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008.幕間

 パタン。と玄関の扉が閉まる音がする。扉を私はじっと見つめる。

 初恋であり、一目惚れだったのだ。私、川瀬優愛はたった今帰った前坂慎也くんに一瞬にして心を奪われたのだと自覚する。


 今日という始まりは最悪なものだった。お父さんとお母さんが亡くなってからずっと自室でふさぎ込んでいた私にお姉ちゃんが痺れを切らして私の部屋に突撃したことから始まった。

 私はそれから逃げるようにモモの散歩と称して久しぶりの外へと繰り出した。だがそこでもアクシデントが。突然鳴ったクラクションに驚いたモモはリードを引きずったまま逃げ出してそのまま川へ入っていってしまう。

 途方に暮れていた私のもとへ颯爽と駆けつけてくれた慎也くん。ショートの茶髪でぱっちりと開いたキツネ目の横顔を見た時私は得も言えぬ衝撃を受けた。今思えば一目惚れだったのだろう。それから泳いでモモを助けるまで私は彼から目を話すことはできなかった。


 その後は私らしくない行動をしたと自分でも思う。家に連れ込んでシャワーを浴びてもらって、夜遅くまで居てもらうだなんて・・・はしたない女の子だって思われてんじゃないだろうかと今になって恥ずかしくなってきた。

 家庭の事情を話し、なおかつ手伝いを要求するのは厚顔無恥だったけど、ここでできたつながりを絶やしたくないと思ったがゆえの行動だと思う。今考えてもやってしまった感はすごいある。


 それでも・・・今後も関われる接点を作れたことは何よりの収穫だと思う。その時彼が見せた笑顔。破顔して大きなキツネ目が垂れてしまったときの目が、あぁ、本心から言ってくれてるんだなと感じ取れて思い出すだけで私の頬までも緩んで戻せなくなってしまう。

 あぁ、あの笑みでギュッと抱きしめてもらったらどれだけ幸せな気持ちになれるのかな。私がモモだったら恥ずかしさもなく抱きしめられにいけるのに・・・・・・



「いい加減戻ったら?春とはいえ冷えるわよ」

「きゃっ!!」


 完全にトリップしていた。唐突に後ろからしたお姉ちゃんの声にびっくりして変な声が出てしまう。

 元クラスメイトでもあり今は姉の彼女にも多大な迷惑をかけてしまった。私がずっと自室で引きこもっていた時は支え続けてくれていたのだから。


「おねえちゃん、ずっとふさぎ込んでてごめんなさい。思わず飛び出しちゃったことも・・・」

「いいのよ、もう平気みたいだし。それよりも驚いたわ。まさか男の子お持ち帰りしちゃうなんて」


 ニヤっとしたお姉ちゃんが口元を手で隠しながら話す。

 違う!って言いたかった・・・だけれど何一つ間違っていない事実に何も言えなくなってしまう。

 こういうところだ。お礼を受けても自然と流して引きずらないように誘導してくれる、こういうお姉ちゃんの大人の仕草に憧れていたのだ。


「お・・・お姉ちゃんもいつもと違ったじゃない!あんなに親切なお姉ちゃん私初めて見たよ」


 せめてもの抵抗。中学でも、外でもいつも冷たいと思っていたお姉ちゃんがあそこまで優しい雰囲気になって人と会話するのは初めてだ。

 私の言葉を受けたお姉ちゃんの反応は予想と違った。軽く頬を染め、目が完全に泳いでしまっている。


「・・・・・・彼なら大丈夫って思っただけよ」

「初対面なのに?そういえばお姉ちゃんってこの家にずっと居たんだよね。ってことは・・・」

「私のことはいいからっ!早くお風呂入っちゃいなさい!」


 お姉ちゃんとは関わりが長い。というわけではないがここまで慌てているのも初めて見た。慎也くんと会ってからお姉ちゃんの新しい一面が見れることに私は嬉しくなるとともに、それを引き出した彼に少しムッとしてしまう。

 そういえばお姉ちゃんとここまで会話したのも初めてかもしれない。仲が悪いというわけではなかったし会話もしなかったというわけでは無かったのだが基本はお互いに無関心。食事が終わればお互い部屋に引きこもってしまうだけの間柄だったはず。


 私はお風呂に入る準備をしてリビングに向かう。

 そこにはテーブルにすわるお姉ちゃんと膝の上で伏せっているモモの姿が。


 「お姉ちゃん」

 「あら、まだ入ってなかったの?モモは夕方シャワー浴びたから連れてかなくていいわよ」

 「私、慎也くんに一目惚れしたよ」


 それじゃっ。と私は身体をひるがえしてお風呂に向かう。

 中学では憧れから入って姉妹になってからはずっと支えてくれていた。お姉ちゃんがどう思ってるかは知らないけど、そんな姉相手でも負けたくないと思えることができた。

 お風呂へ向かう私の足取りは軽いものだった------

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