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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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サプライズは続く



これから先、義父とアデラインの関係がどう変わっていくかはまだ分からない。


でも、たぶん、良い方向に向かい始めていることだけは確かだろう。



大事そうに、義父からの手紙を手にするアデラインを見てそう思った。



だけど、嬉しい驚きはその後も続いた。



義父が夕食前に帰って来たのだ。



そして、僕たちの前に・・・より正確に言えばアデラインの前に顔を出して。



さて、どうするのかなと思えば、やはり今回もたった一言だけ。


「ただいま」と言った。



「・・・お帰りなさいませ」



アデラインのその返事は、義父の耳に届いただろうか。



そそくさと扉を閉めて立ち去ったから、はっきりとは分からない。



なにせ、「ただいま」という声を聞いてから義父が扉を閉めてしまうまでの時間は、僅か10秒かそこら。



扉が開いたと思ったら、義父が顔を出して声をかけて来て、あれ?と思った時には、再び扉は閉まっていたのだ。



アデラインはよく咄嗟に言葉を返せたものだと感心してしまう程の短さだった。



いや、義父上にしても、目を瞑らないとこっちを向けないというのは、さぞや大変なんだろうとは思うけどさ。



それにしても、なんというスピードで去って行くのだ。義父上、貴方という人は。



「・・・行っちゃったね」


「ええ」


「来たと思ったらすぐいなくなったね」


「ええ」


「・・・でも来てくれたね」


「・・・そうね。来て下さったわね」



夕食前に帰って来たからと言って、同じテーブルで食事をする訳でもない。



たった一言「ただいま」を言うためだけに、義父は帰って来た。



そして、これから自室でひとり夕食を食べるのだろう。



「・・・ここに来て随分経つけど、義父上がああいう性格だって、ずっと知らなかったなぁ」



思わず溢れた言葉に、本当ね、とアデラインも首肯する。



「話がどんどん拗れる訳だ。あれだけ不器用だったらねえ・・・」




不器用で愚直で頑なで、なおかつ必死。



本当の本気で、アデラインを遠ざけ、避け続けることが最良の解決策だと信じていたのだろう。



でも、今日だけでも随分と前進した。



初めての手紙に、初めてのただいま。


幸先は悪くない、うん、その筈だ。



「・・・いつか、お父さまと夕食をご一緒出来るかしら・・・」



不安半分、期待半分の声が僕の耳に届く。



「う~ん。義父上のスキルアップ次第かな」


「え?」


「目を瞑ったままの食事になるでしょ? ナイフとフォークを自在に使えるようになってもらわないとね」


「・・・」



きっと、昨夜の姿を思い出したのだろう。

ソファにたどり着くまでに、あちこちにぶつかり、転びそうになった姿を。



「・・・まず、軽食スタイルの場でお誘いした方がいいかしら。手でつまんで食べられるようなものをお出しして」



真面目に悩み出したアデラインを見て、僕は思わず吹き出してしまった。



可愛くて優しいアデル。



それでも、やっぱり、どうにかして義父上を誘いたいんだね。



こんなに大事に思われてるのに、ずっと気がつかなかったなんて。



まったく。

あの罰あたりめ。




そんなことを思ってしまったから。



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― 新着の感想 ―
[一言] とても良い小説でした。
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