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彼女を恋愛脳にする方法  作者: 冬馬亮
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まとめてパーティ

「アデライン嬢、15歳になられたそうですね。おめでとうございます」


「セシリアンさま、15歳になられるそうですね。おめでとうございます」



一日空けて誕生日を迎える二人を、間をとってその中日にまとめてパーティで祝うという、ある意味雑で、ある意味合理的な侯爵の決定は、祝い文句までもを微妙なものにしていた。


なにせどちらの誕生日でもないのだ。


決まり文句の例の挨拶は使えない。



もとより祝われるつもりのない二人にとっては、そんなことは突っ込む気にもなれないから、そのままスルーだ。



・・・それよりも気に入らないのは、令息たちのアデルへの視線だよね。



表情だけは誰もが見惚れるような完璧な笑みを浮かべつつ、セスは心の中でアデラインを囲む令息たちに向かって毒を吐いていた。



僕の婚約者だって知ってて群がってくるんだからタチが悪い。


そりゃまあ、確かにアデラインの美しさは、群を抜いてはいるけれど。



そんな事を考えながら果実水の入ったグラスに口をつける。


よく冷えた液体が喉を潤し体内に収まっても、セスの心にある苛立ちを冷ましてはくれない。



特に、あいつ。



セスの視線の先には、アデラインの隣で嬉しそうに話をしている青年がいた。



毎年、毎年、よくもまあ飽きもせずに引っ付いてくれるよ。



アンドレ・デュフレス公爵令息。



一番最初の『誕生日まとめてパーティ』の時には、あいつに思いっきり睨みつけられたんだよな、僕。


あ、それにイチゴ水を頭からかけられそうになったっけ。



婚約者として皆に紹介されて早々の出来事に、その時はどう対応していいか判断しかねて、随分と戸惑ったものだった。



まぁ、アデラインからは全然相手にされてないけどね。



僕という決まった相手(婚約者)がいるにもかかわらず、アデラインを狙う男は多い。



なんといっても、アデラインはノッガー侯爵家の唯一血の繋がった娘なのだ。


しかもとんでもない美少女でもある。


穏やかだけど芯はしっかりしてるし、控えめで可愛らしいし、勉強熱心で努力家だし、自分をひけらかすような振る舞いもしない。



嫁にしても婿になっても条件がいいことには変わりないのだ。



僕が養子として入った以上、嫡男だってアデラインを妻に迎えることは不可能ではないし、僕を押しのけて婿に入ることだって出来ないことではない。



次男三男で入婿先を探している令息はごまんといるのだから。

 


そんな理由で、アデラインは文字通り令息方に囲まれている。



貼り付けたような微笑みでアンドレや他の令息たちと会話しているアデラインを見て、寝る前にハーブティーを淹れてリラックスさせてあげないとな、などとセスは考えた。



きっと、パーティが終わる頃には、神経をすり減らしてクタクタになってるに違いないから。




だけど、そんな状況はセスも同じだ。


養子とはいえ、セスもノッガー侯爵家の人間なのだから。



・・・来たな。



すっと伸びてきた腕を察知して、さりげなく一歩下がる。



空を切った腕は、所在なく彷徨った後に何事もなかったかのように戻っていった。



人の身体に勝手に触ろうとしないで欲しい、そうハッキリ言えたらどれだけ楽なことか。



セスはひっそりと息を吐いた。



「セシリアンさま、ここはなんだか少し暑くありません? わたくし、外の空気にあたりたくなっちゃいました」


「・・・温度管理がなっていなくてすみません。バルコニーはあちらですよ」



そう言って右手でバルコニーの位置を指し示すと、一瞬無表情になったその令嬢は、だがしかし直ぐに笑顔を取り繕い、「一緒に行ってくださいません?」とのたまわってきた。



「生憎と、僕は少し寒いくらいなのでバルコニーは遠慮しておきます。ご令嬢おひとりでどうぞ」


睨みつけられても完全スルーだ。



・・・全く、あっちでもこっちでも。



セスは舌打ちしたいのを堪えて笑みを浮かべる。


これと似たようなやり取りを、令嬢方と既に何度繰り返したことか。



ああ、面倒くさい。



貴族として横の繋がりは持っていなくちやいけないのは分かってる。


それに、僕とアデラインの婚約が上手くいかなかった時のために、ある程度の候補を絞っておきたいという侯爵の思惑も。



僕は君がいればいい、君も僕だけを信じてくれればいいーーー


そんな理想は、現実の前に呆気なく砕け散るものだってことは、さすがに15歳にもなれば分かってるから。



だから僕が出来るのは、理想を限りなく現実に近づけることだけ。



そう、その為の努力をするだけだ。

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