光の消えた庭
そこにはいつも笑顔が溢れていた。
暖かな陽が射す中庭、綺麗に剪定された木々は心地よい陰を作り出し、そよ風が葉を揺らす。
大理石のテーブルに白いレースのテーブルクロス、美しい模様の描かれた陶器、淹れたてのお茶、そして幼い私を囲む父と母の柔らかな笑い声。
・・・今はもう、決して見ることのない温かな風景。
エドガルト・ノッガー侯爵とその妻アーリン・ノッガー。
つまり私の父と母は、貴族には珍しい恋愛結婚だ。
それも、熱烈な大恋愛の末に結ばれた二人だという。
ノッガー侯爵夫妻の仲睦まじさを知らない者は、国内の貴族ではまずいない。
確かに、幼心にも父と母はたいそう仲が良かったと思う。
母の優しげな視線はいつも父を追っていたし、父は毎朝登城を渋るほど、母の側にいたがった。
朝の出発前も、夕刻の帰宅時も、父と母は抱擁と口づけを交わしていた。まるで数年間会うことが叶わなかった恋人同士のように熱烈に。
結婚後数年して生まれた一人娘の私を母が抱き、それを更に父が後ろから抱きしめる。
邸の中にいる時は、それが通常の姿勢だったと記憶している。
仲睦まじい、理想の家庭だと思っていた。
愛に溢れた、温かい家庭だと。
自分は、優しい父と母から生まれた幸せな子どもなのだと。
そう信じていた。
・・・六歳のとき、父の最愛の妻であり私の母でもあるアーリン・ノッガーが、流行り病で急死するまでは。