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初夏というべきか晩春というべきか。暑いというべきか温かいというべきか。私を困惑させる昼下がり。リビングのソファで私は横になった。特別眠かったわけではないが、ただ穏やかに過ごしたかった。
瞳を閉じてからどれほど分針が進んだか。私は顔を上げた。うつ伏せで寝ていたから、相変わらずの日差しに照らされた部屋の景色が眩しかった。霞む視界の中で、赤い上着を羽織った中年の見知らぬ男が部屋から出ていくのが見えた。咄嗟に「おい」と声を出したものの、掠れてぎこちない声色になってしまった。男が戻ってくる足音が聞こえてきた。私は跳ね起きて別のドアから玄関へ駆けた。一番近くにあったくたびれたサンダルを履き、体当りするように扉を開けた。そこには見知らぬ茶髪の女が居た。厚手の白いコートに身を包み、見開いた瞳は私を捉えていた。女は硬直していた私を掴んだ。その感触で我に返った私は必死に暴れた。辛うじて女の手を振り払うことに成功した私は再び駆け出した。
気付くと近所のアパートの脇道を走り抜けるところだった。ここまで来れば、と思い速度を落としたら背後からエンジン音が迫ってきた。振り返るとそれは赤い上着の男が運転する左ハンドルの軽自動車であった。助手席からは先程の女が身を乗り出してこちらに手を伸ばしていた。私はまた走った。振り返らずとも私と軽自動車の間の距離が縮まっているのがわかった。半狂乱になった私が振り返ると、女の手が私の背に触れる直前だった。
ここで目が覚めた。
昼寝をしたときに見ました。起きたときには汗びっしょりでした。