ぐるぐる
--- 地の果てまでも、セスと一緒に ---
ぷるぷると決意に身を震わせながら涙目で語るアデラインに、僕は自分の失敗を悟った。
どうする?
どうする?
『駆け落ち』なんて、場を和ませるために言ったのに。
決意させてどうするんだよ。
いや、最終手段としてはアリかもしれない。
アリかもしれないけど!
というか、別れさせられたら絶対に実行するけど!
場を和ませる冗談としては明らかに失敗だ。
余計に緊縛した空気になっちゃったぞ。
どうしたらいい、もう一発、冗談をかましてみるか?
いやいや、どうやら僕は冗談が上手くないみたいだし、下手すると余計に泣かせてしまうんじゃ?
「ええと・・・アデル、僕は・・・」
ああ。
アデルの眼から涙が溢れそうだ。
ぐるぐると思考が迷走して、頭がパンクしそうだ。
「僕は・・・」
ええい、ままよ。
ぎゅっ。
ちゅっ。
「・・・」
「・・・」
・・・よし。
今度は成功したみたい。
涙が引っ込んだぞ。
うん。
心なしか、空気も緩んだ気がする。
僕は安堵して、ホッと息を吐いた。
「あ、の・・・セス・・・?」
腕の中であわあわと動く可愛い生きものに視線を戻す。
もう泣きそうな気配は消えたけど、今度はリンゴみたいに真っ赤になっていた。
アデラインは両手で頬を押さえると口をぱくぱくさせて。
「い、い、い、今、今、なにを・・・」
うん。動揺する姿もまた可愛い。
「ええと、キス?」
「なん、なん、なんで、目に?」
「ええと、涙が溢れそうだったから、思わず?」
そう。思わず。
思わず、アデラインの目の際に唇を押し当ててしまった。
そして、ちゅっと涙を吸い上げたのだ。
何故そんな事を?と聞かれても、なんとなく?としか答えられない。
ただアデラインの泣きそうな顔が可愛くて、慰めたくて、涙の雫一粒も溢したら勿体ない気がして。
・・・って、よく考えたら、とんでもなく大胆な事をしてしまったんじゃないか?
僕はアデラインの顔を覗き込む。
「ええと、ごめんね? 嫌だった?」
嫌われたらどうしよう、そんな不安が頭をもたげた時。
アデラインはふるふると首を横に振った。
「嫌ではなかった、わ・・・。その、少し驚いたけれど」
頬を朱に染め、俯き加減にそう話す姿は、もう僕の心臓を撃ち抜くには十分過ぎて。
胸の鼓動にばかり注意が行っていた僕は、それまでの話からちょっとばかり気が逸れていた。
だから、アデラインが話題を戻した時に驚いたのだ。
そうなるのは当たり前なのに。
「あのね、セス」
「うん、なあに?」
「言いにくい事かもしれないけど、きちんと教えてほしいの・・・お城でお父さまと話し合ったこと。どうしてわたくしを避けてらっしゃるのか、どうしてわたくしを嫌うのか」
「・・・」
「お願いよ、セス」
そう言ってアデラインは胸に手を当てた。
「そっか・・・」
そうだよね。
そう思うのは当たり前なのに。
話を逸らそうとするなんて、僕も義父上のことを言えないや。




