗き込む。



「続きはいつ描くの?」


「明日よ。早く旅に出たいから、来週までには描きあげたいのですって」


「そっか。出来上がりを見るのが楽しみだね」


「ええ」



今回、アデルの肖像画を描いてもらうことを提案したのは僕だ。



昔の家族の肖像画を見た義父は、アデルをアデルのまま見ることが出来たと言っていた。



ならば、今のアデラインの絵姿ならばどうだろう。


それをアーリン夫人の肖像画と並べて置いてみれば?


アデラインの肖像画だけを見た時と、何か変わるだろうか。



義父の感覚の歪みは出るだろうか、それとも。


・・・もしかしたら、感覚が歪むことなく今のアデラインを認識するための糸口が見つかるかもしれない。



僕の意見を聞いて、もしかしたらと思ったのだろう。

その後の義父の行動は速かった。



どうやってランジェロ氏と連絡を取ったのか、彼が画材を抱えてこの屋敷を訪れたのが、僕が提案してから一週間も経たない一昨日のことだった。


そうしてやって来た彼は、肖像画を描き終えるまでこの屋敷に滞在することとなる。



次いでに言うと、ここに来た時のランジェロ氏のアデルに対するやたら親しげな態度が、ちょっと僕の不安を煽ったわけだけど。



自分で発案しておいて、くだらないヤキモチを妬くなんて馬鹿みたいだって分かってるんだけどね。


それに、ランジェロ氏のアデラインを見る目は、とても優しくて親しげだけど、でも決して恋愛感情を宿してはいないということも。



そう、よく分かってるんだ。


分かってるのにね。



アデルの充電が完了した僕は、ここでやっと愛しい婚約者を抱きしめる腕を解いた。





そして、次の日。



「セス君。ちょっと時間もらえる?」



スケッチブックを片手に、ランジェロ氏が僕に声をかけてきた。



「構いませんが、今日はアデルの絵の続きを描くのでは?」


「ああ、あっちは昼食を食べてからってことになってるから大丈夫」



そう言うと、庭の芝生の上にどかりと座り、おもむろにスケッチブックを開く。



「セス君に話しておきたい事があるんだ。そのついでに君をスケッチさせてもらってもいいかい?」



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