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006.姉 そしてシャワー再び

「いらっしゃい。優愛、友達?」

「うん。さっき色々あって助けてもらったの」


 女性が驚きの表情を見せたのは一瞬だった。

 すぐに平静を取り戻し川瀬さんの隣に座る。


「私は川瀬 優衣佳(かわせ ゆいか)。優愛の・・・同い年の姉よ」

「俺は前坂慎也。同じく4月から高校だけど、同い年・・・?」


 俺は思わず二人を見比べる。

 彼女の身長は俺の目元に届くくらい綺麗な黒髪を肩甲骨まで伸ばしている。モデル体型とでもいうのだろうか、出るところは出て引っ込むとことは引っ込み、スタイルの良さがひと目でわかる。正直川瀬さんと全く似ていない。


「はぁ・・・・・えぇ。私が5月、優愛が3月生まれなの。あと、私のことは優衣佳でいいわ」


 なるほど。それなら辻褄が合う。


「それで、優愛。助けてもらったって何があったの?」

「うっ、うんっ。それはね・・・・・」


 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――


 川瀬さんが一通りあらましを説明する。その間優衣佳さんは自分のコーヒーと俺達のおかわりを淹れてから話を聞いていた。


「――――――前坂君、優愛のせいでごめんなさい、怪我までさせてしまって。治療費は後日になるけど当然こちらで持つわ」


 説明が終わった後、優衣佳さんはコーヒーを一啜りしてから頭を下げる。


「俺の不注意で勝手に怪我しただけだし・・・」

「いえ。元はと言えば不注意だった優愛の責任だわ。後日領収書を持ってきて頂戴。ちゃんと対応するから」


 そう告げる優衣佳さんの意思は頑なだ。この姉妹の一度決めたら押し通す力強さは血筋なのだろうか。

 俺に拒否権は無いだろうと感じ「わかりました」と承諾する。優衣佳さんの頬が緩んだ気がした。


「さて、前坂くん。そろそろ良い時間だし夕飯一緒にどうかしら?」

「お姉ちゃん!?」


 川瀬さんは驚きの表情を見せ、俺と優衣佳さんの顔を見比べたりして右往左往している。

 時計をみると18時、少し早いがたしかにそんな時間帯だ。

 

「それとも家でもう出来上がってるとか?それなら仕方ないけど」

「いや、家は問題ないよ。けれどいいの?」

「もちろん。優愛は作っている間モモをシャワーに浴びさせてきて。あれから入れてないでしょう」


 優衣佳さんは柔和な笑顔へと変化し、川瀬さんに的確な指示を飛ばす。


「わ・・・わかった。モモー、シャワー行くよ!・・・・・・?モモー!」


 おかしなことにモモは俺の足元から動こうとしない。川瀬さんが持ち上げようとしても必死に抵抗している。


「前坂くんに懐いちゃったのかな?びくともしないや」

「なら、俺もシャワーにいこうか?」



「「えぇ!?」」


 今度は姉妹から驚きの声が。あぁそうか。これは言い方がまずい。


「えっと、その、モモだけがシャワー浴びるなら俺たちは服のままでも良いでしょ。じゃあ、離れないなら俺ごと行けば問題ないかなって・・・・」


 つられて俺も焦りながらの説明になるが二人は得心が行ったのか落ち着いてくれた。


「びっくりしたわ。二人とも一緒にシャワーを浴びる仲かと・・・」

「お姉ちゃん!私達はまだそんなんじゃないよ!!」


 なんだか不穏な副詞が聞こえたがスルーしておく。


「じゃあ・・・前坂くん。お願いします」

「おっ・・・おう・・・」


 川瀬さんが妙に緊張気味で言うからこっちもつられてしまったじゃないか。

 俺がモモを抱えるとびっくりするくらい素直に上がってくれた。このまま川瀬さんにも素直だと良かったんだが。


 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――


 さっきぶりのシャワーの音が浴室内に響く。

 川瀬さんと俺はお湯の張っていない湯船にモモを入れてお互い無言でその体を洗っている。

 二人で小さなモモを洗っているものだから頻繁に彼女の肩と俺の肩が触れ合ってどぎまぎする。表情に出てないと良いのだけれど。


「お姉ちゃんと私ってどうですか?全然似てませんよね」


 唐突に川瀬さんが口を開いた。その目はモモの方を向いて髪で隠れてしまい俺からは確認ができない。

 これはどういう意味だろうか。もし美醜を問われているのであれば地雷が多すぎる。


「似てないといえば似てないかな。川瀬さんは可愛い系で優衣佳さんは綺麗系だしね」


 本心だが当たり障りのないように答える。川瀬さんを見ると手が止まり頬は軽く紅潮している。


「ありがとうございます。でもそうじゃないんです」

「そうじゃないって?」


 求められていた答えではなかったようだ。だが微妙な否定のニュアンスはどういうことだろう。


「私とお姉ちゃんは血がつながってないんです」


 血はつながってないけどお姉ちゃん、か。考えられることとしたら養子や連れ子なのだろう。少なくとも複雑な家庭環境だということは感じ取れる。


「結論から言うと私達は親が再婚した連れ子同士です。お互い片親は亡くなっていて私の母とお姉ちゃんのお父さんが再婚しました。ちなみに、この髪の色は地毛ですよ」


 栗色の髪の毛が揺れる。だから似てないということなのだろう。

 だが一応は今日が初対面だ。そんな事情を話してしまってもよかったのだろうか。


「たしかに。それなら似てないってことも納得いくよ。けどそんな大事な話を俺にしちゃってよかったの?」 

「前坂さんは助けてくれましたし、信頼できますから。会って一日も経っていませんけどそれくらいわかります」


 そのまっすぐな言葉に恥ずかしくなって顔が熱くなる。隣で川瀬さんがクスッと笑うのが聞こえた。

 そのまま川瀬さんはシャワーを止め、タオルでモモを拭いていく。


「続けますね。この家のリビングを見てなにか感じませんでしたか?」


この家で感じた違和感。それのことだろうと一瞬にして理解した。


「多分・・・この家にはものが無さすぎること?生活に必要な家具家電しか無い気がする」


 川瀬さんは「そうです」と大きく頷く。

 そう。この家にはとりあえず生活するために急ごしらえで備えたといった感じのものしか置いていなかった。

 ミニマリストだという可能性もあるが犬を飼うのにそれは厳しいだろう。


「食事のときに詳しく話しますが、再婚してお姉ちゃんと姉妹になりましたが、もう両親はこの世にいません」


 そう伝える川瀬さんはまるで自分に言い聞かせているようだった。

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