016.恐怖症とサンドイッチ
優衣佳さんが高所恐怖症。正直意外だ。
この家は10階建てマンションの7階に位置している。正確な高さは知らないが20メートルほどだろう。
廊下の片側は窓の無いタイプだがそれでも手すりが胸元ほどあって下が見えづらいから恐怖症の人でも大丈夫かと思っていたが・・・
「お姉ちゃんたらエレベータ降りてから動こうとしなかったから私が手を引いたんだけど、手すりからギリギリまで離れてずっと下を向きながら歩くものだから―――――――」
「慎也君、中に入れてもらえないかしら。外が見えなかったら平気だから・・・」
優衣佳さんが優愛さんの言葉を遮るように発言するが、顔は下を向いたまま動かず、声も心なしか震えている。これは相当怖いのだろう。
「玄関前でごめん。どうぞ上がって」
二人から買い物袋を受け取り中に招く。すると優愛さんが手を引き、背中を擦りながら共に中へ入っていく。これは帰る時同じ道を通るのだが大丈夫だろうか。
「・・・・・・中に入れば大丈夫よ。心配かけたわね」
「お姉ちゃんが高いとこダメなんて意外だなぁ」
「私も驚いたわ。なにせ高所に行くこと自体これが初めてだもの。下から見上げるのと全然感覚が違うのね」
高いところの何が怖いかを語っている優衣佳さんをそこそこにリビングへ案内する。
「優衣佳さん、ここは大丈夫?窓ガラス越しに外が見えるけど・・・」
「ありがとう。これなら平気そうよ。ただベランダに出ると無理そう」
二人はリビングのソファに腰掛けながら辺りを見渡している。掃除もしたし変なところは無いはずだが。
「思ったより片付いてるんだね~。男の子の家って初めてだからあれだけど、もっと物が散乱してるんだと思ってた」
「あなたの部屋みたいにね」
「お姉ちゃん!!」
「ふふっ、玄関で余計なことを言った仕返しよ」
やはり二人はずっと昔から一緒にいる仲睦まじい姉妹のように見える。最近一緒になった血の繋がらない関係と言われても信じられないくらいだ。
っと、微笑ましく思ってる場合じゃない。コーヒーでも淹れないと。
「それじゃあゆっくりしてて。俺はそこのキッチンにいるから」
「あ、私もいいかしら。材料買って来てるし一緒に遅めのお昼にしたいんだけど」
「いいの?お昼どうしようか悩んでたんだ」
「何かしら作らないとそこの妹が空腹で倒れてしまうからね」
優衣佳さんがちらっと優愛さんを見るとタイミング良くクゥー、と小さなお腹の音が。優愛さんの顔は火を吹きそうなほど真っ赤に染まっている。
「なるほど。それじゃ、優愛さんが倒れてしまう前に作らなきゃね」
俺は優衣佳さんをキッチンへ案内する。キッチンはリビングの隣の小さな空間にあり、詰めれば二人でもなんとか活動できるくらいの広さだ。
「綺麗に使ってるわね。それとも一人暮らしになってからお弁当ばかりとか?」
「ちゃんと料理もしているよ。昨日も肉じゃが作ったしね。でも、油ものは処理の手間もあるし作ることはないかな」
そうだったわね。と優衣佳さんは納得をする。
「材料買ってきたって言ってたけど何を作る予定なの?」
「あんまり時間もかけられないし、サンドイッチにするつもりよ。包丁とか借りていいかしら」
「あ、うん。冷蔵庫に入ってるのも自由に使っていいよ」
優衣佳さんは手際よくサンドイッチを作っていく。手を出せる雰囲気じゃないし今のうちに買ってきてくれたものを冷蔵庫に詰め込んでしまおう。
「たまごフィリングが無かったのが残念だったわ。定番なのに」
「たまごフィリング?」
「たまごサンドの中身のあれよ、ゆで卵をつぶしたやつ。家で作ると時間かかるのよね」
あぁ、と俺は得心する。そもそもあれってスーパーに売っているものだろうか。
「・・・・・・・・・よし、できたわ。簡単に挟んだだけなのが少し悔しいわね」
どうやら優衣佳さんは料理に対してこだわりがあるようだ。出来上がったのを見るとカツサンドやハム&チーズレタスサンド、キュウリ&ハムサンドなど、短時間で作ったとは思えない品々が並んでいた。
「すごく美味しそうだ。こんな早く出来上がるなんて・・・」
「ありがと。スーパーで出来合いを買って挟むだけだから誰でもできるわよ」
「手を出す隙も無いほど効率的に動いてたし、慣れてるんだね」
「料理に関しては、だけどね。他は全然よ・・・あ、飲み物買い忘れてたわ」
「それならこっちで用意するよ。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「コーヒーでお願いするわ。私もあの子もコーヒー派なのよ」
「よかった。俺もコーヒー派で」
あまり優愛さんを待たせるわけにはいかないので電動のミルでさっと豆を挽いてコーヒーを用意する。
「よしできた。じゃあ、遅めのランチといこうか」
俺たちはソファーでスマホを触っている優愛さんを呼んで遅めの昼食にすることとした―――――




