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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第1章

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019.元生徒会長

 昼休み手前の休み時間。この時間になると空腹が限界になる人が多いのかこっそりお菓子を口にする人がチラホラ出てくる。

 これまでの授業は簡単なものだ。入学して初日の授業だからか先生の自己紹介や授業の方針、中学の復習程度のリハビリ授業だった。

 それじゃあ、と俺は席を立ち教室の前方へ向かう。そこの一人で本を読んでいる生徒に声をかけることにした。


「井野さん。ちょっといいかな?」


 声をかけた生徒は井野 翔子(いの しょうこ)。自己紹介では生徒会長を努めていたと言っていた女生徒だ。

 全体的に幼い雰囲気を残しており、目は軽くタレ目掛かっている。綺麗な黒髪を耳後ろで束ねて前に寄せたローポニーテールが幼い雰囲気とのギャップを感じられる。

 中学時代は一番世話になり、信頼しているので今回も頼る魂胆だ。


「・・・どうしたの?」


 彼女は自己紹介の時の元生徒会長らしいしっかりした雰囲気など嘘かのように、クールな様相で返事をしてくれた。


「お願いしたいことがあるんだけどさ、川瀬さんは覚えてる?姉妹でこのクラスにいるんだけど」

「・・・・覚えてる」

「二人とも外進だからさ、俺も含めた4人でお昼一緒にしたいんだけどどうかな?」


 言外に外進だからまだ友達が居ないという意味を込めたが通じてくれただろうか。

 ちなみに智也も誘ったが断られてしまった。昼休みは学校を抜け出して外で食べてくるそうだ。


「外進・・・そう。」


 目元まで伸ばした前髪が縦に揺れる。ちゃんと伝わったようだ。


「なんで・・・前坂くんが仲を取り持つの?・・・付き合ってたり?」


 ・・・たしかに1日でここまで仲良くなるのは不思議だろう。


「二人とは入学前から知っててさ。友達だから仲を取り持つのは当然だよ。それに付き合うなんて、俺が釣り合わないよ」

「・・・そう、わかった。中学では・・・お世話になったしね」

「ありがとう!でも、むしろ俺が井野さんに助けられたことしか無いと思うんだけど・・・」

「わからないなら・・・・・・いい」


 そう言って井野さんは顔を本に落としてしまう。とりあえずお昼の予約は取れたから一安心だ。おっとそういえば・・・


「髪型、変えたんだね」

「うん・・・変?」

「そんなことないよ。凄くよく似合ってる」

「・・・・・・ありがと」


 こちらから顔は見えないが右手が髪の毛先をクルクルといじっている。少なくとも気分を害しているわけではなさそうだ。

 彼女は以前まで優衣佳さんのようにストレートにしていたが入学のタイミングで今の髪型に変わっていた。女性は髪型が変わるだけで印象も変わるから驚いた・・・そんなことを思いながら俺は自身の席に戻っていく。


 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――


「慎也くん~!お昼たっべよ~!」


 昼休み。授業が終わってみんなを呼ぼうと席を立った途端、優愛さんが俺の席へお弁当を持ってきた。優衣佳さんも一緒だ。


「優愛は4時間目始まった辺りから空腹が限界みたいで・・・さっそくいいかしら?」

「少し待ってね。あとは井野さんを呼んでこないと・・・」

「もうここにいる・・・」

「?・・・・・・うわっ!!」


 後ろを振り向き目線を軽く下げると、真後ろに井野さんが立っていた。思わず俺は飛び退いてしまう。


「井野さん・・・いつの間に?」

「ちょっと前から・・・作戦成功」

「作戦って・・・やっぱり脅かそうとしてたのか」


 彼女は優愛さんよりも背が低く、小学生と間違われたことも多いと本人から聞いたことがある。俺から見たら頭一つ分は下になるので中学時代は後ろから近づかれて驚くことがたびたびあった。


「井野さんは食堂?」

「・・・うん。」

「わかった。二人とも、食堂でいいかな?実は俺も食堂の予定だったし」

「は~い!案内よろしくねっ!」




 この学校の食堂は中高共に計6学年が利用するためなかなかの広さとなっている。さすがに全生徒を収容できる大きさではないが、過去3年間ここを利用してきた限り席が埋まったことは無いくらいには余裕がある。食堂の手前には購買があり惣菜パンや簡単なデザートを購入することができる。当然お弁当の持ち込みも許可されていて、昼休みには学生が様々な食事を楽しんでいる。


「それじゃあ二人とも、悪いんだけど俺たちが料理を受け取る間、席の確保をお願いしていいかな?」

「わかったわ。ほら、優愛、いくわよ」

「あっ!お姉ちゃんまってぇ~!」


 優愛さんは着いた途端食堂のメニューを食い入るように見ていた。そんな彼女を置いてくように優衣佳さんは空いてる席を探しに行き、優愛さんが急いで後を追う。


「俺たちも急いで買いに行こうか」

「ん・・・」


 俺と井野さんは揃って食券を購入し、受け取りのための列へ並ぶ。伊野さんも俺と同じ定食を選んだようだ、俺の後ろにピッタリ付く。


「いつも一人で静かに居たのに、迷惑じゃなかった?」

「ううん・・・こういうのも嫌いじゃない・・・それに・・・」

「それに?」

「半日しか見てないけど・・・二人はきっといい人だから・・・前坂くんが信頼しているみたいだし」

「信頼・・・実のところ俺も会ってまだそんなに経ってないんだけど、そうなのかな?」

「貴方は・・・わかりやすいから」

「? わかりやすいってな――――――」


 質問を続けようとしたところで食堂の人の呼ぶ声が聞こえて俺の料理が提供される。同じものが二つあるということは井野さんのも同時にできたようだ。


「待たせるのもいけない。行こう」


 彼女はそう言って席をとってくれている二人のもとへ先々歩いていった。

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