079.祭りの日~その2~
テンプレって大好きです。
「うわぁ…………」
誰かが目の前の光景に対して声を漏らす。
祭りの会場に着いた俺達は入り口からほど近い橋で立ち止まっていた。
会場を見下ろすと人、人、人。さすがここらで一番の祭りと言うべきか、入り口より向こう側にある会場……川の湖畔は人で溢れかえっていた。
「お姉ちゃぁん……ホントにこの中に入っていくの……?」
「何のために来たのよ…。行くしか無いでしょう」
優愛さんと優衣佳さんはあまりこういう場に来なかったのだろう、人で溢れかえった光景に圧倒されている。
「懐かしいですね~! 去年もこんな中2人で周りましたねっ、慎さん!」
「そうだっけ……なんか去年よりも人多くなってるような……」
雫と来た去年と違って人が増えている気がする。前はまだ空白があったような……
「慎也くん、これのせいかも?」
「これ?」
「ん」
俺が去年のことを思い出していると翔子さんがどこからか持ってきたのかチラシを一枚手渡してくる。
なになに……『初開催! スペシャルLIVE 』?
「………なにこれ?」
「今人気のアイドルが、ステージで歌ってくれる…らしい?」
確かにそのチラシに映されている顔には見覚えがあった。最近CMとかでよく見るアイドルだ。個人名どころかグループ名すら知らないが。
「お兄ちゃん……今日の花火、大丈夫?」
紗也が俺の袖を掴みながら不安そうに見上げてくる。
そう、今日の祭りは前座、本命はその後に行われる花火大会だ。花火を存分に見るためには有料席と無料席があるが有料席は1人5千、10人のファミリー席でも4万と、学生からしてみれば簡単に手が出せる代物ではない。
去年はなんとか潜り込むことのできた無料席だが今回の人の多さを鑑みると少し難しいかもしれない。
「……大丈夫だよ。ちゃんとみんなで楽しめるようにするから」
おさげを崩さないよう優しくその頭を撫でる。
たとえ無料席がダメでも見られる場所はいくらでもある。最悪そこら辺の公園にでも行けば、低く上がる花火は見れずとも空高く上がる花火は十分見られるだろう。
「それより、紗也がはぐれたら大変だ。俺でも他の人でもいいからちゃんと手をつなぐんだよ?」
「うん………」
紗也は俺の手を固く握りしめる。他の4人はまだ対応力があるが紗也は心配だ。絶対にはぐれさせないようにしないと。
「よぉし!覚悟できたよ! 早く行こっ!」
「優愛さん、もういいの?」
「うん!もし何かあっても慎也くんがなんとかしてくれるって信じてるから!」
優愛さんはどうやら心構えができたようだ。隣にいる優衣佳さんを見ると同じく準備できたようで笑顔を返される。
「そうね、心配事があるとしたら優愛が屋台の食べ物を食べ尽くすことくらいかしらね」
「も~!そんなことしないよ! …………高いし」
確かにこういうお祭りの場の食べ物は総じて高い。
でも優愛さん、そうじゃなかったら食べ尽くすつもりだったの?
「雫に翔子さんもいい?」
「もちろんです!慎さん、エスコート頼みますね!」
「私もいい。よろしく」
雫は紗也とは反対側の俺の手を、翔子さんは昔と同じように背中の服を掴み、準備万端といった様子で返事をする。
「じゃあ、みんな迷子にならないようにね」
俺たち一行は覚悟を決め、祭り会場である人混みに立ち向かっていった。
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「……………あれ?」
おかしい。これはおかしい。
気がつけば俺は1人きりになっていた。周りに知っている人は誰もいない。
「紗也~~~!!」
声をあげてみるも返事をする人は皆無。これは………
「迷子……か……」
みんなが迷子だ。みんなが俺からはぐれて迷子にになってしまった――――
嘘。 俺が迷子になってしまったのか……認めたくない現実を認め、今一度状況を確認する。
辺りは相変わらず人に溢れている。特にここらは件のステージがあるという会場にほど近いから人も多い。
目印になりそうなものは無く、ステージも目印にするには少し遠い。そして肝心のスマホも電波が届いていなかった。
「とりあえず、避難するか」
ずっと道のど真ん中で突っ立っているのも具合が悪い。俺は流れから逸れるように動き人の少ない場所まで移動することにした。
「ここまでくれば大丈夫でしょ」
着いた先は屋台裏手の暗がりで人もチラホラとしか見えない位置。もう一歩足を出せば川にドボンとなる。
ここで俺がはぐれてしまった経緯を思い出す。
たしかみんなで楽しんでいる最中、優愛さんがはし巻きに夢中になってはぐれかけた所、俺が呼びに行こうとして人の流れに飲まれたんだっけ………自分ではぐれないよう言っておきながらこうなってしまうなんて情けない。
「紗也は大丈夫かな……?」
今一番心配すべきは紗也だ。呼びに行く直前優衣佳さんに預けたとはいえ自分の目の届かない場所にいると不安でたまらなくなる。
「「はぁ………」」
不安をごまかすように大きくため息を吐く。
「「ん?」」
さっきのため息が誰かと被った気がしてそちらに目を向ける。
そこには夏だと言うのに暑そうな黒いロングコートを着、黒縁メガネにキャスケットを深く被った…女性?……不審者が居た。
「だれ!?」
その不審者に驚いて後ずさりしたのが失敗だった。俺は足を踏み外して大きく体勢を崩してしまう。
「!?」
「あっ! ちょっと!!」
バチャンッ!!
