003.橋下での救出劇(後編)
「これ、残り距離もわからないし真っ直ぐかどうかもわからないな」
モモを抱えながらどうやって戻るか。
来たときの泳ぎ方だと確実に溺れさせてしまう。
だからスピードは落ちるが安定性。モモを胸に抱いてから背泳ぎで戻ることにした。
「ウゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・」
「やっぱり怖いか?もうちょっとの辛抱だから我慢してくれ」
唸り声のやまないモモを慰める。
この泳ぎ方だとさっきと比べて会話は容易だな。
首を曲げれば残り距離くらいはなんとなくわかりそうだ。
・・・・・っと、みえた!案外もうすぐ、残り3割程度だな。
残り距離も僅かだとわかり気が弛緩したのだろう。
腰が下がる感覚があり、同時にモモを水に引きずり込むようなかたちに―――――――
ガブッ!!!!
強烈な痛みを覚え姿勢をもとに戻した。
ここで泳ぎを辞めなかったのは練習の賜物か。
なんだ!?何が起こった!?
痛みを堪えながら状況把握に務める。
―――――赤い。
胸元あたりから水が赤みがかっている。
手だ。
よく見るとモモを抱えている左の掌から赤い液体が流れ出ている。
沈みかけた拍子にかぶりついたのだろう。自覚したとたん叫びたいほどの痛みに襲われるがまだ我慢できる・・・・・・!
「ごめんな。もうちょっとで溺れさせるところだった」
「・・・・・・・・・・・・」
右手で頭を撫でるがモモからの返事は無い。
しかし唸り声もやめたようだ。俺はそのことに安堵しつつ泳ぎ続ける。
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「モモ・・・・・・!」
距離を確認することもなく泳ぎ続けると不意に頭上から声か聞こえた。あの子だ。
背中が壁に当たる感覚があり上を確認すると、あの子涙を堪えながらが手をついているのが見えた。
さて、陸に上がってと・・・・・・・あれ?水面から案外高いぞ?
上まで30センチってところか。これはモモを抱えながらじゃ難しい高さだ。仕方ない。
俺は川底に足をつけ、鼻下までかかる水に耐えながら無言でモモを掲げる。
・・・・・・重さがなくなった。持ってくれたようだ。
「あの・・・その手は・・・・・・!」
「え?あぁ」
右手で身体を支えながら答える。・・・・って痛い痛い痛い!!
アドレナリンが切れたのか、今更左手が痛みだした。だがここで泣き叫ぶわけにはいかないから必死に顔を取り繕う。
「だ・・・大丈夫。悪いんだけど上がる時、腕を持って支えてくれない?」
「は、はい!」
コンクリの地面に手をつけるなんて相当痛いし。
そう言って彼女はリードを手首に通してから俺の左手首を両手で持つ。
柔らかい手の感触とその手の温かさに少しフリーズしてしまったがすぐに我を取り戻し、タイミングを合わせて陸地に上がる。
ようやく戻ってこれた。体感2時間くらい泳いでいた気がする。
「すみません。私のせいで」
その子は申し訳無さそうに顔を俯けている。
「平気平気。家帰って処置すれば問題な・・・・・・クション!」
「ごめんなさい。あの・・・・・・」
さむぅ!!さすがに春とはいえ川入ると寒すぎる!!
一刻も早く帰ってお風呂入らないと・・・・・・
「あの、私の家で手当てしていってください!!」
その言葉を発する主は涙をこらえながら意を決した表情だった。