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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第1章

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017.午後3時の昼食

 時刻は午後3時。一般的にはおやつの時間とも言われるがこれから遅めのランチとなる。今食べすぎると夕食が食べれなくなると思いセーブしようと思っていたが優衣佳さんが作ったサンドイッチは存外量が多く、3人で食べるとしても少し頑張らなきゃいけないなと覚悟していたのだが――――――――


「ん~!美味し~~!!」


 一人夕食など関係あるかというように相当量食べている入学したての明るい女子高生がいた――――――そう、優愛さんだ。

 彼女は両手でサンドイッチを持ち、交互に美味しそうな表情を見せてサンドイッチを頬張っている。普段ならあぁ、可愛いな。で終わる話なのだが時刻が時刻なので不安しか無い。


「優衣佳さん。あの量大丈夫なの?」

「あれね、驚くべきことに平気なのよ。アレだけ食べてもまた夕食時にはお腹すいたってひょっこり現れるのだから。でもどこに吸収されてるのかしら・・・」


 たしかにあまり食事を取っていないのにスタイルの良い優衣佳さんが見ると優愛さんのあの体型の維持は不思議だろう。

 優愛さんのスタイルはどちらかというとスレンダータイプだ。いや、まったく無いわけでは無いのだが隣に座っている優衣佳さんと比べるとどうしてもスレンダーと言わざるをえない。しかし出るところは出て、引っ込むところは引っ込むという健康で理想的なスタイルをしている。服の上からだからあくまで目安だが。


「それで前に聞いたのよ。痩せるためになにかしてるのかって。そしたら何事もなさそうに「太らない体質じゃない?」って言ったのよ!私は世の中の不条理を感じたわ・・・」


 優衣佳さんは体型の維持のため相応の努力をしているのだろう。もはや何も言えない・・・


「ふぅ~。ごちそうさま!」


 そう言っている間にサンドイッチが全て食されてしまったようだ。結局優愛さんが全体の5割ほど食べたことになる・・・恐るべし。


「優愛さん、すごく美味しそうに食べてたけど足りたかな?」

「うん!お昼が遅かったからいつもより多めに食べちゃったけどちょうどよかったよ!」


 優愛さんの満足そうな笑顔を見たら細かいことはどうでもよくなってくる。


「それにしても一人暮らしとは聞いてたんだけどこんな良いマンション?に住んでたんだね!」

「そう。私も思ったわ。けどキッチンの器具等からして以前までご家族と暮らしていたのかしら?」

「マンションで合ってるよ。家族の件は優衣佳さんの予想通り、3月まで一緒にいたんだけど父の会社の都合でね。母と妹を連れて海外に旅立ったんだ」


 二人ともほう・・・と息を吐く。優愛さんが「一人暮らし良いなぁ」と小声で言っているのが聞こえたが、そちらも二人暮らしでそう変わらないだろうに。


「よく親御さんは許してくれたわね」

「元々この家は残すつもりだったからね、それに父が後押ししてくれたんだ。高校生にもなるんだったら一人暮らしの苦労を味わうのがいいって。妹も残りたがってたけど女の子だし危険だからって連れてかれちゃってね」


 そう・・・もしも妹と暮らしていたら昨日なんて家から一歩も出られずにずっと看病という名の監視をされていただろう。下手すれば入学式すら出られなかったかもしれない。


「妹さんいいな~!私も妹ほしかった~!」

「あら、じゃあ私が妹になってあげましょうか?今度から毎日の料理お願いね、お姉ちゃん」

「・・・やっぱりお姉ちゃんが居てホントよかったよ!!」


 優愛さんは妹が欲しいのか。もしウチの妹と会わせたらどうなるのだろう・・・引っ込み思案なところもあるし人懐っこい優愛さんならば案外上手くやっていけるかもしれない。



 それからある程度談笑を続けていた時、ふと優衣佳さんが切り出してきた。


「慎也君。私達はクラスのみんなことよく知らないのだけれどどう?この子の髪の色とかイジメられないかしら?」

「内進生しか知らないけれど、国際コースは面接で問題ある人は落とされてるから大丈夫だよ。それに髪の色でイジメられるなら真っ先に俺の髪が言われてるしね」

「中学のときはイジメられこそしなかったけど物珍しいのか近づいてくる人は少なかったからさ~」


 優愛さんが困ったように言う。たしかに亜麻色の髪が地毛というのは珍しい。俺も茶髪だけど何も言われたことはないからきっと問題無いだろう。


「それに力を貸すって言ったから。今日最初に自己紹介してた人。あの人ならきっと仲良くなれると思うよ。それを足がかりにみんなと、ね」


 それを聞いて優衣佳さんは安堵したのか背もたれによりかかる。


「やっぱり妹の心配するなんて良いお姉ちゃんだね」

「そうでもないわよ。あんまり良いお姉ちゃんしてなかったわ」


 なんだか妙なニュアンスの返しだ。


「慎也君は病み上がりだしそろそろお暇しようと思うのだけれど、夕飯は作れそう?」

「あ、うん。身体は楽だし材料も買ってくれたしね」

「そう、よかったわ。優愛!外ばかり見てないで帰るわよ!」


 いつの間にか窓に近づいて外の風景を見ていた優愛さんに呼びかける。優衣佳さんは極力外を見ないようにしているようだ。


「わかった!お姉ちゃん、帰りの廊下はどうするの?」

「うっ・・・!また優愛にエレベータまでお願いしてもいいかしら?」


 その時優愛さんは口の端をニヤァッと取り上げた。なんだ?身震いが・・・・・・


「私は食べすぎてお姉ちゃんをつれていけません~!なので、慎也くん!お姉ちゃんをエレベータまで引っ張ってってもらえないかなっ?」

「うえぇ!?」


 変な声が出た。優愛さんの顔を見ると今までにない笑顔でニヤニヤしている。確信犯か!


「・・・・・・慎也君。お願いしても?」

「・・・・・・わかりました。エレベータまでですよ」



 それから帰り支度をして靴を履く。優愛さんは一足先に出ていってしまった。


「それじゃあ、よろしくおねがいします」


 優衣佳さんが手を差し出す。俺はそのスタイルとはアンバランスな白くて細い、綺麗な手を取り扉を開ける。その瞬間ヒッと小さく息を漏らすが歩きだすと顔を下に向けながら恐る恐る着いてきてくれる。


「大丈夫?もう半分くらいだから頑張って!」

「えぇ。いずれ慣れなきゃいけないのだし、乗り越えなきゃ帰れないものね」


 そのままチラチラと外を見ようとはしているみたいだがそのたびに顔を青くして背けてしまう。


「お疲れ様!なんとか無事ゴールにたどり着けたね!」


 エレベータ前で優愛さんが迎えてくれた。それを見て安心したのだろう。優衣佳さんはしゃがみこんでしまう。

 予めエレベータを呼んでいてそれから利用者がいなかったのだろう。7階でエレベータが待機していた。


「慎也くんもありがとねっ!そしてこれからも学校でもよろしく!」

「優愛さんも、よろしくね」

「最後に迷惑かけたわね、ありがとう。近いうちになんとかするわ・・・」

「迷惑だなんて。ゆっくり慣れていこう」


 それじゃあ、とエレベータの扉を挟んで三人は手を振り合い、そのまま二人は下に降りていく。


「優愛さんの意図はわからないけど、やっぱり優衣佳さんの手は柔らかかったなぁ・・・」


 俺は慣れきった高さの廊下を歩きながら、独り感想を漏らして家の扉を目指していった――――――

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