013.クラスと自己紹介
入学式は滞りなく終わり、後はホームルームを残すのみとなった。
「今日から1年間担当を務める平田だ。後日クラス委員なども決めてもらうがとりあえず今日は明日から始まる授業の説明と必要な書類を――――――」
先生の話を聞きながら配られた書類の中に目を通すと年間予定表が目に留まる。
入学直後のテストはないのか。なら1年生に主要な行事は体育祭に文化祭・・・・・4月に林間学校は早すぎないか!?
「あと、今月末に1泊2日の林間学校があるからな。と言っても親睦を深めるためのもので勉強とかじゃないから、遊び道具はバレないようにしろよー!」
俺の疑問に答えるかのようなタイミングで先生が補足説明をする。そんな適当でいいんだ先生。
「最後に自己紹介をやってもらう。そっちの出席番号1番から頼んだ」
そう言って先生は教卓から降りて扉前に体重をかける。入れ替わるように1番の人がやってきて自己紹介を始めた。
「井野翔子です。中学ではこの学校の生徒会長を努めてました。よろしくおねがいします」
席に戻っていく井野さんを見て生徒たちから拍手が起こる。次は2番、つまり智也の番だ。
「大外智也。部活はサッカーをやっていたが高校ではわからん。よろしく」
かなりぶっきらぼうな自己紹介だこと。先生も書類と顔を見比べてるじゃないか。
智也は中学のころからあんな感じだけど極度のあがり症なだけで、今回はまだ喋れたほうだ。
それから何人かの自己紹介が終わる。次はあの姉妹の番か・・・
「川瀬優愛で~すっ!次に来る優衣佳とは同い年の姉妹で妹のほうです!出身中学は――――――」
緊張など微塵も感じさせないかのような完璧な自己紹介だ。笑顔がキラキラ輝いている。
教室はそれを見てざわめく。「可愛い・・・」だとか「さっき言ってた中学ってあの女子校のだよな」とか。さっき言ってた中学校、あの学校はここらで唯一の女子校かつ中高一貫校だったはず。つまり内進せずにこちらに来たということになる。
そんなざわめきを意に介さないように自己紹介を追えた優愛さんは姉の優衣佳さんにバトンタッチをする。
「川瀬優衣佳です。先程挨拶した優愛の姉で出身中学も同じです。よろしくおねがいします」
あくまで簡潔としたものだった。そしてクラスメイトのことなどお構いなしに席につく。教室内では「姉は美人さんか・・・」とか「スタイル良すぎるだろ」などとざわめいている。次の人はざわめきに圧されて行きあぐねているようだ。
「静かに!!まだ人は残ってるんだから雑談は後にしろー!」
平田先生の一喝で教室に静寂が戻る。その様子を見て安心した次の人も動き出していた。
更に数人の順番が終わり、次は俺の番となる。ふと姉妹の方を見ると優愛さんが顔の前に両拳を持っていってぐっと握りこぶしを作っている。頑張れってことか。軽くうなずいて俺は席を立つ。
「前坂慎也です。中学はここと同じ内進でした。部活は入ろうか悩み中です。よろしくおねがいします。」
パラパラと機械的に拍手が生まれた。どちらかというと俺も緊張するほうだしこんなものだろう。席に戻り応援してくれてた優愛さんを見ると親指を上に立てウインクをしている。・・・・・・励ましなのか称賛なのかどっちなのだろう。
―――――無難な自己紹介の時間が終わり先生が教卓へと上がる。
「それじゃあこれで終わるが、明日からの授業の準備しておくんだぞ!それじゃあ出席番号1番、号令頼む」
「はい。起立。礼」
井野さんの号令により空気が和らぐ。この後遊ぼうと友人と計画を画策する者や真っ先に教室を駆け出す者なの反応は様々だ。先生は黒板の文字だけ消して早々に教室を出ていってしまう。さて、俺は何をしようか・・・
「いかにも無難な自己紹介って感じだったわね」
「いや~!良い自己紹介だったよ!かっこよかった!!」
今日の今後のことを考えていると姉妹が正反対の感想を述べながら俺の席へ近づいてくる。
「俺にとっては半分以上知ってる人だしね。二人とも、出身中学初めて聞いたんだけどあそこって・・・・・・」
「ええ。中高一貫よ。私が外に出たかったから優愛を連れてこの学校にしたの」
「・・・そうか」
優衣佳さんは何事もなさそうに答える。その表情からは何も読み取れない。これ以上追求するのはやめておいたほうがいいだろう。
「それにしても簡潔だったな」
今度は智也が近づいてくる。
「智也のほうがよっぽどだったよ」
「俺はああいうキャラだからいいんだよ」
「あがり症をキャラと申すか」
「よし、次のゲームではボコボコにしてやる」
「今日決着つける?」
「今日はデートがあるからパス」
デートと申すかリア充め。智也と遊ぶときは基本向こうの家でゲームだ。宣言されたら本当にボコボコにされるんだよなぁ・・・・・・
「じゃあさ!今日は私達と遊びにいかない!?お昼も食べに行きたいしさ!」
優愛さんがそう提案してくる。
「いいね。それじゃあこれから街に行ってお昼でも食べよう――――――」
その提案に乗って席を立った瞬間、立ちくらみが。思わず机に手をついて治まるのを待つが一向によくならない。むしろだんだん視界が狭くなって――――――
「慎也!!!」
智也の叫び声を最後に俺は意識を手放した。
 




