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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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それを独占欲と言います

「大丈夫? 夜会で疲れてないかい、アデル?」



帰りの馬車の中、僕は向かいの座席に座るアデルにそう尋ねる。



アデルは大丈夫よ、と微笑んで返したけど、馬車に乗ってから目に見えてほっとしてたから、緊張していたことは間違いないだろう。



・・・もともと、人が集まる場所ってアデルは得意じゃないものね。



まあ、それは僕もだけれど。



今はアンドレとかエウセビアとかサシャとか、夜会で話をしていても気疲れしない相手が出来たから随分と気が楽になったけど。


あ、最近はジョルジオ令息も側に寄って来てくれるようになったっけ。


前はアンナス兄さん夫婦とトルファン兄さんくらいしか頼れる人がいなかったからなぁ。


けっこう心細かったんだよね。



しかも、僕は養子に出された身でしょ?

あまり生家の兄弟たちに引っ付いてるのも噂のタネになっちゃうからさ。


軽い挨拶くらいしか出来なかったんだよな。


まあ、普段から生家には好きなだけ寄らせてもらってるし、敢えて夜会で親しげなところを見られて変な勘繰りをされるのも避けたかったって事もあるけどさ。



・・・ホントは、義父がそういうときにケアする立場にいる筈なんだよね。


当然の如く、夜会でも別行動だし、何だったら義父がそもそも来てないときもあるし。


同じ家に住む家族なのに、夜会に来てみて久しぶりに顔を見るとか、何なら来てなくてビックリするとか、普通だったらあり得ないと思うんだよ。


今夜は義父が遅れて参加したみたいだから、王太子夫妻からも別に聞かれずに済んで助かったけどさ。


大体、あの人は親としての・・・




「・・・セスこそ大丈夫? なんだかぼうっとしているみたいだけど」


「え?」


「さっきから窓の外をぼんやり眺めているから」


「あ、ああ、そうか。そうだね、うん、ごめん」




いけない、いけない。


僕はどうも義父の事となると熱くなって考え込んじゃうみたいだ。



アデルへの態度をどうにかして欲しいと思いながら、どうにもできない自分に腹を立てて。



「・・・月が綺麗でさ、つい見惚れちゃってた」



そう言って、誤魔化した。



「月・・・?」



アデラインは窓からそっと夜空を見上げ、僅かに笑む。



「・・・そうね。綺麗な満月だわ」



淡い月の光を浴びたアデラインは、何だか少し儚げで。


微笑んでいるのに、どうしてか不安がかきたてられる。



・・・こんなに僕の色だけを纏ってくれているのに。



不安だなんて言ったら、アンドレに鼻で笑われそうだ。




ふと、アンドレが夜会で会うなり僕に言ってきた一言が蘇り、苦笑が漏れる。


彼はこう耳打ちしたのだ。



「・・・独占欲の塊のようなドレスだな」




そう評された今夜のアデラインのドレスは、深みのある濃赤に金の刺繍という僕の色一色でまとめられたもの。


加えてアクセサリーも、金の台座にレッドインペリアルトパーズを嵌め込んだイヤリングとネックレスという念の入れようだ。



・・・アンドレは「独占欲の塊」って言ったけどさ。



自分の色を纏ってほしいっていうのは、男だったら一度は持つ願望じゃない?


大体、そんなことを言ってきたアンドレだって、エウセビアのアクセサリーと色がおそろいのカフスボタンとポケットチーフをちゃっかり付けて来てたじゃないか。



「そうだよ、何も僕だけじゃないのに、アンドレの奴・・・」



思わずぽそっと口から零れた言葉に、アデラインが「え?」と反応する。



「ああ、何でもない。ちょっと独り言」



そう言って誤魔化して、僕の色で包まれたアデラインの姿をもう一度確認して、一人満足する僕がいる。



まあでもね。

仕方ないと思うんだ。


たとえ独占欲だと言われても。



他の令息たちに見せつけておきたいのは本当のことだもの。



アデラインが恥ずかしがるからやらないけどさ。


本当はこう言ってやりたいくらいなんだから。



見て、この美しい人が僕の愛する人だよって。


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