と、その場に水しぶきが舞った。
浅くて助かった。俺は川の中で盛大に尻もちをつき、助けようとした不審者は俺にまたがる形で俺の両肩に手を置いている。
体勢を崩した際に落ちてしまったのだろう。不審者のキャスケットが川に流され俺の胸元に二房の髪の毛があたっている。
「え~と………大丈夫?」
いつもみんなの猛攻を受けてて助かった。俺はそんな状況でも冷静を保ち彼女の身を案じる。
「…………はっ! ご、ごめんなさい!!」
彼女はしばらく固まっていたが状況を理解したのだろう。その2本の足でしっかり立ち、俺を見下ろす形になる。
メガネで少しわかりにくいが外国の……いや、ハーフ? スラッとした鼻立ちに遠くからのライトに照らされた碧い目、そして綺麗な金髪を紗也のように二箇所で結んで前に流している。
そんな彼女がしばらく俺を見下ろしていたが身につけていたもの…キャスケットが無いと気がついて頭を何度か触り、辺りを見渡し始めた。
「ない!帽子どこ!?」
俺も川の中立ち上がって辺りを見渡す。川に流されたのは見えたから後ろかな?
…………あった。俺の後方数メートル、少し流されて川に自生している草々に引っかかっていた。
これ以上濡れても今更だ。川の中をそこまで歩いていき帽子を拾って汚れをはたく。うん、水もあまり染み込んでなくて良かった。
「はい、ごめんなさい。少し濡れちゃってますけど……」
「ありがとう……いいのよ、すぐ外しちゃう予定だったし」
彼女は帽子を受け取り濡れるのを厭わずまた深くかぶり直す。
「とりあえず、早いとこ川から出ちゃいましょ。キミだってこれ以上濡れたく無いでしょ?」
「あっ、そうだね」
彼女に従って川から上がった俺たちはさっきの場所でお互いに体育座りをして川を眺める。
「すみません。…俺を追って川に飛び込んでくれたんですよね?」
「いいのよ。私の姿を見て驚いたんでしょう?」
「はい……」
そりゃそうだ。誰だって真夏の暗がりにコートを着た不審者が居たら怖がるに決まってる。
「私がここにいた事はヒミツにしてくれる?」
「え? あっ、 もちろんです」
俺も彼女たちを待たせてるし通報して更に時間がかかるのは避けたい。
「ありがと。 それで、なんでこんなところでため息なんかついていたのよ?」
「はい、それが――――」
俺は今まであったことを大まかに話した。友人とはぐれたこと、妹が心配なこと、最悪花火までには戻りたいこと。
「――――それは大変ね。でも、こんなとこにいたら余計見つからないんじゃない?」
「……たしかに………」
彼女たちはこんな暗がりは避けるだろう。ここに来たのは失敗だったか。
「それで、そちらはどうしてあんなため息を?」
俺の話を聞いてもらった手前、同じく彼女に問いかける。
「私? えぇ………頑張って有名になって、いっぱい来てくれるのはいいんだけどどうしてもセンターになれなくて……」
彼女はそこらの小石を綺麗なフォームで川に投げながら答えてくれる。
センター? 今女子でもやってる人が多いっていわれてる野球の話かな?
「センター、ですか……ちなみに今のポジションは?」
「ポジション……?あぁ、今は左側よ。知ってるでしょう?」
すみません、野球はあんまり知らないんです。センター志望なのにレフトは大変だろう……
「レフトですか……大変でしょうに……」
「今のファンは英語で言うのね……そうよ。マネージャーに言っても聞く耳持ってくれなくって」
そりゃあマネージャーにそんな権限は無いでしょう。監督に言わなきゃ。
「マネージャーじゃなくってもっと上に言ってみないんですか?」
「もっと上!? そりゃあ……言いたいけど……普通無理でしょ?」
そうなの?野球部事情は詳しくないけど強豪とかになるとマネージャーを通さないとダメなのかな?
「それなら……ひたすら頑張って実力を見せつけるしかないでしょうね」
「やっぱりそうよね………うん。頑張って圧倒的な実力見せつけてセンター昇格してみせるわ!」
彼女は力強く握り拳を作って天を仰ぐ。
「はい!頑張ってください!応援してます!!」
「ありがと。 ……話を聞いてもらって助かったわ。人に悩みを聞いてもらうってこんなに気が軽くなるものなのね」
「そう言ってもらえて嬉しいです。目指せ、甲子園ですね!」
「えぇ、目指せ!甲子園……って、………へ?甲子園?」
「え?」
俺の言葉が不味かったのか困惑したような驚いたような不思議な顔をしてこちらを見てくる。女子野球って甲子園じゃないのかな?
「えっと……なんの話をしてるのか……わかってる?」
「えっ……野球の話ですよね……?」
彼女は俺の言葉を受けてから手を口元に当て、何度か考える仕草を見せた後、暗がりなのに顔が赤くなっていくのが感じ取れた。
「ごめん………ちょっと溺れてくる………!!」
「え!? ちょっとまってぇぇぇぇ!!!」
俺はいきなり川突っ込んだ彼女を追うために、もう一度川に飛び込んでいった。




