050.テスト返却
「お前らテストお疲れ!開放されて喜んでるところ悪いが5教科の採点が終わったから返していくぞー!」
ゴールデンウィークも終わり5月も残すところ1週間と少しのみとなった昼前。中間テスト最後の教科が終わったタイミングで我がクラス担任が採点し終えたテストの返却に訪れていた。
そういえば5教科は昨日で終わってたんだっけ……教室内では返却された人から嘆く者や喜ぶ者など多種多様な感情を表していた。
「慎也く~ん!見てみて~~!!私頑張ったよ!!」
テストの出来が良かったのか優愛さんが飛び跳ねながらこちらへ近づいてくる。
「お疲れさま優愛さん。そんなに良かったの?」
「うん~!ほら見て!平均83点!!」
優愛さんは勝訴を掲げるような持ち方で成績表を自信満々に見せてくる。
なるほど…学年平均は74点、高校最初のテストだからか思ったよりも平均は高かった。そんな中で10点弱も上の点数を取る優愛さんは頭がいいのだろう。
「おめでとう優愛さん、頭いいんだね」
「ヤマが当たってよかったよ~!お姉ちゃんはどうだった!?」
「わ……私は……」
後ろから優衣佳さんもやってきて優愛さんが話を振る。けれど紙を折りたたんだままどうにも端切れの悪い返事をする。
「優衣佳さんもお疲れさま。今回は点数悪かった?」
「いえ、そうではないのだけれど……見てもらえればわかるわ」
そう言って優衣佳は折りたたんだままの紙をこちらに手渡してくる。俺は念の為優愛さんに見えないようにして中身を確認した。
……平均が79…あれ、学年平均を上回っているのだし恥ずかしがることもないのでは。
「いい点数だね。でもそんなに惜しむような点数でも無いと思うよ」
「…私も本来なら平然としてるわ。けれど、ロクに勉強してないように見える優愛より下ってなんかこう……やるせないじゃない!!」
あ~……たしかに今まで一緒にいたが、優愛さんは宿題こそちゃんとやるものの強制力の無いものは一切手を付けていなかったと記憶している。
「私、なんとなく授業聞いてるだけでわかっちゃうんだ…えへへ…」
「これよ!これがやるせないのよ!だから今日の夕飯は優愛の嫌いなものにするわ」
「酷いよ!?私だって頑張ったのに!!」
優衣佳さんの気持ちもわかる。きっと優愛さんは感覚肌で天才肌なのだろう、そして優衣佳さんは努力家と…それは複雑な心境に決まってる。
「まぁまぁ。優愛さんだって頑張ったんだし、ね?」
「…………夕飯の件は不問としてあげるわ」
「ありがと~お姉ちゃ~ん」
優愛さんが優衣佳さんに抱きつこうとして必死に拒否されている。うん、美しき姉妹愛かな。
ほんわかしながらその様子を見ていると不意に俺の服が引っ張られる。この流れは翔子さんか。
「どうしたの?翔子さん」
「呼ばれてる」
「へ?」
「あれ」
教卓の方を見ると先生が俺に来るよう促していた。俺は翔子さんにお礼を言い先生のもとへ向かう。
「お前の周りにはいつも女子が居るなぁ」
「先生まで…テストの返却ですよね?」
「ああ。頑張ったな」
「ありがとうございます」
「次も頑張れよ。 おっとそうだった。すまん、ちょっとまってくれ」
その場で中身を確認して一人心の中ででガッツポーズを取る。表情を崩さず戻ろうと踵を返したところで先生に呼び止められた。
「なんです?」
「大した用事じゃあ無いんだが、この後俺のもとへ来てもらえるか?川瀬姉妹の2人と一緒に」
「2人も?……まぁ大丈夫ですけど……」
「よし、それじゃあ頼んだ。 じゃあ次の人!」
先生はその言葉を最後に次の人を呼んでいく。用事とはなんなのだろう?
