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030.突然の来訪者

 教室は静寂に包まれた。

 全員扉のほうに顔を向け、教室に現れた来訪者の動向を見守る。

 

「失礼します!前坂先輩はいらっしゃいますか!?」


 クラスの目線を意に介さないように来訪者は声を発し、教室内を見渡す。

 その言葉を聞いたクラスの面々は一斉に興味を失って昼食や談笑に興じる。一部「またアイツか」と聞こえた気がするがきっと気のせいだ。

 そして、俺の姿を捉えた”彼女”は俺の元まで小走りでやってくる。


「慎さん!どうして先週一度も来なかったんですか!!」

「えぇっと・・・久しぶりだね。卒業式ぶり?」

「はい!本当に久しぶりです!慎さんが卒業する前はあんなに一緒に居てくれたのに卒業した途端連絡もくれず・・・・・・私との時間は遊びだったって言うんですか!?」


 一気に教室の気温が氷点下へと下がった気がした。今まで談笑してきた人もこちらに顔を向け、冷たい目でこちらを見ているような気がする。

 特に圧を感じるのは俺のすぐ後ろに居る人達から・・・・・・怖すぎて後ろを見ることは叶わないだろう。


「「・・・・・・慎也くん(君)?」」


 この姉妹の圧がホント凄い!今まで発していた声とは比較にならないくらい低い声が出ている。

 この場を打開できるのは俺だけ・・・今まで育んできた脳を総動員しこの場を収める手法を即座に考える!


「とりあえずここじゃアレがアレだから・・・・・・・場所移動しよう!!」


 三十六計逃げるに如かず!俺は彼女の腕を取り一目散に逃げ出・・・・・・教室を出る。ちゃんと出るルートも計算済みだ。途中智也の横を通り小声で「後は頼んだ」と丸投げする。彼女が俺の移動に従ってくれたのは不幸中の幸いだ。何の障害も無く教室を後にすることができた。




 着いた場所は食堂。教室から出られればどこでも良かったがここなら生徒も多く、俺たちを見つけ出すことは困難だろう。決してさっきまで身体を動かして空腹が限界だったからなわけではない。

 俺と彼女は適当に食券を買って食事と交換する。そして食堂の奥の方にポッカリと生徒の居ないスペースがあったのでそこに二人とも腰を降ろした。そういえばここは最初の授業の日、四人で食事をした席だったか。


「・・・・・・それで、なんで俺の教室まで突撃を?」

「そんなの慎さんが体験期間だっていうのにずっと来ないからに決まってるじゃないですか。あ、ちなみに教室での言葉は狙ってやってみましたっ!いやぁ、教室ってあんなにも気温下がるものなんですね~」

「やっぱり・・・・・・」


 彼女は頭をかきながら笑顔で答える。やっぱり確信犯だったか。


「たしかに連絡しなかったのは悪かったって思ってるよ。でもアレはちょっとインパクトありすぎなんじゃ無いかな・・・」

「私も言ってからビックリしましたよ~。慎さんの後ろの方々と目合わせたく無かったですもの・・・あ、この魚美味しいですよっ!ほら、あ~ん!」

「・・・・・・」


 そう言ってこの後輩は俺と同じメニューであるにも関わらず魚をこちらに差し出してくる。俺が動かないことに痺れを切らしたのか今度は身体を乗り出してくる。


「ほらっ!あ~ん!!」


 俺が食堂からも逃げ出しそうになったところで――――――突然現れた人物がパクッっと差し出された魚を口にした。


「あ~!」

「むぐむぐむぐ・・・・・確かにおいしいねっ!」


 魚をかっさらったのは優愛さんだった。彼女はいつもと変わらぬ笑顔のまま横に座って俺の方に向き直る。


「慎也くん。突然走り出すなんてビックリしたよ~。何かあったのかな?」

「あの・・・優愛さん・・・・・・圧が」

「ん~?私はいつもと変わらないよ~。そんなに汗垂らしてどうかしたのかな?」

「えっと・・・その・・・」


 優愛さんが笑顔のままこちらへ顔を近づいてきた。その距離はだんだん近づいて言ってあと10㎝になったところで、いきなり彼女の顔が後ろに下がる。


「優愛、やりすぎよ」

「あっ・・・・・・ごめんなさい慎也くん・・・つい周りが見えなくなっちゃって・・・」


 優愛さんを引き戻したのは優衣佳さんのようだ。彼女はそのまま優愛さんの隣へ座り、あとから翔子さんもやってくる。


「・・・久しぶり。隣、いい?」

「あっ会長さん、お久しぶりです。構いませんよ」

「だから、会長じゃ・・・・・・いいや、もう」


 翔子さんは後輩の隣かつ優愛さんの向かいに腰を降ろす。期せずしてまたあの時のメンバーがこの席へ集結した。一人増えてはいるが。


「慎也君、教室では驚かせてごめんなさいね。よく考えたら慎也君が女の子を遊んで捨てるような人じゃないってわかるもの」

「さすがにそこまでは言ってなかったような・・・けど、わかってくれて嬉しいよ」

「えぇ。それで慎也くん、この子は?後輩なのはわかるけれど・・・」


 すこし優衣佳さんの言い方にトゲがあるのを感じたが、今は場を引っ掻き回した後輩を紹介するのが先決だろう。


「この子の名前は水川 雫。一個下の中三で俺が中学までやってた水泳部のマネージャーだよ」

「はいっ!お二人ははじめましてですね!水川 雫といいますっ!!」


 彼女――――雫はその場で立って頭を下げる。それにつられたのか他の三人も立って頭を下げる。

 彼女の身長は翔子さんよりほんの少しだけ高いくらい・・・さっき147㎝って言ってたから150㎝くらいか。頭を下げた際にシンプルなハーフアップの髪が垂れ、軽く色落ちした髪色が太陽光に反射して光っているように見える。もう一つ彼女の特徴を一つあげるのならば制服からでもわかる胸部の大きさだろうか。その大きさは優衣佳さんには負けるものの優愛さんを越し、セーラー服の下の部分に拳が余裕で入るくらいの空洞が出来ている。

 雫が頭を戻した時にその胸が少し揺れ、それを見た翔子さんが自分の身体と比べて絶望した表情を浮かべているが見なかったことにする。


「そうだったんだ・・・よろしくねっ雫ちゃん!私は川瀬 優愛っていいます!・・・ところで、教室でのアレはどういうこと?」

「よろしくおねがいします優愛先輩。アレはですね・・・ごめんなさい。慎さんには言ったんですがちょっと爆弾落としたらどうなるかなぁって・・・そしたらお二人の顔が豹変して――――――――――」

「雫ちゃん!その辺にしとこうか! 慎也くん、私豹変なんてしてないからねっ!!」

「うっうん・・・大丈夫だよ。ビックリしただけだもんね」


 優愛さんは雫の言葉を聞いて突然慌てだす。あの時凄い圧を感じたが一体どんな顔をしていたのだろう・・・


「私は優愛の姉の優衣佳って言うわ。よろしくね、雫さん。ところで、私の顔もおかしかったかしら?」

「優衣佳先輩ですね。よろしくおねがいします!はい、先輩の顔はですね・・・」


 雫は身体を乗り出して二人になにか耳打ちする・・・・・・・その後二人は静かに座り、顔を手で覆ってしまった。


「それで・・・どうして教室に?」


 翔子さんが冷静に軌道修正してくれた。こういう時彼女の存在は心強い。


「はい。それはですね、先週から部活の体験期間じゃないですか。なのに中学では水泳部だった慎さんが一向に現れないから迎えに来たんですっ!」

「それについてはごめん!連絡し忘れてたよ・・・・俺、高校で部活に入る予定ないんだ」

「えぇ!?どうしてですか!あんなに頑張ってたっていうのにっ!!」

「・・・話の途中にごめんなさい。慎也君はそんなに部活動で活躍してたのかしら?」


 立ち直った優衣佳さんが割り込んでくる。いつの間にか彼女たちの側にはお弁当箱が広げられていた。


「はい!慎さんは大会で輝かしい成績は無かったですが、ずっと練習頑張っていて、三年になると県の指定強化選手にも選ばれてたんですよ!何故か慎さんは蹴っちゃってましたが・・・」