「おかえり~!点数どうだった?」
「うん、なんとか目標を達成できたよ」
3人の所へ戻ると優愛さんが結果を促してくるので俺は成績表を広げて見せる。
「え~っと……えっ!?91点!?」
「私の敵はここにも居たのね…慎也君」
「敵って……とりあえず成績上位者って目標は達成できそうだったからよかったよ」
一人暮らしが危うくなるから。
「慎也くんも頑張った、お疲れ」
「翔子さんはどうだった?中学時代は俺の負け続きだったけど…」
「ん、これ」
翔子さんは俺の問いかけに紙を見せることで返す。中学の時は翔子さんに勝ったことがなかったが今回は自信がある。
「えっと……93!?また負けかぁ……」
「これが、元生徒会長の、実力」
翔子さんは誇らしげに胸を張る。平均80点台の二人は拍手を送っていた。
「……翔子さん、恥を忍んでお願いするわ。今度の期末には勉強を教えて貰えないかしら?」
「わかった。任せて、厳しくいく」
「私は厳しいのはイヤだなぁ…」
優愛さんが小声で話すが聞こえたのは俺だけのようだ。
「今回の学年平均は74点だ!期末ももっと頑張れよ!それじゃあ解散!!」
成績表が全員に行き渡ったようで先生のよく通る声が教室内に響き渡り、クラスメイトは散り散りになっていく。
「中学と違ってだいぶアバウトなんだねぇ」
「そうなの?優愛さん」
「うん。あっちは所謂お嬢様学校だったからさ。テストの返却もすっごい静かだったよ~。みんながお姉ちゃんをもっとお嬢様にしたって感じで」
「なるほどねぇ」
俺はそれを聞いて兼島さんを思い出した。確かにお嬢様といえばあんなイメージ…こちらの学校に慣れた身としては息苦しいだろう。
「あの時は何も思わなかったけど、今戻るとなったらきっとやっていけないわね。優愛もそう思うでしょう?」
「ムリムリ!私どういうキャラだったっけなぁ~…その点翔子ちゃんなら向こうでもやっていけそうだよねっ!」
「……テストはともかく、じっとしてるだけなら、なんとか」
「勉強でもきっとやっていけるよ~!そうだっ!今日時間ある?これからどこか行かない?」
「いい…… おっと」
テストの開放感に俺もやられたのか優愛さんの提案に安易に乗りそうになった。そういえば先生に呼ばれているというのに。
「ん、大丈夫」
「私はもちろん平気よ。慎也君は?」
「ごめん、先生に呼ばれてるんだ。優衣佳と優愛さんも一緒に来てほしいって」
「「私たちも?」」
全く予想したいなかった二人はキョトンと目を丸くしていた。
校舎最上階の突きあたり。
そこには科学室が存在している。科学の授業では当然そこを利用するが授業外では立地も相まってほとんどの生徒が立ち入らない場所。
その科学室の隣、科学準備室が我が担任の根城にしている部屋だ。俺たちは初めて入るその部屋に少しドキドキしながら扉を開く。少し薄暗い部屋の中では先生が1人パソコンに向き合いながら何か作業をしていた。
「おう、お前たちか。待ってたぞ」
「失礼します。呼んでいたと聞いてきました」
「あぁ、入ってくれ」
俺たち4人は部屋中央に設置されているテーブルの上にカバンを置いていく。
「ここの部屋、初めて入ったけどなんだか色々な物が置いてあるわね」
「こらこら触るなよ?いくら貴重なものが無いとはいえ割れたら面倒だ」
優衣佳さんは道具や薬品等に目を配るが先生が釘を刺す。以前割られたことでもあるのだろうか。
と、ここで優愛さんがとあるものに気づいて目を輝かせた。
「あ~!お菓子がある~!」
「それはお前たち生徒が来た時に餌付けするために準備したものだ。一つだけなら食っていいぞ」
「わ~い!ありがとうございます~!」
優愛さんは机の上に置いてあるクッキーを俺たちに配り一枚口にする。それにしても餌付けて。
「それで先生、私たちを呼んだ理由はなんでしょう?」
クッキーを食べ終わった優衣佳さんはハンカチで口元を拭った後今回の本題に入る。
「ああ、それなんだが……お前達、これから時間あるか?」
「? ええ、ありますけど…」
先生の質問に優衣佳さんは困惑した表情を見せる。
「井野は呼んでなかったが…時間大丈夫か?」
「平気」
「そうか……お前たちにはこれから別の学校に届け物をしてもらいたい」
「届け物、ですか?」
「ああ、本来なら俺たちがなんとかしなきゃいけないんだが週末にある体育祭の準備で手を離せなくてな……今日の15時には必要らしいから郵便も間に合わない…ということでお前たちを頼りたい」
先生はA4サイズの封筒を手にしながら説明をする。15時か…これから昼食を摂って行っても十分間に合いそうだ。
「配達はわかりました。なぜ私たちなのですか?」
優衣佳さんは更に質問を続ける。
「それはお前らが一番向こうについて知ってるからな。行って貰いたい学校は――――――」
「「えぇ………」」
側にいる2人からから心底嫌そうな声が聞こえる。
先生が口にした学校は2人の母校であった――――――。
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