「俺も嬉しかったけどさ、さすがに補欠的な扱いで選ばれてもね・・・いい成績だって残せてなかったし」

「でも、黒髪だったのがそんな茶色になるくらい頑張ってたじゃないですか!」

「えっ!?慎也くんのその髪って地毛じゃなかったの!?」


 今度は優愛さんが問いかけてくる。彼女の広げているお弁当はもう7割が無くなっていた。


「これは色が落ちただけだから・・・地毛っていうのかな?一応、染髪はしてないよ」

「そっかぁ。残念だなぁ・・・おそろいの髪色だと思ったのに・・・」


 優愛さんはその前髪をいじりながらお弁当をつまむ。

 確かに彼女の髪は綺麗な栗色をしている。俺から見たら地毛でその色は羨ましい限りだ。


「俺はその栗色の髪の毛好きだよ。伸ばしてみてもきっと似合いそうだよね」

「そ・・・そう? そっかぁ・・・伸ばしてみようかなぁ・・・えへへ・・・」


 彼女はそう言って残ったお弁当をかきこんでいく。

 どこまで話は進んだっけ、と思い返し始めたところで翔子さんは一度咳き込みをして場の空気を整えてくれる。


「・・・話を戻しますね。慎さん、どうして部に入らないんです?」

「うん・・・俺は今一人暮らししてるんだ。両親は海外出張で俺も連れて行かれそうになったのを無理言って残ってる状態。こっちに居続けるには良い成績残さなきゃなくって。家のこともあるのに部活まで俺には手が回らないから、ね」


 包み隠さずその理由を答える。


「そう・・・でしたか・・・ちゃんとした理由があるのなら私にとやかく言う資格はありませんね。でも・・・・・・先輩はいつでも遊びに来ていいですからね?また時間がある時やムシャクシャした時にでも来てくれると、嬉しいです」

「うん。わかった。遊びに行くよ」

「はいっ!絶対ですよ!!」


 雫は満面の笑みで答える。そんな時、次の授業を知らせる予鈴が食堂中に響いた。


「お互いの知己、として来たけど、問題なかった・・・ね」


 翔子さんが静かにお弁当を片付けながらそう漏らす。


「ううん。翔子さんが居てくれて心強かったよ。何があっても解っててくれてる人が居るって凄く助かった。ありがとう」

「そう・・・よかった」


 彼女は一足先に教室へと戻って行ってしまった。その後優衣佳さんと優愛さんが片付け終わったのか俺の肩を叩く。


「とりあえず、何も無くて良かったよ~。私たちも先戻ってるから、二人とも授業遅れないようにねっ!」

「うん、わかった。二人ともビックリさせてごめんね」


 二人は笑顔で答えて食堂を出ていった。俺たちもお皿を片付けて早々に戻らないと・・・


「慎さん。あの2人のどちらかと付き合ってるのですか?」

「んん゛っ!?唐突にどうしたの・・・いや、付き合っていないよ」

「そうですか~・・・・・・ううむ・・・・でもあの目は・・・・・・」


 今度は一人で考え事をしているのか黙り込んでしまった。それでもきっちり片付けはこなすものだから器用なものだなと感心する。


「慎さん!!」

「どうしたの?」


 食堂を出て少したった辺りで雫が唐突に切り出してきた。授業開始まで残りわずかだからか、周りには誰も居ない。


「私、何号さんでもいいですからねっ!!」

「・・・・・・・・・・・・・? どういうこと?」


 俺が聞き返した時には、既に彼女は顔を赤くして走り去ってしまっていた。


会話部分も含めると出したい登場人物はこれで全員出てきましたね。

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